「説教の時にクイズを仕掛けてくる上司がウザイ!」という若手社員のあなたへ

ヨーダ=レイ

第1話

 あなたがミスをしたとき、上司が説教の最中にクイズを出してくることがあります。


 設問内容は「なんで怒られてるか分かる?」とか「何が問題なのかわかってる?」とか。

 言われる側からすれば「さっさと答えを言えよクソ上司」と思いますし、なんだかネチネチとイジメられてるような気がします。


 ……たしかに、そうやってあなたを痛めつけてイジメようとするイジワルな上司、なんてのもいるのかもしれません。

 でもそんなのは「アニメを観過ぎて子供に危害を加えるようになったロリコンがいる! だからアニメはすべて規制すべきだ!!」ってのと同じくらいの暴論です。



■上司の思考回路


 部下を叱るとき、上司は「どう言えばパワハラにならないかな?」ということを考えます。


 当たり前じゃないですか。パワハラで訴えられたら破滅しちゃいます。会社に迷惑が掛かるし、家族ももちろん、自分自身だって路頭に迷うかもしれない。

 そんなリスクを抱えてまであなたをイジメるメリットなんてありません。

 部下をイジメて「あースッキリ☆」なんてのは、「何をしても絶対にクビにならないような、恵まれた立場の人」か「最低限のリスク計算も出来ないバカ」だけです。

 でもそんな人だらけじゃないでしょ?


 上司だってヒトです。

 自分が一番可愛い。

 だけど他人を平気で踏み潰せるほど冷酷にもなり切れない。

 人並みに趣味や楽しみもあるし、大切な家族だっている。

 出来ればみんなと仲良くしたいと思っているし、敵なんか作りたくない。



 そういう「あなたと同じ普通の人」なのです。



 「クイズかまされたら鬱陶しいと思うだろうな~」……ということも上司はちゃんと理解しています。

 自分が下っ端だった頃に「クイズを出されて鬱陶しいなあ」と思っていたはずですから。


 「時間の無駄だ」とよく言われますけど、それだってわかっている。

 上司だって出来ればやりたくありません。説教なんてさっさと終わらせたいに決まってます。だって時間がもったいないもん。



 だけど敢えてクイズをかますのは、それをする必要があるからです。

 あなたにとって理解不能な「クイズ」でも、実際には何かしらの意味があるのです。



■ということを踏まえて、「なんでクイズをかましてくるのか」ということについて。


 ……なげえ前置きだったなあ。というわけで本題。

 単刀直入に言いましょう。



 上司が説教の最中にクイズをかましてくるのは、「『あなたの思考回路』を知りたいから」です。



 たとえば「チェックしておいてと頼んだ書類に漏れが見つかった」場合。


 起こってしまったミスはしょうがない。だけど、そのミスの原因を調べて、再発を防ぐように対策を打つ必要があります。

 もし部下のあなたに原因があるのなら、上司としては、その原因を直してもらうように動かなければなりません。


 ミスの原因は、見るべき場所が間違っていたのかもしれないし、あるいはもっと効率よくできる部分かもしれない。

 部下が非効率なやり方をしているのであれば、上司から効率的なやり方を教えてあげられる可能性もあります。

 単なるケアレスミスだとしても、ケアレスになる原因は必ずどこかにあります。

 仕事を振りすぎて疲れさせてしまったのかもしれないし、そもそも向いていない仕事を振ってしまったのかもしれない。


 ……でもそれは、ちゃんと調べてみないと分かりません。


 そしてそれを直球であなたに聞いても、紋切り型の決まり文句しか返ってこないに決まっています。

 「ケアレスミスでした、次は間違いないように細心の注意を払います」?

 そんなの、再発防止もクソもないでしょ? 仮にその通りにしたとして、部下のあなたを追い詰めてしまうだけです。


 あなたがどれだけ深々と反省しているか、そんなのはどうでもいい。

 あなたが反省し、後悔しているのは上司だってわかってくれています。



 そうじゃなくて、「あなたが何をどう考えて、どういう経緯があってそういうミスにつながったのか」、その正確なところが知りたくて聞いているんですよ。

 言い換えるなら、クイズをかましてくる上司っていうのは、「あなたの思考回路を疑っている」のです。



 「原因は○○だったので、○○が起きないように××という具体的な手を打ちます」という具体的なところまで詰めるのが、『再発防止のための原因究明』というヤツです。

 だからクイズを出すことで、目の前であなたが考えている様子から、考えている過程に問題がないかどうかを見てみたい、と思っているのです。


 それが、あなたの不真面目さに起因するのであれば、怒ったりもするでしょう。

 上司だってヒトです。興奮していれば自制しきれずに声を荒げたりするかもしれません。

 あるいは減給、降格など何らかの処分があるかも。怖いですね。



 だけど、その状況を引き起こしたのは、そもそも「あなたのミス」だということを忘れてはいけません。

 それを棚に上げて上司をクソ呼ばわりし、再発防止のための協力すらしない、というのはちょっとヒドすぎませんか?



 だから、聞かれたことには正直に答えましょう。

 お互いに『原因究明』の仕事をしているのだ、と思えばすぐ終わります。

 言い訳を長々と並べて弁解するコーナーは後でいくらでもありますから、この場では必要ありません。

 むしろそういう態度は「誤魔化してんな~」「良いから聞かれたことに答えろよバカ」としか思いません。


 大丈夫です。

 「ちょっと手抜きしてやろう」なんて思ってしまったのだとしても、次からちゃんとすればいいだけのこと。

 複数回繰り返すようであればそれはそれで問題ですが、逆に言えば「仕事が多すぎる」のかもしれません。

 そこを見つけ出し、判断するのもまた上司の仕事なのです。


 上司からすれば、部下として働いてくれる人はやっぱり可愛いし、早く一人前に仕事が出来るようになって欲しいとも思っています。

 上司が説教するときにクイズを出し始めたとき、「イジメられてるんだ」と思うのではなく、「自分の思考回路が疑われているんだな」と思うようにしてみると、あなたの仕事の質もちょっとだけ上がる……かもしれません。



 ……まあ、それが出来るなら誰もこんな苦労はしないんですけどね。



■本当にヤバイ上司にあたってしまったときは


 しかし世の中広いので、「最低限のリスク計算も出来ず、自分より弱い立場の人をイジメて遊んでるヤバいヤツ」というのも確実にいます。


 もしあなたの上司が「そういうタイプかな?」と思ったら、そのときはまず「自分より社歴が長い人」に相談してみましょう。

 本当にそういうタイプなら必ず前科があります。あるいは別の部署の偉い人に駆け込んでみるのもアリかもしれません。

 その会社に居続けたいと思うなら、一対一ではなく複数対一にしちゃいましょう。何か変わるかも知れません。



 是正が見込めない場合は、思い切って部署移動を目指しましょう。

 それさえ叶わないなら、転職も検討した方が良いです。


 「なんで俺が逃げなきゃいけないんだ、理不尽だ!」って?

 気持ちはわかります。

 だけどそんな理不尽に身を晒し続けていたら、あなたが壊れてしまう。

 そうなるくらいなら、「逃げる」ことのほうがずっと賢いはずです。そしてそれは早ければ早いほどいい。



 それに、あなたを退職に追い込むようなことになれば、そのバカ上司も「部下を退職に追い込んだ無能」扱いは免れません。

 針の筵です。あるいは減給降格など何かしらの処分があるかも。


 あなたをイジメていたクズが、申し訳なさそうに縮こまって、やがて居場所を失い、好き放題できた居心地の良い会社からも去らざるを得なくなる。


 その様子を想像したら、ちょっとは溜飲が下がりませんか?






 ……というようなことを、「仕事を舐めてるとしか思えない中途入社の新人」にネチネチ説教かましてやりたかったんですけど、言えなかったんでここに書いときます。

 わたしも自分が可愛いので。

 彼は典型的な真面目系クズっぽいので、捨て身で説教してくれる上司が出てくれないかぎり、きっと一生変わらないんだろうなあ。

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