恋敵を抱きたい(百合)
縁の下のぼたもち
第1話 私のかわいい天使
いつもの空、
いつもの通学路、
いつもの校舎、
いつもの教室、
今日もいつも通り。変わることなんて滅多にない。何事にも心が揺れ動くことのない、何も変わらない日常。
でもこれは、私が登校して、自分の教室に入るまでのことなのだ。
「さ、榊原さん、ちょっといいかな?」
ほら。ここから先はいつも、色とりどりの表情をうかべて待っている彼女がいる。
「べ、別に探るつもりは、ないんだけどさ、昨日、なんだけど……」
手を体の前で組み、もじもじする彼女。
「田島とどこで何してたの?」
睨んでいるつもりなのだろうけど、全く怖くない、むしろ猫の上目遣いのような印象を与える、かわいらしい彼女。
「別に、ただ買い物に付き合ってもらってただけ」
いつもこんな風に、不愛想で、冷たい金属のような返事しか返せない。
せっかく彼女と会話しているのだから、もう少し素直になれないのか、といつも自分に言い聞かせるが、マシになったことはない。
「何の買い物?ずいぶんオシャレな店をまわってたみたいだけど?」
「見てたの?まぁ、プレゼント用だよ」
「田島から聞いた。てかプレゼントって誰によ!」
「……安心して。田島くんに渡すわけじゃない」
「どーだかね。もうすぐ田島の誕生日だってこと、私も知ってるから」
「へぇ、よく知ってるね」
「そりゃそうよ。家も近所で、幼稚園からの幼馴染だもの」
しばらく会話を交わしていると、予鈴が鳴ってしまった。彼女はじゃあ、またあとでと言い残して自分の席へと戻って行ってしまった。もう少し話していたかったけれど、彼女がまたあとで、といったので、その言葉に期待して、今はおとなしく自分も席に着くことにする。
……今日も話せた。それがどんな内容であれ、彼女と言葉を交わして、いろいろな彼女を見れたなら、私の胸は幸せの色で染められる。
彼女は
表情が豊かで、
特に笑顔が魅力的で、
明るめの地毛が
肩くらいにまでかかっていて、
八重歯がよく似合う、
わたしにとって、ただ一人の天使。
でも、この気持ちはあってはならない、
見せてはいけない。
だから、私は彼女の恋敵を装わなければならない。
ライバルでいなければいけない。
このいつも通りで、滅多に変わることのない日常でも、あなただけは、
どうしようもなく、私を乱し、狂わせる。
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