普通に会いましょう

名野映

 mimi:

 へえー。

 あそこのダンジョンってそんな行き方があったんですね。

 だけどわたしとしては、かれこれ三年もネット友達をしてきたケイさんと今更好きなゲームの話をして、しかも同じマイナーゲーをやりこんでいたことがとにかく驚きです。

 やっぱりダンジョンの隠しルートにはレアなモンスターがいたりするんですか?



 kei:

 レアモンスター、いるよ。

 何がいるかは、ここで書いて楽しみを奪わないほうがいいかな。

 まぁ、もうだいぶ昔のゲームだ。現在熱心にプレイしていないのなら詳細に書いてしまってもいいだろうけど。

 というか、もう三年になるのか。

 君が当時は中一で、僕が高一か。

 何がきっかけでこのようにメールのやりとりをするようになったのか、もう忘れてしまったな。

 しかも今はもっと手軽な短いメッセージのやりとりがネットコミュニケーションの主流だというのに、なぜこんな文通めいたことをしているのかもよくわからないね。

 僕にはなんとなく、君に対してはメール、というイメージがあるから全くこれで構わないんだけど。



 mimi:

 そうですね。

 今熱心にプレイはしていませんけど、仮にしていたとしても、わたしはネタバレは気にしない派です。

 とりあえず、押し入れからゲームを引っ張り出してきて、隠しルートに行ってみます。

 もしかして、ゲームのバージョン違いで入手できるモンスターも違いますか?


 このやりとりのきっかけですね、わたし覚えてますよ。

 というか、ケイさんが忘れてることが地味にショックですね。

 桜山大付属高校と県立校のどっちがいい高校かという質問をわたしが質問サイトに上げて、県立校生のケイさんが回答をくれたんですよ。

 エスカレーター式でそのまま桜山大付属にいくか、学費の安い県立校にいくか、ちょうど父の会社の経営が怪しくなった時期だったから、迷っていたんです。

 結果、会社は持ち直して学費の心配もいらなくなり、さらにケイさんのアドバイスも手伝って、今は付属にいるんですけどね。


 本当、文通のようで、時代遅れな感じがしますね。

 でも、わたしもケイさんとはこれが一番しっくりくる気がします。

 他の友人とは、リアルでもネットでもあまり考えずに、パターン化された会話ばかりしているので、別にそれが悪いわけでもないですが、長文のメールを送れる相手は貴重だと思っています。



 kei:

 そうか。

 そうだったね。

 確か、僕はあのとき君に、県立校だけはやめておけと言ったんだ。

 どこが悪いのかと具体的な話を要求されて、僕は「ここには書きにくいことばかりだから書けない」と書いた。

 すると君は「それなら」とアドレスを教えてきて、このやりとりが始まったんだった。

 あのときは教師やクラスメイトの愚痴等、ひどいメールばかり送ったね。

 まぁ、付属の方に進学したのはどう考えても正解だと思う。


 パターン化された会話か。

 一見上辺だけの関係の象徴のようで、ああいうのは実際、高度に息が合わないとできない、そんな気がするのは僕だけかな。

 君とのメールは、急がなくていいのがいいね。

 だいたい一日から長くて三日返さなかったりするけど、他の知人にはそうはいかないものな。


 察しの通り、隠しルートにいるのはバージョン限定モンスターだ。

 ネタバレOKだったね。ゲームソフトが男バージョンだと天使のモンスター、女バージョンでは悪魔のモンスターが入手できる。

 どちらも強いよ。



 mimi:

 あの愚痴は、わたしはそんなに愚痴とは感じませんでした。

 むしろ事実をありのままという感じで、純粋に情報として受け取れましたよ。

 それに、わたしが県立校に行かない決め手になったのは、結局のところ授業の質なんですが、クラスメイトや教師の質の悪さも全部そこに繋がってくるように思えたので、判断材料としてとても役に立ちました。


 そうですね。

 パターンな会話は多分、仲の良さの証明ですね。

 そうやって人間関係に安心感を得られるおかげで、パターンから離れた会話にも踏み出せるのかもしれません。


 じゃあ、わたしは悪魔のモンスターですか。

 ていうか今捕まえました。

 正直、天使の方がいいですね。

 ネットで画像を見たところ、天使の方がかわいくて好みです。

 なんで逆じゃないんでしょうね。



 kei:

 天使と悪魔もそうだし、バージョン限定モンスターが各バージョンの想定プレイヤーと合っていないのは発売当時からよく指摘されている。

 通信交換を前提とした仕様じゃないかな。


 安心感のおかげで他の関係に踏み出せる。

 僕は大学で心理学をとってるんだけどね、心の安全基地という考え方がまさにそれだよ。

 親との関係が良好な子供は積極的に外に出ていくようになる。

 だとしたら、パターン化された友人との会話は、君の原動力なのかもしれない。


 ところで、最近はコンビニで夜食を買うことが多いんだ。

 おすすめのお菓子があったら教えてほしい。



 mimi:

 心理学、面白そうですね。

 私も、大学で学ぶなら心理学かな。


 コンビニのお菓子なら任せてください。

 まずはスマイルマートの細切りポテトスナックチーズ味ですね。

 これがいけるなら、ヨンクスのブランドポテチチーズ味も美味しいはずです。

 チーズ自体が無理ならごめんなさい。


 あの、思いついたんですけど、

 ケイさん、わたしと会って通信交換しませんか。

 わたし、通信ケーブル持ってます。



 kei:

 心理学は面白いよ。

 きっと君にも合ってるんじゃないかな。


 チーズ味は僕の好物だから心配いらない。

 ありがとう、どちらもすぐ試してみるよ。


 通信交換の件だけど、やめておいた方がいいと思う。

 三年間メールはしてきたけれど、人間、文字ではわからないことも多い。

 前にも書いたように、君とはこのやりとりが一番自然だ。

 不自然なことは、したくない。



 mimi:

 そうですか。

 わたし、正直、ケイさんのことを、ある部分では親や友達より信頼していますし、全然平気なんですけど。

 確かに、不自然かもしれませんね。

 わたしも、実際どんなふうに話したらいいかわからないですし。

 ごめんなさい。気にしないでください。

 わたしとしては、ケイさんのことがそれくらい抵抗ないというだけのことです。

 ケイさんの方がわたしのことを無理だったら、本当にすみませんでした。



 kei:

 一応、断っておくけど、僕が君を嫌なんてことはない。

 ただ、僕と会うことは、君のためにはならないと思うだけだ。

 県立校を勧めなかったのと同じようなものだよ。

 君は僕を信頼していると言ってくれたけど、それならなおさら会うのは良くない。

 僕はそんなにいい人間ではないからね。



 mimi:

 それなら、本当に心配ないですよ。

 わたしだってそんなにいい人間ではないです。

 文章からわかるかもしれませんけど、結構暗いヤツですし。

 なんか、他の子みたいに絵文字とか感嘆符で盛るってことができないんですよね。

 ただ、そんなわたしがケイさんには似たようなものを感じたというか(失礼だったらすみません)。

 リアルで話せたら楽しそうだなと思ったんです。

 あえてこんなことを言ってしまいますけど、別に特別な関係とかは期待していませんし、わたしは多分かわいくないので逆に期待もさせないと思います。

 というか、前に少し話したことがあったかもしれませんけど、わたしはまだ恋愛に興味がないんです。

 だからきっと、会っても大丈夫じゃないかと思うんです。

 でも本当にケイさんが迷惑で、やんわりと断っているのなら潔く引きます。

 ただ、わたしは、もし何かの誤解で会えないのなら、それは嫌だなと思うだけです。


 なんか必死ですみません。

 恋愛には興味がないけど、ケイさんには興味があるんです。

 あと、天使のモンスターが欲しい(笑)



 kei:

 僕はレイパーだ。

 君は恋愛に興味がないと言ったが、性については最低限知っているだろうと思う。

 それでも念のため説明するが、レイパーとはレイプをする者だ。

 レイプとは相手を無理矢理、性的に犯すこと。

 もしこれ以上の説明が必要なら、自分で調べてほしい。


 僕はこれまで、君ぐらいの歳の子を含めて、百人以上の女性をレイプしてきた。

 僕は自分の性欲が特別強いとは思わない。

 それでもなぜレイプを繰り返すのかというと、それは習慣になっているからだ。

 そしてなぜ習慣化したかというと、それはこの国でレイプが許されているからだ。

 日本の法律で、殺人や傷害を伴わない純粋な性犯罪者が死刑になることはない。

 それは暗に許されてるのだと、僕は思う。

 きっと被害女性たちも怒りを込めて同じことを言うだろう。

 それに、バレなければ捕まることもない。

 バレないための方法は簡単だ。

 レイプの様子を撮影して、その録画データをばらまくと脅しをかける。

 実際、僕のパソコンにはこれまでのレイプ動画がアップロード一歩手前で保存されていて、僕が毎日パスワードを入れてアップロードをキャンセルすることで拡散を免れている。

 そこまでを説明すれば、被害者は泣き寝入りするしかなくなる。僕が逮捕されれば自分たちの将来が終わることになるから。


 これは犯罪だし、他人を悲しませる行為だけど、罪悪感はないんだ。

 何に罪悪感が湧くかなんて結局人それぞれだしね。

 僕は創作行為に対して敬意を持っているからネット上の著作権法違反動画は絶対に観ないけど、平気で観て友達に勧めたりまでする人もいる。

 でもその人はレイプなんてしないだろう。

 結局これはその程度のことなんだと僕は認識している。


 ところで、今、僕はオナニーをしている。

 今、というのは、この文章を書いている今ではなく、学校が終わって君がこのメールを読む『今』のことだ。

 オナニーというのは何か。

 これもわからなければ調べてくれ。この場で説明するのは野暮だ。

 僕のメールを読む君のことを考えながら、僕はオナニーをしている。

 君自身が自覚しているとおり、君の文体は女の子にしては質素で簡潔だ。

 暗い、と君は自己評価したが、それは謙遜で、実際は冷静な思考力や落ち着きの現れだと僕は思っている。

 そして、恋愛に無関心。性には全く無知というわけではないにしろ同じように無関心かもしれない。

 そんな君が、三年間の付き合いで信頼する相手の、異常性癖を突きつけられる。

 その心の動きを想像して、僕はオナニーをする。

 予想では、君がメールを読了する、その瞬間の君を想像することが、僕に絶頂をもたらすと思われる。


 以上、これらのことを知った上で僕と会うのなら構わない。

 ただし君の身の保証はしない。

 僕が犯した相手は、君と同じようにネットで知り合った子がほとんどだ。

 こんなふうに何年も友達付き合いをしてから犯した子もいた。

 ただ、一度やったパターンを繰り返すのは面白みがない。

 それに君は他の子とはどこか違う印象があるから、こういう告白をしたときにどんな反応をするのか、無性に知りたかった。

 ただ単純に会って犯すよりも、君という人間を味わえると思ったんだ。

 だからこういうやり方をとらせてもらった。


 僕がレイパーである証拠として、これまで撮った動画をまとめて短く編集したものを添付しておく。

 メールを開いてから一時間で自動消去されるから、すぐに見たほうがいい。

 ただ、再生時の音量には気をつけてほしい。


 追伸

 このメールに対して君からどんな返事が来ても、僕は読んだ瞬間に射精する予感しかしない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る