第141話 亡き魂が蘇る時
「あ、あれ……宗像さん?あれは亀裂じゃないか。どうするつもりだ?」
「ったくよ、とりあえず来たがどうなってんだああ?」
「音峰君、それに五丈厳か、今宗像さんがあの亀裂の中に入ってしまったようでな」
「追いかけるぞ先公」
こうして田村は音峰と五丈厳を連れて亀裂の中に入り、宗像を助けようと動き始めた。
しかしすでに宗像は子供のもとに追いつくも、狸型の魔獣マルクーンが子どもの前に立ちはだかり、よだれをたらしながら今にも子どもを食べようとしていた。
「なっ、既にあの化け物が!」
「グシュウ!!」
「ひぃいいいい!なんなんだよこれ!」
「少年、今のうちに逃げるんじゃ!」
「お、おじさん!」
「早く元来た道を戻れ!こやつは、今起きている事件と関係がある!」
「なんだって?ペス!急いで戻って、知らせないと!」
少年はわずかな隙を見計らって、一目散に犬を連れて亀裂の外に出ることができた。問題は宗像であった。だがすぐに田村たちが駆け付けたのであった。
「宗像さーん!あっ、あれは!」
「まさに魔獣だな。こんな化け物がうろつきまわってんのか」
「だがわしらに倒す手段はまだない」
「やれるのは俺だけか。チッ、仕方ねえなぁ!」
宗像はどうすればよいのか困惑していたが、田村はCデパイサーに入力し、何と射出口から光の剣を出して構えたのであった。音峰は拳に霊量子を纏わせ、五丈厳はスサノオと共に二人の盾となる。
「これでどうにかするしかないな、霊閃斬!!!」
「そうはさせるかよ!霊量撃!」
「他の連中が出払っている以上、俺がやるしかねえよなあスサノオ!行くぜ」
3人で迫りくるマルクーンを防ぎとめるが、魂食獣と魔獣の違いが彼らの力を十全に発揮できない。
魔獣は物理攻撃が有効だが、霊量子だけではそれが不十分であり憑霊武装や霊量機鎧などでないと十分な力を出せないという問題があった。
最も、霊量分解(クォルツ・デストルクシオン)と言う技術があれば問題なく瞬殺できるのだが、彼らはまだその技術を習得できるレベルではない。
「ぐぬぬぬ!何てパワーだ!宗像さんは先に外に出て、ミロクさんたちと合流してくれ!」
「しかし……っ!」
「どうした宗像さん!……まさか、おいおいこれはまずいな」
「ガルルルァアアア!!」
「がはっ!防ぎはしたが……なんて……っ」
宗像は、狼型の魂食獣を見てあることを思い出そうとしていた。それは彼にとってトラウマともいえるものであり、思わず頭を抱えてその場に這いつくばる。
宗像は10年前、ずっと大切にしてきた猟犬を化け物に食い殺されている。その一部始終を見て、彼は何もできなかったことをずっと後悔してきた。
今度は、自身はこの勇敢な男を見殺しにしてしまうのかと思うといてもたってもいられなかったのであった。
「ちっ、こんな時にか!おい田村の先公、俺が抑え込む!こいつは今までの敵と毛色が違いやがる、今のうちにその爺を連れて外に出ろ!音峰もだ!」
「そうは言いたいのだがな、俺も来てしまったようだ、頭が痛い……!ぬぅううううっ!」
「儂も、頭が痛むぞっ、ぐぬぬ、強い反応と会った影響、かもしれん。意識がもうろうと、してくるな……!」
「っ、悪いな五丈厳っ!これはハードな痛みだっ」
「マジかよおい!ついてなさすぎだろ!」
このタイミングで発作かよと五丈厳はわずかに冷や汗を流すも、いつも通りやるしかないとスサノオに命じマルクーンを吹き飛ばすように指示し、一撃で大きく吹き飛ばし間合いを取る。
だが寸前でマルクーンも音峰と田村を吹き飛ばしていた。意識を失い倒れている3人を尻目に五丈厳は、もう一人の増援を待っていた。
そんなときであった。宗像がよろけながら立ち上がり五丈厳の方を見る。
「私も、黙ってばかりではありませんぞ!よくもわしの愛する相棒を!!そして友人よ!なあ、声の主よ、頼む、コロ……私に戦う力を!」
すると宗像の背後に、巨大な狐と犬が混じったような具現霊が現れたのであった。
「縁を結び、現世(うつしよ)に現霊映し出す者よ。我が名はマカミ。風と牙にて汝を護る者なり!」
無意識にそう宗像は口ずさみ、彼は具現霊・マカミを現霊化し自分の物にする。それからすぐにマカミは、宗像の命令で口から風を起こし五丈厳らを包み込む。
「な、んだ?体の傷が治っていく!」
「これが、私の力なのか……すごいぞマカミ」
「アウォオオオオォォォン」
宗像の具現霊ことマカミは高らかに吠え、じっと死霊騎士を見つめる。すると一瞬の隙も逃さないと姿勢を変え、狩りの態勢に入る。
そんな中、田村はと言うと目の色を変え、憎悪に身を焦がしそうなほどな激情を体で表現していた。
「俺は、俺はもっと強くならなければならんのだ!たとえ、闇に身を落としてもな!妹を、教え子を、奪った奴を、俺は!!!」
脳内で、聞き覚えのある声が響く。それは、数年前に亡くなった妹の声であった。その声を聴いた田村は、こぶしを握り苦しみに耐えながら、大きく叫ぶ。
「俺は、もうあんな後悔したくない!俺に力を貸してくれ、妹よ、いや、ヴィラン・カーズゥ!!!!」
以前から田村は、幻聴の主である幻霊の真名を理解していた。そう、それは彼女から名乗ったからであり、いつでも力を開放できる素地はできていた。
問題はそれを実際に具現化させる方法が全く分からない状態であり、事件に巻き込まれたりハーネイトの教育のおかげでようやく、彼はその内なる力を手にすることができたのであった。
「縁を結び、現世(うつしよ)に現霊映し出す者よ。我が名はヴィラン・カーズ。暗影と凶刃にて汝を護る者なり!……私は。これより、貴様と共に在らん」
そうして現れたのは、細身で黒きボンテージ風の鎧を身に着けた、勇ましい女戦士であった。
細身の直剣を手にし、仮面で顔を覆ういかにも悪役の女幹部に見えるその具現霊の名は、ヴィラン・カーズという。
もともとアメコミが好きな田村が、その潜在的影響を幻霊に与え、妹の魂を核に顕現することができた現霊である。
「ああ、頼むぞ!あの化け物を倒すのを、手伝ってくれ!」
「承知した。ディステニースラッシュ!!!」
「グガアアアアッ!!シュウウ……!」
素早い身のこなしを見せるヴィラン・カーズはマルクーンの爪攻撃をすべて捌き、瞬間的に無数の斬撃を叩きこみ魔獣を痛みで悶絶させ視界を潰すことができた。
その田村の背後で、ようやく音峰も幻霊の試練に打ち勝つことができ、ふらつく足に力を込めて立ち上がり、ナイフのような切れ味を誇る鋭い視線をマルクーンに見せたのち盛大に叫びこう言ったのである。
「俺もなぁ!幼馴染と約束したんだよ!どんな時でも前を向いて歩けと!夢を絶たれ命を落としたあいつの分まで、俺は、俺はあああああああっ!来い、怒りに目覚めろ!」
音峰には、同じくアメフトの選手を目指していた幼馴染がいた。しかし彼はその幼馴染を実質見殺しにしたと言う。だからこそ、彼の分まで生きなければならないと、ずっと後悔の念に苛まれていた。
しかし、その幼馴染の声が脳内に幻聴として響く。共に、戦おうと。それを聞いた音峰は涙を流しながら、現霊との契約に挑む。
「縁を結び、現世(うつしよ)に現霊映し出す者よ。我が名はベイオウルフ。激情と大嵐にて汝を護る者なり!」
すると音峰も具現霊を背後に召喚した。その現霊の姿は、狼の頭に屈強な人間の体、つまり獣人であり右手は大きな槍、左手に長剣を持ち野性味あふれた雰囲気を周囲に出していた。
ベイオウルフ、つまりバーサーカーともいえるこの具現霊はマルクーンに対し、武器を投げつけ牽制後すさまじいスピードで間合いを詰め、鋭い爪による一撃を繰り出した。
「ショッキングクローーー!」
「キュ、キュルルグウウウッ……」
現霊士としても目覚めた3人の攻撃は、本来まだ倒せるか分からない魔獣相手にも大きな深手を与えた。だがマルクーンもまだ倒れない。
とその時、急にマルクーンの体に大きな切り傷が発生し大きくよろける。
「甘いぞ!影に堕ちろ、影斬!」
「カ、キャ……」
「影を切って、そのまま化け物も同じように切るとは……」
一体誰が切ったのか4人は、少しして分かった。それはミロクであった。既に愛刀を抜き構えていた彼は、全員の無事を確認してから引くように命じる。
「ほう、救援信号を拾って駆け付けたが、無事で何よりだ」
「あなたは……ミロクさん!」
「そうじゃ。全く、こんなところにも沸いておったか。しつこい奴じゃ」
ミロクは痛みで暴走するマルクーンを相手に、刀から影を呼び出し迎撃する。自身の前方にいくつもの影人や影魔物が出現すると、一斉に襲い掛かる。
「あとは儂が相手をしよう。出でよ影喰!影解き放ち、我の下部と成れ!」
「な、なっ!このじいさん影使いか何かか?」
「ふん、よおく見ておれ!影走(かげばしり)!」
召喚攻撃で敵の逃げ場を奪い、更に刀を下から上へ振り上げながら切る事で禍々しい影を直線状に走らせたミロクは、マルクーンの真下から影の刃を無数に召還し突き刺した。その一撃が止めとなり絶命したのであった。
「お、終わったみてえだな。結局、止めは爺さんかよ」
「フン、まだ貴様も憑依武装を使えないからのう、こうするしかないのだよ。魔獣相手だと戦い方を変えるほかない。霊量分解ができるなら話は別じゃがな」
「……くっ」
「うむ、しかしなんだ、おぬしらも目覚めてしもうたか。まあ、例の事件に巻き込まれたことについては若から聞いておったからのう」
五丈厳が不満を述べるがミロクはまだ弱いからそうなるのだと一蹴し、そのうえで目覚めた人たちを見てハーネイトのもとに連れていく必要があると言う。
田村はなぜハーネイト本人が来れなかったのか質問する。
「若は向かっている途中で別件が入ってな、代わりにわしが来たのだ」
「別件だと?」
「人をさらおうとしていた魂食獣がいたようでな、まあもちろん若と仲間たちで阻止したようじゃ」
まだ事件が収まらない。早く犯人どもを倒さなければならない、全員は同じ気持ちを共有していた。
その後全員は亀裂を出て、ハーネイトの事務所まで足を運んだ。
するとハーネイトも既に帰還しており、レポートをまとめながらコーヒーと昨日間城たちが差し入れしてくれた地元の銘菓を味わっていた。
「おかえりなさい皆さん。それとミロクおじさんありがとうございました」
「若の命令ならば。しかし魔獣まで出てきているのはこちらからしても懸念でしかないですな」
「そうですよね。異界の生物がそこにいること自体、良くないことです」
2人はそう話をしつつ、魔獣対策のためにも全員の技術向上が改めて必要だと決断した。そうでないと退院を危険に晒すことに繋がるからである。
「ようやく、俺の具現霊と心を通わせることができました。玲奈、ありがとう……っ」
「わしも、相棒が現世に帰ってきたようじゃ。この力、もしや……」
「少し出来すぎな感じもするが、強い力に近づくほど刺激され、力が目覚めやすいのなら道理はあう。……俺も、戦う定めから逃げられんな」
3人はそれぞれ心の中でそう思いながら、2人のやり取りを見ていた。レヴェネイト、そう。レヴナントという言葉の意味と関係あるとおり、亡者が蘇る、戻ってくる。その力と自身の今まで学んだ経験の力を合わせることで如何なる脅威にも優位に立ち戦える。
彼らもまた、運命と向き合い戦い世界を守る存在へと成ったのであった。
「やはりと思ったが、3人ともか。これは……」
「ハーネイト、ようやく言っていたことが分かった。おかげで、俺は死んだ妹ともう一度会うことができた」
「もう、失うことはないですよ田村さん。ずっとその妹さんはそばにいて、貴方と共に在り続けるのですから」
「恋治、お前は今も俺の中で生きているんだな。……お前の夢、俺が代わりに」
3人はそれぞれ、自身の過去と向き合うことの重要性を再認識し、そのうえでそれを忘れず、しかし前に進むことの大切さも理解できた。
それを見たハーネイトは、昔それができなかった自身を恥じながらも3人の行く先に祝福があり続けるようにと心の中で祈り、改めてレヴェネイターズの一員として共に戦うことを互いに約束したのであった。
「そして宗像さんもです。その新たな力、大切にしてくださいね」
「そうじゃな。こんなことがありえるのかと思って居ったが、奇跡が、起きたんじゃな」
「奇跡であり、必然で偶然なのかもしれませんよ」
宗像は、奇跡というべきその力と幸せを噛み締めていた。しかしそれも、全てに向き合い努力し続けたからこそ偶然を必然に変えられる。
ハーネイトはそう言いつつも、自身もまたそうであり続けないといけないと思っていたのであった。
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