蹴り壊しGノート

霜花 桔梗

第1話 大ピンチ

 わたしは壊れた総合ウェアブル端末『Gノート』を手に持ちながら図書館の控室にいた。部屋の中は質素で机と幾つかの椅子があるだけであった。


「君、名前は?」


眼鏡をかけている偉い人が詰め寄ってくる。

「えーと、長野歌葉です」

 そう、わたしのこの小さな市立図書館でやらかしたのは『Gノート』を蹴っ飛ばして火災報知器にあたりスプリンクラーから大量の水を出してしまったのだ。

 

 今年は2046年であり、このGノート生活すべてに関わり、わたしは困っていた。複数の廃人ゲームをプレイして、さらに友達や親とのメッセージのやり取りに、高校の授業も持参して必要となる端末であった。


 また、今の時代ではこの端末が無いと電車やバスにも乗れないほど普及していた。


 わたしはGノートに支配される、この社会に対する不満が爆発して、あろうことか図書館の中でサッカーのゴールキックの様に蹴り捨て火災報知器にヒットしたのであった。


「印刷された本はゴミみたいな価値しかないけれどそれなりの額になるよ」


眼鏡を光らせて白髪の偉い人がさらに詰め寄ってくるのであった。


「バ、バイトして還します」


 はあ……。眼鏡をかけた偉い人は一呼吸おくと。


「それならここで働く?」


 え?図書館で……?


 今の時代の図書館は空調が利いているだけで、暇な労働者に、サラリーマンの資料作り、子供の遊び場、受験か資格の勉強など、本を目当てに来る人はいないのであった。


 わたしも今日は『Gノート』に支配された生活が嫌になりふらりと立ち寄ったのであった。また、いわゆる、活字中毒の人種も『Gノート』は立体映像で本の質感を再現していた。つまりは本という媒体は必要なくなっていた。


 そして今のわたしは大ピンチである。


 時代遅れの図書館で働けと言われている。


「少し時間を下さい」

「まあ、一週間くらいは待とう」

「あ、ありがとうございます」


 わたしはようやく解放されて図書館の外に向かった。図書館の周りの木々は冬模様を表していた。わたしはコートを着て外に出る準備をするスプリンクラーで放水というアクシデントも収まっていた。


 帰り際に玄関に並ぶおすすめの本は少し魅力的であった。Gノートも潰れたことだし一冊借りるか……。


 それはわたしにとって初めての紙媒体の読書であった。あれこれと手にしてみて、わたしの選んだ本は『突然のラブストーリー』というタイトルの本であった。

パラパラめくってみると両親が海外転勤で一人暮らしの高校生である主人公の家に死神兼天使のミーサという少女が転がり込む話である。


 男性向けかもしれないが愛に飢えたわたしには丁度いい感じだ。


 えーと、本を借りるにはと……。


『突然のラブストーリー』を手に取って、図書館のカウンターに向かう。


「あ、あの、この本を借りたいのですが……」

「カードはお持ちで?」

 

 黒髪で大人しそうな女性職員に聞くとカードが必要らしい。今時、Gノートから独立しているサービスとは初めての経験である。女性職員さんは後ろから申込書を取り出す。


 へー、ボールペンで書くのか。

 

 わたしは申込書に個人情報を書き込んで職員に渡す。なにかバーコードをいくつか通してカードと交換する。できたばかりのカードで『突然のラブストーリー』を借りるのであった。


「貸出期間は二週間です」

 

 日付の打たれた紙を渡れて本と一緒に受け取るのであった。


 わたしは借りた本を鞄にしまい自転車置き場に歩いていく。冬の風が冷たく感じられて、少し空を見上げる。大きな雲が流れていて季節の移ろいを感じる。わたしは寒さにマフラーを巻いてくればと後悔をする。


 それから、自転車に乗り帰路にたつと少し心が躍った。初めての紙媒体での読書である。


 わたしは改めて『突然のラブストーリー』を見直す、男性向けなので表紙には可愛いミニスカートの少女が描いてあった。


 わたしは自転車で走っていると自販機に目が止まる。今日はゆっくりしようとブラックの缶コーヒーを買うのであった。そう、夜更かしの準備のためだ。



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