scene13 風呂上がりの攻防?高坊?

 

 今日はいろいろあったなあと、宙を見る僕は居間にいる。

 要は風呂から上がって、畳の上でくつろいでいる。

 もっと言うと、つまりは、ぼーっとしている。

 

 ぬるめのお湯の中でゆったりするのは、暑い日だからこその心地よさだ。

 夏の一日を終えた身体は相応に汗まみれになっていたわけで、けだるさとともにシャワーに洗い流された感じだ。

 

 もちろん風呂場から出る際は、いつも以上に気をつかった。

 

 僕はそんなに怠け者なほうではないので、基本的に家の中も清潔にしている(つもりだ)。


 祖母はまめでしょちゅう掃除をしていた。

 鍋なんかもピカピカになるまで磨いていたしガラスも毎日拭いていた。


 そんな大きな家でもなく、二人での生活だから綺麗にし続けられたのだろうとも思うけれど、それでもやっぱり心地よく過ごすためにいろいろしてくれていたのだなあと感謝する。

 

 祖母が亡くなってから二年半ほどになる。

 実践的な意味合いだと、一人の生活になったのはこの春からだった。

 

 今日は半年ぶりくらいに、僕以外の人間がこの家にいることを実感している。

 

 何か余計なものがあるような気がする反面、自分以外の気配に安堵する感じも悪くはない。

 

 廊下に足音らしき気配が出ると

「お風呂いただきましたー」

 山本さんが居間にやってきた。

 

 つやつやな頬はちょっと赤くなっていて、ほくほくとした表情で部屋着になっている。

 

 シンプルな白いタンクトップに黒い軽い生地のショートパンツという格好だ。

 ショートボブの湿った髪に、すっと伸びている白い手足。

 

 ……うん。

 ……山本さんに尋ねられた通り、僕は男子高校生でした。

 ……ちょっと刺激が強いかも。

 

 そんな気持ちを知ってか知らずか山本さんは話を続ける。

「お湯に浸かるっていいですねー、向こうだとシャワーばかりなもので」

 

「うちは祖母の影響で夏でもお湯を張るんですよ」

 

「ぬるめな感じもとてもよかったです」

 早くも定位置となった、ちゃぶ台の山本さんの部屋側に座る。

 

「すみません、気が回らなくて、シャンプーも僕と同じものになってしまって」

 

「ゆーとさん、全然大丈夫ですよ。むしろ貸してもらってありがとうございます。これも気に入りました。ただ髪が細いので違うシャンプーの方が良いかもと思いましたが」

 

「そうですよね、明日にでも買いに行きましょう」

 

「はい、お願いします」

 山本さんが軽くお辞儀をした。 

 と、漂ってくるシャンプーの香り。

 

 同じものを使ったはずなのに、シャンプー以外の何かも混じっているのか、とても良い香りになっている。

 

 そこでどぎまぎしてしまう僕は、やっぱり健全な高校生男子なわけで。

 

「でも、日本は水が柔らかいので、髪の毛がとてもしっとりとした感触になりましたー」

 

「ふむ。水が柔らかい?」

 

「そうです。日本は軟水なのですね」

 

 イギリスで入れた紅茶の方が美味しいとか聞くのも、そういうことに関係しているのかな?

 

 と、山本さんは僕の右側に座りなおした。

 

「?」

 

「ほら、触ってみてくださいよ」

 それほどは長くない髪の毛の端を持ち、無邪気に無防備に顔を寄せてくる。

 

 またふわっと良い匂いに包まれるから、僕は座りながら後ずさりをしてしまう。

 

「触ったところで、元がどうだったかわからないから比較できませんよ」

 なんて、離れた言い訳をしてみる。

 

 避けたぶん、にじり寄ってくる山本さん。

 

「でも、しっとりなんですよー、ゆーとさん」

 

「いや、その」

 僕は縁側へと立ち上がる。

 

「もう、ゆーとさん、いじわるですねー」

 

 ……どっちが意地悪なんだか。

 

 山本さんも縁側へやってきて僕の隣に立った。


 他に話題を作って誤魔化したいのだけど、こういう時に限って目立つ月が出ていないから、僕からは言葉が出ない。  


「素足で畳が気持ちいいです」

 僕の視線は素直に脚へと向かう。


「風も気持ちいいですね」

 髪をかきあげると小さな綺麗な耳の全貌が現れるから、ドキドキする。


「日本なんですねー」

 風呂上がりの山本さんを包んだ服が風で揺れるものだから、僕は身体の線を意識してしまう。







 そうなんです。

 やっぱり、僕はれっきとした高校生の男の子なのでした。

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