第2話 2人の記憶をつなぎ止める合言葉
彼女との出会いは半年前……と思いきや、実は中学1年生の時に会っていた事を後々知る。
僕が病気の治療をしていた病院に、彼女も通っていたのだ。
そう……彼女も僕と同じ、突発性親愛記憶欠落症の患者。
ややこしい病気に罹っている者同士としてすぐに意気投合。
あっという間に親友と言えるぐらいまで仲良くなった……って親から聞いた。
2人を繋げたのが病気だとしたら、2人が揃ってお互いの記憶を失ってしまったのも病気のせいってわけ。
で、半年前。
僕が通ってる高校に転校生がやってきた。それがハルカ。
初対面なのにどこか懐かしいような感覚。
鞄に付いてる可愛いネコのストラップにもどこか見覚えがあり、思いきって話かけてみた。
すると、なぜか彼女も僕に同じ感覚を抱いてるのを知り、あれよあれよという間に仲良くなっていった。
それは嬉しいことだったけど、同時に不安でもあった。
なぜなら、僕は親しくなった人の事を忘れてしまうから……。
そしたら何と、彼女も同じ病気だって事が発覚!
それは忘れもしない。
学校終わりに近所のファミレスでドリンクバーを飲んでた時のこと──。
「えービックリ! まさかヒナタ君も同じ病気だったなんて」
「こっちこそ! でも、喜んで良いのかどうか微妙だよな……」
僕はストローが入ってた袋をイジりながら、窓の外に視線を移した。
店の前を歩く人たち。
これから彼女ともっと親しくなったとしても、結局は名前も知らないあの人たちと同じようにしか思えなくなって──。
「大丈夫だよ。きっと、私たちはお互いのことを忘れなんかしない」
「えっ? それって、僕たちの仲はずっとただのクラスメイトってこと……」
「そうそう」
ガーン!
そ、そっか。
ま、まあね。
僕が勝手に彼女との仲を上に見積もり過ぎてただけで──。
「うそうそ! もう、ヒナタ君ったらあからさまにガーンってなっちゃって」
彼女はフフッと笑いながらアイスコーヒーを飲み干した。
「ちょっとこれ持って来るね!」
空になったコップを持って立ち上がり、ドリンクバーの方へと向かった。
「お、おう……!」
ちょっと遅れて彼女の背中に声をかける僕の顔があまりにもニヤけすぎていたのか、通行人の内の何人かがヘンな顔でこっちを見てきた。
でもそんなの全く気にならない。
だって、僕たちの仲がずっとただのクラスメイトという発言が違うってことはつまり……。
「おまたせ~」
ハルカはニコニコ笑いながら席に座った。
「またコーヒー? 好きだねぇ」
「フフッ、そう言うヒナタ君だっていつもそれじゃん」
「そ、それは……ぐぬぬ」
しょーがねーよ、コーヒーとか苦くて飲めたもんじゃないんだから!
……なんて言うのも情けなさ過ぎて、仕方無く黙ってお子様丸出しのジュースを飲む。
「あっ、そうだ! 早く合言葉考えようよ! 油断すると、今にもヒナタ君のこと忘れちゃいそうなんだから!」
「お、おう……!」
それってもう……それってそれってもうそういうことだよな!?
お子様ドリンクでイジられたことなどあっという間に吹き飛んだ。
「でもどーする? どうせなら2人で同じ合言葉にしたいけど……」
「じゃあ、こういうのは? 僕とハルカで好きなものを1つずつ言って、それをくっつけたやつを合言葉にするとか……」
「おお、それ良い! ナイスアイデアだよヒナタ君!」
「そ、そうかな、ハハハ……」
くぅ~、褒められた~!
ってか、思いつきで言っちゃったけど、好きなものどうする?
思いきって『ハルカ』とか……それでハルカは『ヒナタ』とか言っちゃったりなんかしちゃったり──。
「ん? 大丈夫?」
「えっ!? あっ、う、うん、大丈夫大丈夫! よしっ、じゃあせーので言おうぜ、好きなもの」
「いいねそれ! じゃあ、せーの……」
「えっはやっ……えっとじゃあ、せーの……」
「ネコ!」
「メロンソーダ!」
……おい!
ヒナタこら!
ついさっきイジられたばかりのものを好きとか言うかねもう!
……って、自分で自分を責めつつも、好きなもので真っ先に思い浮かんじゃったんだからしょうがない。
「やっぱそれなんだ、フフッ! ってことは、2人の合言葉は『ネコメロンソーダ』で決定だね。うん、なんか可愛くて良い感じ!」
「だ、だな……!」
こうして、2人の記憶をつなぎ止める言葉が生まれた。
ちなみに、医者曰く「親しい人の記憶を忘れてしまう時間の長さは、その人と関わっている時間の長さと比例する」らしい。
僕と家族のみんなとの場合、記憶の猶予は大体24時間。
つまり、24時間以内に合言葉を言って貰えば良いってこと。
それじゃ、僕と彼女の場合はどうなのか……って、気になったから直接医者に相談してみたら、「うーん、そのケースだと……8時間か8時間半って所かな。9時間だと危ないかも知れないね」と言われた。
ってことで、僕らの記憶期限は8時間に決定。
生活リズムを考えて、毎日朝の7時、15時、23時に合言葉を言い合う、というルールを作った。
それはつまり、朝一緒に学校に行く、休み時間、夜……と、1日3回は必ず会う約束がされているってことで、こんなに嬉しいルールがこの世に存在してたとは、って感じ。
そしてもっと嬉しいのは、彼女もまた、僕と同じように思ってるんじゃないかな……って感じることだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます