scene26 ファミレスにうちゅうじん

「ふう」

 僕はドリンクバーからアイスコーヒーを持ってきて座ると、思わずため息をもらしてしまう。

 

 完璧な形には程遠いけど、教室からはなんとか脱出できた。

 そしてすぐさま、そそくさと四人でファミレスにやってきたのだ。

 

 持ってきたアイスコーヒーを飲む。

 白いストローの中を濃い褐色が上がる。

 一息つくと、冷や汗や早足の汗が引くのがわかる。

 クーラーが効いていて、窓の外だけ見ると暑いことを忘れてしまう。

 

 脱出の空気作りに協力してくれたのは知香だった。

 家が近いし、昨日日本に着いたばかりだし、親戚だし、ということを吹聴してくれたのだ。

 多分に説明臭いセリフではあったけど、知香の勢いもあり、とりあえずその場ではクラスのみんなも納得してくれたようだった。

 

「おつかれさま」

 目の前の知香が、僕に声をかけ、ねぎらってくれる。

  

「全くだ。こんな注目されたくないし」

 と、相手が知香なこともあり、気持ちに素直に話してしまう。

 

 僕の隣に座っている山本さんが頭を下げた。

「なんか、その、わたしのために、いろいろすみません」

 

「いやいや、山本さんが悪いわけじゃないから」

 僕は言い訳しつつ、山本さんへの配慮をしてなかった自分の甘さを反省する。

 

「なー、注目されるのは、優人のポリシーに反してるもんな」

 斜め前の大介が、軽く笑いながら茶化してくる。

 

 僕は今更何を確認してくるのだと、

「まあな」

 と、興味なさげな口調で短く応えた。

 

「で?」

 すぐさま大介が追いセリフを繰り出した。

 

「ん?」

「聞かせろよ」

 大介が訊きたいことは、もちろんわかっているが、ここはとぼけてみる。

「何を?」

 

「本当のところをだよ」

「ああ。本当の話な」

 僕は少しもったいぶって間を取った。

 

「本当はな……」

 と、更に時間を使う。

 

「本当は……山本さんは宇宙人なんだ」

 

「ええ!」

 驚く知香。

 ……どんだけ素直なんだよ。

 

「そ、そんな!ち、ちがいます!」

 と、慌てる山本さん。

 山本さん……こっち側の立場でいてほしいです。

 

 知香は知香で、

「な、なにを言ってるの優人?」

 と、わたわたしていて、

 山本さんは山本さんで

「ゆーとさん、わたし、わたし」

 と、両手を左右に振っている。

 

 大介はというと、

「ははは」

 と、引きつった笑いをすると、

「おい」

 と、頬杖をついたまま、僕をにらんだ。

 

 大介は僕に向かって続ける。

「冗談だったら、もう少し面白いのを頼むぜ」

 

「冗談?なんのことだ?大介が欲しいのは冗談ではなくて本当の話だろ?」

「そうだ」

「だって、本当だろ?地球人だって宇宙人の一部だ」

「……そういうことじゃねえだろ」

 

 大介の顔が更に曇る。

 けど、そんなことは気にしない。

 

「それとも、大介?お前は地球人は宇宙人とは異なると?地球人は特別だと?全宇宙人が協力し始めたとしても、例えその連合の敵になったとしても、地球は別路線を進むと?」

 僕は多少早口に話しをする。

 

 大介は面白くなさそうに、

「そんなことは言ってないし、興味もない。地球人とか宇宙人とか、ましてや他人ひとの話をしているわけじゃない。お前の話をしてるんだ」

 と、跳ね返した。

 

 僕はもっともらしい顔をしてうなずく。

「なるほど。確かに"人"の定義をしないとな。例えば犬も、地球上の生物というだけで、宇宙人という範疇に入ってしまう可能性があると。そう言いたいわけだな」

 

「優人……」

 いつもの冗談だとわかったのか、早とちりを終えた知香が、ため息とともに僕の名を呼んだ。

 

「ひょっとすると、知香も大介的な考えの持ち主なのか?」

 僕は知香を向くと、今までの調子で応える。

 

「ちゃんと話さないなら、わたしが話すけど?」

 知香が、眉間にしわを寄せた。 

「学校で。みんなのいる前で……ね」

 

「……わかったよ。そのまま大介に話すのは、面白くないかなと思っただけだよ」

 僕はしぶしぶ納得する。

  

 普通に話したら、大介の性格からいうと、大いに勘ぐりされるし、大騒ぎされるのが見えている。

 だからから”前説”的なことをして、その流れでさらっと伝えたかったんだけだけど。

 

 コミュニケーションは難しい。

 せっかく、考えたのになあ。

 

 目論見的にはですね……。 

『山本さん、実は宇宙人なんだ』

 ↓

『なるほどー。ってそんなわけあるかい』

 ↓

『で、いろいろあって一緒に住んでるんだ。宇宙人だから一緒に住んでいるのか、一緒に住んでいるから宇宙人なのかって話だけどな』

 ↓

『なんだそりゃ』

 っていうような会話にしたかったんだよなあ。

 

 

 

 

 

 

 で、最後に、

 ↓

 ↓

 ↓

『だって、うちに住んでいる友人だから”うちゆうじん”じゃん』

 とかね。

 

 

 

 

 

 

 ……苦しいかな?

 まあ、そもそも友人というよりは、親戚みたいなものっていう設定なんだけども。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る