第33話◆蒼汰、北海道で本物の熊を見る その7
◆蒼汰、北海道で本物の熊を見る その7
サキさんが行方不明になってから既に2時間が過ぎていた。
俺は少しでも情報を得たくて管理人のカバ男のことも探したのだが、カバ男をやっと見つけたのはフリーテントサイトにある炊事場だった。
なんでも炊事場の水道の蛇口から水が漏れるので直していたらしい。
俺は妻(サキさん)の姿が見えなくなって、もう2時間近く探していることを伝え、敷地内に危険な場所とかが無いかを確認した。
カバ男は、このキャンプ場には子どもも来るわけで、そんな危ない場所はどこにも無いと言う。
もちろん俺もサキさんを園内中探し回ったし、そんな場所はなかったのは分かっている。 だがもう、藁をもすがる心境だったのだ。
今日俺たち以外にキャンプに来ている人がいないかも訊ねたのだが、こんなに広いキャンプ場なのに他のキャンパーは誰もいなかった。
こうなったら、出来ることは後一つだけ。 サキさんのお母さんに連絡を取ることしかない。
でもサキさんは、まだお母さんにも俺たちが結婚したことを報告していないのだ。
俺は、いったいどうやってサキさんが行方不明になっている現状を伝えればいいのだろうか。
***
さて、時間は蒼汰がタープと洗濯ロープの設営をしている時までさかのぼる。
サキさんは洗濯機の前のベンチに腰掛け、クルクル回る洗濯物を眺めていた。
最初は洗濯物と水が中でバシャバシャ暴れまわっているように見えるのが面白かったのだが、ずっと見ているうちに目が回って気分が悪くなってきた。
そこで、サキさんは売店に何があるか見に行くことにしたのだが、売店に行く途中でカバ男に呼び止められたのだった。
「奥さん、旦那さんから預かっている物があるので事務所まで取りに来てくれませんカバ」
「えっ 蒼汰さんからですか?」
「ええ、さっき奥さんに渡してくれと頼まれましてカバ」
「わかりました」
サキさんがカバ男について事務所に入ると、机の上に50cm四方のダンボールが置かれていた。
「奥さんそれです。 少し重たいから気を付けてくださいカバ」
そう言われてサキさんが、ダンボール箱に手を伸ばそうとした瞬間、いきなりカバ男が後ろからロープでサキさんの体を縛りあげた。
「あっ、何をするんですか! やめてください!」
「奥さん、おとなしくしていれば、何もしませんよカバ」
「いやっ 離してください! 離さないと大声をあげますよ!」
「助けを求めても誰も来ませんよカバ!」
「なんでこんな事をするんですか!」
「うるさいですね。 仕方がない、しばらくこうしていてくださいカバ」
「ああっ」
カバ男は、いきなりタオルでサキさんの口に猿ぐつわを噛ませてしまう。
ムグッ ムーゥ ムムムーーーゥ
「さあ、おとなしくこっちに来てくださいねカバ」
カバ男は、身動きが取れないサキさんを奥の部屋へと引っ張って行く。
事務所の奥の部屋は、倉庫のようだった。 中にはいろいろな備品類がたくさん置かれている。
サキさんは、一番奥に置いてあったパイプ椅子に座らされ、今度はさらにその椅子にも縛り付けられてしまった。
「ここで3日ほど、おとなしくしててもらいますよ。 そうすれば、あたなは完全にけもの化するでしょうカバ。 そうしたら、あなたはここの従業員として働いてもらいますカバ」
ムウーーー ムガ ムガ ムグゥーーー!
「悪く思わないでください。 何しろこの広いキャンプ場をわたし一人で運営していくのは無理があるんですカバ。
わたしも嫌になって、ここから何度も逃げ出そうとしたんですけど、どうしてもこのキャンプ場から出ることが出来ないんですよカバ。
だったら、もうここで働く者を増やして楽をするしかないじゃないですカバ。 ね、そうでしょう?」
そう言うとカバ男は、しっとりと濡れた手でサキさんの頬を撫でながらニヤリと笑った。
第34話「蒼汰、北海道で本物の熊を見る その8」に続く。
※このお話しの中の「山花〇園オートキャンプ場」は、あくまでも想像上の異世界側のキャンプ場です。
m(_ _)m
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