第25話◆告白
◆告白
「サキ、早く言いなよ」 友美さんがサキさんの背中をトンと押す。
「えー でもー」
「そんなに言いにくいのなら、あたしから言ってあげようか?」
「そ、それはだめ。 あたしが自分で言うから」
そう言いながら、サキさんは俺に真っすぐに向き合った。
サキさんの目は何かを決意した時の、力のこもった輝きを放っている。
その目でじっと俺を見つめてくる。
ドキ ドキ ドキ 心臓の鼓動が早くなる。
「蒼汰さん!」
「は、はい」
「あたしと一緒にキャンプしていただけませんか!」
「はっ? いまも一緒にキャンプしてますよね」 俺は一瞬わけがわからなくなる。
「そういうことではなくてですね!」 サキさんは両腕をブンブン振り回す。
「あっ サキさん、ちょっと怒ってます?」
「いえ、怒ってなんかいません。 明日からあたしとずっと一緒にキャンプして欲しいんです」
「なんですと?」
サキさんは、その場で大きく一回深呼吸をすると後を続けた。
「友美は、ああ見えても医大生で、これから講義や実習で忙しくなるため、あたしとキャンプできるのは今日までなんです」
「それで、俺に一緒にキャンプ生活をして欲しいと?」
「だめですか?」 サキさんは、じーーっと無言で見つめて来るが・・
「だめというか・・ 俺はサラリーマンですから、月曜日から金曜日までは普通に会社に行きますよ。
しかも、保安や保全の仕事は、休みの日の作業が多いんです。
だから、サキさんと一緒にキャンプ生活をするっていうのは無理なんです」
すると、サキさんの目にみるみる涙が溜まって行く。 そうだった。 サキさんは普通の人よりたくさん涙がでるのだ。
俺はそれを見て激しく動揺する。
「ちょっと、サキったら。 あたしのこと「ああ見えても医大生」って酷くない」
友美さんがハンカチをサキさんに渡しながら、俺を睨んで来る。
「あ゛ーーー もう、どうしてこうなった?」
「あのね、蒼汰さん! もうサキと同棲しちゃいなさいよ!」 友美さんが、いきなり爆弾発言をする。
ぐぇっ? 突然のことに俺はカエルがつぶれたような声しか出ない。
「あたしが許可するから、この娘を引き取ってください」 そう言って友美さんは、サキさんを俺の方へポンっと突き飛ばした。
その勢いで、サキさんは俺にしがみついて泣き始める。
わ~ん わん。
えっ? 犬?
ぶっ チーン ぶぶっ
今の一言がツボに嵌まったのか、サキさんは泣きながら笑う。
しかも、俺のシャツで鼻をかんでねっ?
確かに俺はサキさんのことが大好きだ。 ほんとうの事を言えば、プロポーズだってしたい。
でも、そうするならサキさんのご家族にも、きちんと認めてもらって祝福されて結婚したいじゃないか。
それに、いばらの道かもしれないけど、そうしないとあの熊親父に絶対殺されるだろう。
「蒼汰さん。 蒼汰さんがあたしのこと嫌いなら仕方がありません」 サキさんはシャツに顔をうずめたままで、モゴモゴ続ける。
「でも、あたしが家に戻ったら、きっと父が決めた男性(ひと)と結婚させられてしまいます。
そんなくらいなら、あたしいっそこの世界で猫になって一生ここで暮らします!
だからもう、今からあの水は一滴たりとも飲みません!」
あの親父の頑固遺伝子を引き継いでいるサキさんは、こうなったら本当にそうするだろう。
「わかりました。 サキさん。 でも俺は同棲って考え方はあまり好きじゃありません。 だから今、俺の気持ちを正直に言います」
「サキさん、愛しています。 俺と結婚してください」
「は・・ はい♪」
俺に抱き着いていたサキさんの両腕に、さらに力が加わる。
「サキ、良かったね。 あたしもこれで安心できるよ。」
見れば友美さんも泣いている。
この後もサキさんはしばらくの間、俺にしがみついて泣いていた。
だから俺のシャツが、ぐしょぐしょで一部ぬるぬるになったのは言うまでもない。
まさか九十九里浜まで来て、サキさんにプロポーズするなんて思ってもみなかったけれど、こうして俺は晴れて最愛の女性(ひと)を嫁さんにすることが出来たのだった。
第26話「新婚生活」に続く
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