採掘師ストレプトの活動日誌
火ノ島_翔
採掘師ストレプトの活動日誌
10月12日
オレの名前は ストレプト だ。自分で書いていて恥ずかしいが一流の採掘師である。こんな感じで書けばいいのか?
今日から運営会社の方針で『日誌』をつけることになった。なんでも精神的負荷を軽減させるためのシンリーホウリャクがどうのこうのと言っていたがよくわからん。
お偉いさんの言うことはよくわからんが、専門的にやってきたヤツの言うことは、一応聞いてみる価値があるだろう。ということで今日から日誌を書くこととなった。一体こりゃ何をかけばいいんだ。
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10月13日
今日から新しい坑道で採掘作業をすることとなった。まだ新しいから、壁の表面を処理する段階で俺達の仕事はそこまでない。
壁面処理の技術だが、確か会社のお偉いさんが
「我が採掘会社の技術は世界一ィィィィーーーーッ!」
とか叫んでたな。ほぼ全採掘者が引いてたけどな。
お偉いさんはオカシなヤツだったが、技術的にはたしかにすごいんだよなぁこれが。
ほぼ垂直な壁面にも張り付き作業用スペースを確保できる採掘技術『グルカン』は採掘業界に革命を起こした。コレにより水害や台風、ちょっとした地震などで採掘作業が中断したり、事故が起きたりすることを防いでくれるんだから、世界一ィィィィーーーッ!って言いたくもなる気持ちもわからんではない。
無駄に死ななくて済むのは、現場で採掘する作業員にとっても、本当にありがたい技術だ。
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10月14日
今日はようやく壁面加工が終わって、壁面の溶解掘削作業に入った。一応覚書と思い出しを兼ねて、今後の採掘スケジュール書き出してみるか。
フェーズ1 浅い壁面の掘削。めちゃくちゃ頑丈で硬い層。この段階での事故や災害により失われた命も多いため油断は禁物である。注意でなんともならない環境災害はオレたちじゃあお手上げだ。この坑道内が揺れたり崩れたり水浸しにならないことを願うばかりだ。
フェーズ2 一定以上掘り進めることで採掘物の種類が変わる。固く強靭な性質から、比較的柔らかく採掘しやすいエリアとなる。この段階では大規模災害の恐れがあるため、急ピッチで採掘が進む。急いで採掘しないと坑道が崩落したり、埋められたりするからだ。
フェーズ3 最深部まで掘り進めると、何やら異質の採掘物にぶち当たる。今までのように硬い鉱石のようなものではなく、どこか艶かしく、生き物のような、電気が走るような謎の物体である。そしてそれらは線上になっており、その素材は道のようになって更に奥まで続いている。その先に何があるかは分からないが、オレたちは未知の素材を求めてその奥へとただひたすらに突き進む。だってよ、見たこともない景色やお宝が待ってるかもしれないんだぜ。ワクワクするだろ?
フェーズ4 ここまで無事故でこれる採掘師はほぼ存在しないが、もしもこの段階までくればオレたちは一生安泰だろう。実際にフェーズ4まで掘った経験はないが、どうやら最終段階は坑道入口を拡張して、というか、鉱山全体を掘り尽くすということらしい。『そこに山はなかった。あるのは俺たちが手に入れた栄光と勝利だけである』この言葉は我が採掘会社の士気高揚の言葉であり、宣伝文句でもある。
よしよし、こんな感じかな。日誌を付け始めて今日で3日目だが、ここで終わったら本当の三日坊主だな。……フラグじゃないぞ。
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10月16日
いやぁ、昨日は疲れててね、って自分の日誌にいきなり言い訳はひどいな、はっはっは。まぁ、書くことがない、あえて書くならば――
今日は昨日と同じように掘りました。
こんだけだな。コレ書く意味あるか?まぁ、会社の方針だ、専門家の意見だ、素直に聞いておこう。とりあえず3年って言葉があったな。3年やって効果がなかったら自己判断でやめよう。うん、そうしよう。
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10月21日
おいおいおいおい、本当に書くことがない。
いや、頑張れオレ。きっと何か……!
そういえば、この会社についてはまだ日誌につけてなかったな。
オレが所属する会社の名前は『ミュタンス』だ。
一流企業であり、業界シェアもほぼトップである。そんなオレたちの会社と双璧をなしているライバル採掘会社がある。
ライバル会社の名前は『ソブリヌス』だ。
まぁ、こっちも一流だし、業界大手で業界シェアもほぼトップという、オレたちとほぼ同じレベルの採掘会社である。
だがオレたちのほうが技術的に優れているのは間違いない。なにせ採掘に際して、どんどんと新技術を使って差をつけているからな。『
それにしても毎日、日記とか日誌つけてるヤツってすげぇよな。よくそんなに書くことがあると思うんだが。慣れかな?
まぁ、日誌を付け始めて少し思うのが、日々の過ごし方が少し変わったかな。
毎日の平凡で変わりない日々の中から日誌のネタを探そうと、それまでより周囲をよく見て、覚えておこうと思うようになったのかもしれない。
お、まさか会社の日誌推進派の専門家はこういった狙いがあったのか?やっぱり専門家の意見っていうのは、一度は聞いて実践してみるもんだな。
こういうのは当たり外れもあるが、今回のアドバイスは当たりだったな。
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10月24日
俺たち採掘者とはいわば職人だ。それぞれが誇りを持って仕事をしている。
だが中には適当な仕事をするやつもいて、そんなやつが掘った坑道は直ぐに崩壊して埋まってしまう。
本当の職人っていうのは、入り口から目立たせず簡素に掘り始め、中に行くごとに大きく広く掘っていくもんさ。ほかにも色々なノウハウが必要な仕事だからこそ、俺達はプライドを持って仕事に取り組み、職人である必要があるのだ。
なにせ、自分たちの命がかかっているからな。一つ坑道が潰れるだけで大勢の採掘者が死ぬか行方不明になるだろう。
大胆に巨大に採掘している坑道ほど崩壊の率は高くなる、だが掘らないと採掘師として生活は出来ない。採掘規模の絶妙なバランスも重要なんだろうと思う。
あぁ、採掘って奥が深いなぁ。これだから採掘師はやめられない。
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10月26日
今日は同僚の誕生日会だった。俺たち採掘師は横のつながりが強い。何かあった時、助け合えるのは会社の上司ではなく、すぐ横で採掘作業をしている同僚、仲間たちにほかならない。
だからこそオレたちは仲間を大切にする……のだが、コイツは飲み過ぎだな。流石に自分の誕生会で飲みすぎてスピニングゲロネードをかましたヤツは初めて見たぜ。今後何週間かはいい話の種だな。
そういえばオレの誕生日の時もコイツ吐いていたな。
あれは確か数ヶ月前、6月8日のことだな。オレは採掘仲間に誕生日を祝ってもらって夜通し採掘パーティをしてもらったっけな。今思い返すと、今日吐いてたやつ、オレの誕生会のときも飲みすぎて吐いてやがったな。
なんていうか、ちょっと心配になってくるレベルだ。そろそろ影で『ゲロリーマン』とか『嘔吐メン』などと呼ばれそうだ。う~ん、もしアイツがそんな名前で呼ばれてもオレは普通に呼んでやろう。いくらゲロ野郎でも……仲間だからな!
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10月29日
今日もいつもどおりの採掘だったのだが、ふと思うことがあったため書き残そうと思う。
オレたちは何で坑道を掘っているのだろう?なぜ採掘をしているのだろう?
なぜ、坑道はほとんど崩れてなくなり、埋まってしまうのだろう。
なぜ掘り進めると柔らかい層が出てきて掘りやすくなるのだろう。
なぜオレはここにいるんだろう、キミに出会えたことそれは運命……
と、まぁいろいろ考えたが、こまけぇことはわかんねぇ。オレの仕事は掘ることだ。だって採掘師だからな!はっはっは。よーし明日からもドンドン掘ってくぜぇ!
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11月2日
俺たちの採掘は最先端だ!なんせ科学的に坑道の壁を溶解させて掘り進むんだからな。たしか……技術的に新しい酸的なやつだったと思うが、まぁ難しいことはオレにはわからん。
とりあえず採掘しているものの名前は覚えたぞ!やたら長くて難しいやつなんだが、たしか、えぇっと、『ハイド……タイト』いや、なんかもっと長かった気がするな。
『ロキシータイト』だったか?あぁ、もういいや、今日はいつもより疲れたぜ。名前なんていいのさ、オレたちには、採掘の知識と技術がある。それだけで十分さ!
……ま、ぼちぼち頑張って覚えよう。
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11月4日
ついに新しい採掘層に到達した!!
ここいらの鉱山は、浅い部分がめちゃくちゃ固くて強靭で、内部に行くほど柔らかく脆くなるというちょっと不思議な性質を持っている。
いやぁ、それにしても硬かったな、物理じゃほぼ傷もつかないし、オレたち『ミュタンス』社の最新掘削法でさえ少しずつしか掘り進めることが出来ないのだ。
まぁ、その分一度外層をぶち抜いてしまえば、楽に内部を掘りたい放題なんだけどな。深く掘るほどに外の環境の影響を受けにくくなる。津波が来ても地震が来ても大抵のことではオレたちが死ぬことは無くなる。
まぁ、この坑道が崩壊する規模でなければ、だがな。
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11月7日
今日は何やら嫌な予感がする。なんだか坑道内もいつもよりじっとりと、絡みつくような湿気を帯びている気がしたんだ。
まるで嵐の前の静けさのように、静かに……って採掘してない坑道内はいつも静かなんだけどな!
まぁ、嫌な予感……採掘師にとってカンってのは重要なもんだ。適当に流さずに、明日からはより一層注意して採掘作業に臨むことにしよう。
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11月8日
終わりだ、クソッタレ!いつも日誌は夜に書くが、コレを遺書として残す。今現在坑道内は巨大地震に見舞われ崩壊中だ、既に何人もの採掘師が吹き飛び死んだか行方不明になっている。この坑道はある程度大きくなったとはいえまだまだ、小さい。こんなに早く崩壊が起こるなんて予想外だ。ちくしょう、昨日の予感がバッチリかよ。最深部まで掘り進められなかった。それだけが心残りだ。
轟音が近づいてくる、採掘師の仲間たちよ、誕生会でゲロってたヤツ、飲み会で踊り始めたヤツ、玉砕覚悟で告白して見事玉砕して自分の頭で壁を採掘しようとしヤツ、オレは……お前たちと過ごした毎日を忘れないぜ。ありがとよ。天井がくずれ―――
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11月8日 夜
生きている。オレは…生きてるぞぉぉぉぉ!
坑道が崩壊して強烈な力で外に吹き飛ばされたかと思えば、気がついたら鉱山の外にいた。何がどうなっているのか、全くわからんがどうやら無事のようだ。
あの坑道にいた採掘仲間たちの姿は見えないが、何人か採掘師らしきヤツも見かけた。まぁ、ライバル会社『ソブリヌス』のヤツラも見かけたが。
まぁとにかく良かった。と書きながら移動してたら、早速新たな坑道を作ろうとしている我らが採掘会社『ミュタンス』の面々がいた。
早速オレも参加して採掘するかな、う、ん?
水が――泡が――――流される――
もう――おしまいだ――せっかくこれから採掘を――――
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今日の日記 11月8日 4年1組 葉隠 良磨
今日僕は歯医者さんに行きました。
秋の休みでおじいちゃんの家に行った時に美味しい秋の味覚を食べて、その間中歯磨きセットを忘れてたので歯磨きしていなかったので、虫歯になっていました。
少し前に水で歯が痛んだので歯医者さんへ行くと虫歯だと言われました。どうやらまだ小さい虫歯だったようで、その場で削って、なんか詰めて光でピッとして、治してくれました。
虫歯を削る時のキィィィンっていう音はすごく怖くて、削れる振動がちょっと痛かったです。
だから今日の夜はいつもよりしっかりと歯磨きをしました。フロスを使い歯と歯の間も磨き、歯の裏側、歯と歯茎の間、奥歯の奥など入念にフッ素歯磨きをしました。最後に洗口液でぐじゅぐじゅっぺをしました。
口の中はとってもスッキリして今日はぐっすり眠れそうです。明日からも歯を綺麗にしっかりと歯磨きをしたいと思います。
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『せいぜい油断をするがいい、我ら虫歯菌<ストレプトコッカサス・ミュータンス>はいつでもお前の歯垢鉱山を狙っているのだからな……』
採掘師ストレプトの活動日誌 (完)
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