カタルシス

カタルシス

【教室にて】「岩又、いい加減にしないか。なんだってそんなにティッシュを使うんだ。それはクラスみんなのために先生がお小遣いで買って、教室に置いてるんだ。君はそれを私物化してしまって、いつも抱えて歩いて、学食まで持ち出して。そんなに鼻水が出るなら、自分専用のティッシュを自費で用意したまえ。」

【寮室にて】ついに今日、怒られてしまった。自分でも申し訳ないなと、少しは思っていたのだが、数日前から急に花粉症になったようで、とにかく鼻水が止まらないのだから仕方ない。いや、少し緑っぽい鼻汁だから、鼻炎かもしれない。ただ、鼻をかめばしばらくはすっきりするし、病院へ行くほどでもないと思うのだが。とにかく定期的に鼻をかまないことには、やってられない。明日からは、自分でボックスのティッシュを持参しよう。それにしても、教師の癖にケチ臭い奴だ。確かに悪いのは自分だが、言い方がムカッと来る。だいたい私立学校なのだから、あんたの給料は俺たちの授業料から出てんだぜ、と思ったらまた、鼻水が出てきた。ティッシュ、ティッシュ。

　　ズルズル、チーンッ。

　ああ、とてもすっきりした気分だ。あれ、今何考えてたんだっけ？何か恨(うら)み言みたいなことを考えていたような。ま、いいか。人生は楽しく前向きに行かないとな。おっと、もう1２時か。英単語テストの準備もここまでやっておけば大丈夫なはず。もう一度だけ、確認して寝るかな。と思ったらまた、鼻水が出てきた。ティッシュ、ティッシュ。

　　ズルズル、チーンッ。

　ああ、気持ちいい。あれ、単語ちっとも覚えてないじゃん俺。一つも覚えてないや。何だったのだ、この２時間に及ぶ努力は。ま、これが俺の実力か。追試は確定だな。おっと、ティッシュ、ティッシュ。

　　ズルズル、チーンッ。

　ああ、さっぱりした。お、急に静かになったぞ。ついさっきまでは、誰かが部屋を出入りする物音や話し声が聞こえていたのに。そうか、昼間体育の授業で1000メートル走の記録会があったから、疲れて皆寝ちゃったんだな。俺が単語覚えられないのも、きっとそのせいだ。おっと、ティッシュ、ティッシュ。

　　ズルズル、チーンッ。

　おっ、停電か。この学生寮で停電は初めてだ。もう、寝るだけだからかまわないけど。というわけで、お休みなさい、と。

　物音ひとつしないし、

　　真っ暗だけど

　　　何時かなあ。

　　　　まだ深夜なんだろう・・・。

　　　　　おっと、ティッシュ、ティッシュ、ティッシュ。

　　　　　　ズルズル、チーンッ。

　　　ああ、すっきりした、けど・・・。

　　　　何だか急に体が重くなったような・・・。

　　　　　　疲れたんだ。気にしないで、もう少し・・・寝よう。

　もうそろそろ目覚ましが鳴るころだと思うが。でも、まだ真っ暗だし、やけに静かだな。おかしいな。あれ、立ち上がれないや。千メートル走、ちょっとこたえたな。おっと、ティッシュ、ティッシュ、ティッシュはどこだ。あった。

　　　　　ズルズル、チーンッ。

ああ・・・、すっきり・・・した。けど、

あれれ、僕は・・・、何で・・・ここにいるのら？

てか、あはははは・・・・・俺は誰なのら？

　　　　　テ、ティッシュ・・・

　　　　ズルズル、ズルズル、チーンッ、チーンッ、チーンッ。

　あ、あ、あ・・・・、

シュッキリし、し、し、し、したけろ、

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　テッスューって、ナニ？

　こうして、岩又君の脳ミソは、大半が流れ出てしまったのでした。