第7話◆二人キャンプ

◆二人キャンプ



「またお会いしましたね」


えっ?


「こんな偶然って、めったにないかもですね~」


そう言いながら笑顔で俺の方に歩いて来たのは、先日河原バーベキューで着火剤を貸してくれた綺麗なお姉さんだった。


「いやー  お姉さんもココ(西湖)にいらしてたなんて、ホントおどろきました」


「お姉さん?」


「あ・・いや  すみません。  年上の女の人の呼び方ってよく分からなくって・・」



「うふふ  あたしのこと何歳くらいに見えますか?」


「えーっと  失礼かもしれませんけど、にじゅうろくしち歳くらいかなっと」


「ブッブーーー!  残念でしたーー。  発表しまーす♪  なんと21歳でしたーー!」


お姉さんは、胸の前で両手でバッテンを作り、ちょっと頬っぺたを膨らませた。


「ええーーー!  ほんとすみません。  すごく綺麗で・・それに落ち着いてみえたんで」


正直、自分より年下だとは思ってもみなかった。



「ちょうど今、ローストチキンを作ってるところなんですよ。  あと30分くらいで出来るのでよろしければ一緒に食べませんか?」


「すごい、本格的なんですね」


「そんなことないです。  ダッジオーブンに鶏と野菜を入れて火にかければ、1時間でできちゃうんですよ」


「でも、いいんですか?  お連れの方とかの分が減っちゃっても」


「えへへ  今日はあたし一人なんで、遠慮しなくても大丈夫ですよ」



そう言われてみれば、オレンジ色の小さなテントの周りには、他のテントや人もいない。


「食いしん坊みたいで恥ずかしいんですけど、これ3時のおやつなんです。 それで夕ご飯は遅めにして、パエリアを作ろうと思ってるんですよ」


「えー  俺なんてパスタ茹でて缶詰のミートソースです」


「まあ、それじゃ夕飯もご一緒しませんか」


「それは嬉しいんですけど・・・」



「あっ  ごめんなさい。   ひとりキャンプの方って、自然の中で静かに過ごしたいですよね」


「いや、そういう事でなくて・・  そんなにご馳走になったら悪いかなって」


「それでしたら、気になさらないでください。  むしろ余ってしまう量なので」


「それなら、ぜひお願いします。  あっと  俺、空野蒼汰って言います」  


「蒼汰さん・・  あたしは、須藤咲姫です」


「サキさんですか。 よろしくお願いします。  あと、先日は困っていたところを助けていただいて、ありがとうございました」


「いいえ。  それよりも空野さんって、キャンプにピッタリの苗字ですね」


サキさんは、そういってニッコリ笑った。


そんなことは、いままで一度も思ったことがなかったので、サキさんに言われて驚いた。


なるほど・・ 空に野原かぁ・・  言われてみれば、ほんとにそうだな。



「それじゃ俺、いったん戻ってキャンプの準備をしてきますので、また後で伺います」


「はい。 お待ちしてますね」




俺はキャンプを始めたばかりなのに、1週間の間に偶然にも同じ人に二度も会ってしまった。


もしかしたら、これが運命の出会いってやつなのか?


年上だとばかり思っていた綺麗な女性(ひと)は、俺より三つ下で彼女ならちょうどよい年の差ではないか。


なんだか、ウキウキしながらクルマに戻る。



もう雨はすっかり止んでたけれど、これからテントを張るのも面倒なので、荷室からテーブルと椅子と焚火台だけ下ろす。


あとは助手席にまとめて置いてあった、鍋と食材、ガスバーナーコンロをレジャーシートまで運ぶ。


んっ?


あっ・・・  パスタ茹でるのに水がいるじゃん!


またサキさんに笑われるところだったよ。


鍋を持って炊事場まで歩くが、湖の近くにクルマを停めたので結構な距離を歩くことになる。



このあと支度ができたので、サキさんのテントにおやつをご馳走になりに行ったのだけれど、俺はそこで驚くべき事実を知ることになるのだった。



第8話「並行異世界の秘密」に続く

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