第11話 一人目の師

「セフィ……。いつからそこに?」


「レプリが瞑想して、属性戸を開こうと挑戦していた所かな」とセフィ。


「属性戸ってなんの事?」俺は必死に表情を抑え、何を言われているのかわからないふりをしてみる。


「ふふ。居眠りしてたって言い訳は、さすがに無理よ」


 俺は一度目を閉じ、ゆっくりと息を吐き出す。

 頭をよぎるのは、記憶を取り戻し、追放されて荒野をさまよったこと。その原因となった全属性魔法。

 リコと出会い、ガッソに拾われ、セフィと働いてきた。前世に比べれば不自由は多いけど、それでも安定してきた生活。そして、その中で積み重ねられてきた、人との繋がり。

 そして覚悟を決めると、改めてセフィの顔を正面から見る。


 興味深そうに、どこか静かさを湛えた、誰よりも金色に輝くセフィの瞳。

 俺はその瞳に後押しされるように語り出す。

 これまでの事。自分が全属性魔法と裁定されたこと。

 そのせいで追放されたこと。

 荒野で水属性魔法を発現したこと。

 ただ、自分が前世の記憶があることは黙っていた。どうしても一抹の不安があったのだ。また、忌避されてしまうのではと。


 静かに俺の話を聞いてくれていたセフィ。


「追放者のレプリ。それで、貴方は何者になることを望むの?」


 見定めようとするセフィの金色の瞳。その静謐さに、今の俺は気圧されてしまう。それでも、絞り出すように自らを言葉に載せる。

 ここが一つのターニングポイントだと囁くのだ、俺の中の俺が。


「俺は……まだ、わからない。ただ、力がほしい。抗うために。だから俺に闇属性魔法を教えてください」


「不合格ね」


「え……」


「闇属性魔法は教えましょう。レプリ、貴方はそのままでは危険だわ。属性戸の持つ恐ろしさをまるでわかっていないもの。あなた自身と周りの人のためよ」


「あ、ああ。ありがとう、ございます? でも今、不合格って……」


「そうね。何者になることを望むのか。再び問いかけた時に、違う答えが返ってくる事を期待してるわ」


 ゆっくりと両手を差し出すセフィ。

 その手に溢れ出す闇。


「さあ、そこに跪いて。私が喋り終わったら、契約しますと言ってね」


 俺は恐る恐る膝をつく。


 俺の頭にその手をかざし、セフィは高らかに宣言する。


「セレトリーゼの娘たるサルナリアの娘、セフィア。蒼金の瞳の継承者の名において、この者、レプリと師弟の契約を結ばん」


 俺はゆっくりと1つ息をすると、覚悟を決める。


「契約、します」


 こうして、俺はセフィの弟子となった。


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