ヒロシ君の花火

ヤギサンダヨ

ヒロシ君の花火

 風のない夏の夜のこと、ヒロシ君は、最後の一本になった線香花火の玉が落ちないように、息を殺してじっと見つめていました。オレンジ色の花火の玉は、フルフルとふるえながら、柳葉のような光を静かに放ち、しだいにその輝きを失っていきました。それでもヒロシ君はその玉を落とさないよう、じっと腕を支えて、「消えないで、消えないで」と念じていました。

 その思いが通じたのか、花火の玉はオレンジ色の明るい色は失いつつあるものの、しだいに白っぽく、そしてやや青みがかった輝く小さな玉になりました。もうフルフルとふるえることもなく、まるで闇に浮かんでいるかのようです。いつも途中で落としてしまうか、最後まで燃えきっても、ただ黒い炭の粒が残るだけなのに、こんなに綺麗に玉が固まったのは初めてです。ヒロシ君はこの美しい花火の玉を、明日学校へ持って行って友達に見せてやろうと思いました。

「そうだ、溶けちゃうといけないから、冷やしとこうっと。」

花火の玉を冷凍庫にそっとしまうと、ヒロシ君は安心して眠りにつきました。

 そして地球は、まもなく氷河期を迎えたのです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ヒロシ君の花火 ヤギサンダヨ @yagisandayo

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ