かざぐるま

@illthy

第1話

かざぐるま


「見て、ほら飛行機雲」

可憐な少女が空を指しました。街からの帰り道、橋を支える大きな石柱の傍であるものを探しています。

「ううん、あれは筋雲」

優しい男の子が空を見上げました。女の子は探すふりをして小さく笑っています。

「知ってるものね」


「見つからないね」

もう、西日が二人の顔にすっかり影を落としてしまいました。


にわかに木の葉が宙を流れて来ました。


「あ、ここにあったんだ」

「見つけたんだね」

揺られた草むらの中にひとつ、ひらひら四つの小さな葉、夕焼けに何度も、何度も何度も高く手を振られて。

「さて、行こうか」

「うん」

もう山の上の夕日もすっかり隠れてしまいます。男の子が立ち上がると、女の子はいつまでもその居場所を見つめています。

「夕日ってやさしい。風といっしょにあいさつをしてくれるから。ほら、手をふってくれたよ」

男の子は頷きました。

「みんなお前のことを待っているよ」

名残惜しそうに立ち上がった女の子、その繋ぐ手をより確かなものへとし、最後には、有るようで無いような影法師を連れて向こうへと遠くなりました。

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