第140話 怪しい博士と用務員宗像の災難
「やあ、きみたち。先ほど矢田神という言葉が聞こえたが……」
「誰だよオッサン」
「見るからに、博士か何かでしょうか」
「にしか見えねえだろ時枝よ」
「貴方は一体?済みませんがどのようなご用件でしょうか?」
その男は見るからに博士のような、きれいな白衣を着た茶髪で少しウェーブがかった、40代後半に見える外国人であり、この場にあまりそぐわない格好をしていた。
彼は流暢な日本語で4人に話しかけたが、いきなりなので当然4人は身構えていた。
「おじさん、あまり妙なことに首を突っ込まない方がいいですよ」
「この私が……世界各地で起きている神隠しや不審死、それについて調べていると言ったら?」
「なっ……」
「だったら余計に危ないぞ」
この中年男性の一言で、響たちの表情があっという間に真剣になる。それを見た男は少し慌てて謝罪し、自身の名を名乗る。
「すまんな、驚かせて。私はドガという。近いうちにまた会うかもしれんが、今はこれだけ伝えておこう」
このドガという男は響に対し名刺を渡した。それを受け取り見てみると、霊科学研究所という一見怪しいところの所長であることが分かり響はドガの顔を少し睨んで見ていた。
「各地に祭られている秘宝が、怪事件の災いの元である。そう私は考察している」
「秘宝……?」
「そのうちの1つを、手に入れることができたのだ」
「え……それって、どういうことなの?」
ドガは、今起きている怪事件の数々とあるアイテムの存在が関係していると4人に対し小声で話し、その一つを手に入れたことについても話をしていた。
「では、また会える日を楽しみにしている。ああ、それと鬼塚大和という男から君たちの話は聞いておる。わしも、君たちと同じようにあの霊による事件の被害者でね。ではこれで失礼する」
ドガは大和と関係がある発言をしてから、静かに一礼してその場を去ったのであった。彼の後姿をしばらく見ていた4人は、一体あれは何だったのだと思いながら何故ドガという人物が大和と接点を持っているのか疑問が絶えなかった。
「何なんだよあのオッサン。つか父さんあんな人とも交友関係あるんかよ」
「勿体ぶってんじゃねえと言いたいな。翼は知らないのか?あのドガさんのこと」
「知らねえ。初めて会ったぜ」
「あの人、もしかすると先生の言っていた、半覚醒している状態の人かも」
「どういうことあやちん?」
「見えたの、かすかだけどあのおじさんの背後に」
「俺も見えたぜ彩音。近いうちに、会うことになるなあれは」
翼は色々怪しい男だとドガを見ていたが、彩音はドガの背後に何か傘を持った貴婦人みたいな霊がいたように見え、それは響にもよく見えていた。
九龍は外に出たドガの後ろ姿を目で追い、どこかで見たようなことがあると思いつつバーガーの残りを頬張り、今の件についてハーネイトに報告すべきか話をしていたのであった。
「あれから俺も、いつも以上にああいう奴らがいないか見回りをしているが……」
4人がドガという男に会った少し前、九条学園の中で、1人見回りをする男がいた。それは田村であり、これ以上不必要に居残っている生徒がいないか確認をしていたのであった。
そんな中、たまたま通りかかった宗像と会い声をかけられたのであった。
「どうかなされましたか、田村先生」
「宗像さん、いや、校内の見回りをしているのですよ」
「そうですか、他にも忙しいのによくやりますね」
「ここ最近奇妙な事件が多いのでね、生徒を守るためなら私は」
田村と宗像、この2人の関係もそこそこ長い。年は離れているが互いに気の合う友人のようで、よく話をしたり酒を飲みに行ったりと個人的な親交があった。
だからこそ、最近の彼の目つきがどこかおかしい、いや、正確には以前よりも強い意志を持つ目になったと宗像は、田村の目を見てそう思っていた。
「そうですか……ああ、そうだ、もし時間があるなら宿直室でお茶でもどうですかい」
「ああ、でも今日は……」
「どうしても相談したいことがあるのですよ。先日の件とも関連がありそうでな」
「それは、そうですか。分かりました」
そうして2人で見回りを済ませると、西棟にある1階の宿直室で2人は茶とお菓子を楽しみながら、田村は宗像の相談話を聞くことにしたのであった。
「宗像さん、それはいつごろから?」
「半年ほど前からじゃな……死んだ彼奴の声が聞こえてな。だが、先日の件で更にそれが強くなった感じがしてのう」
「やはり影響が出ているようですな。もう一度ハーネイトと話してみては」
「そうじゃな……このままうやむやにしておくわけにはいかん。わしをかばって、あれに食われた相棒が何かを伝えようとしている、そんな気がするんじゃ」
宗像は10年ほど前、大事に飼っていた犬を亡くしている。彼は猟師でもあり、よくその犬を連れ熊やイノシシをしとめていたという。
だが相棒である犬がある日、奇妙な獣がいると言われ入った山の中でその獣に襲われ、身を挺して自身を助けた代わりに犬が食われたのを見た彼は猟師をやめ、引っ越しをして職を探していたという。
すると偶然、春花九条学園の用務員の募集を見た彼は、応募し受かり、現在こうしてこの春花九条学園で働いているという経緯がある。
宗像もまた、他の霊量士と同じく幻霊の症状が出ていた。自身も同じ状態である田村は、ハーネイトに改めて相談するべきだと促し彼も同感していた。
「では、宗像さんもお気をつけて」
「田村もな、今や至る所で、異変が起きておる」
「問題は、それに大多数の人が気付いていないか、対応できていないかということですな」
帰るため校門の前まで来ていた2人は、夜空を見ながら話を少ししていた。星々の間から遠くで何か赤い光が近づいているように感じ、以前響やハーネイト、星奈が話していた紅き災いの流星があれなのではないかと思いしばらくそれを見つめながら、今まで見えていた星々の灯が徐々に減ってきていることについても話をし、その中で田村は思っていたことを口に出した。
「国もやる気がないようじゃしなあ……わしから見れば、滅びの足音が迫っているように感じる。あの妖しく光る赤く大きな星が、滅びを招いてきそうじゃな」
「それを止めるのが、俺たちですよ」
「田村も、並々ならぬ覚悟を持っているようじゃな。……例のあの事件絡みか?」
宗像もまた、田村が過去に経験した事件について彼本人から話を聞いていたため、そこまでして力を得ようとしていることについてもう一度確認をする。
「そうです。もう、あんな思いはしたくない。今集まって修行している人たちの殆どが、その気持ちを胸に抱いて戦っている。宗像さんの言うとおり、事態は思った以上に深刻だ」
「……そうじゃな、儂も、どうもあれと因縁がありそうだ。……どこまでできるか分からんが、やるしかないのう」
そういい宗像は田村と別れ、帰宅しようと街中を歩いていた。そう言えば今になってだが、街中に妙な光の亀裂がいくつもあるように見える、そう思いながら静かに電灯が強く照らす下を歩いていた。
「むぅ、これはあの時の亀裂か?よく目を凝らしてみれば、あちらこちらにあるな」
そんなとき、ある亀裂の近くをふらふらと歩きまわっている、柴犬を連れて散歩していた子供を見つけた宗像は声をかける。しかし聞こえないのか子供はすっと亀裂の中に消えていったのであった。
「なっ、いかん!あの中に入っては……おい、そこの君!止まるんじゃ!全く……ああ、そういう時こそな」
そう思った宗像は田村やハーネイトらに対しCデパイサーを通じて連絡を入れる。するとハーネイトはミロクを派遣すると言い、近くにいたジョギング中の音峰とスーパーのバイトから帰宅中の五丈厳も向かうという連絡が来てひとまずほっとした彼であったが、少しでも追跡しようとしたその時嫌な予感を感じた田村が、亀裂内に吸い込まれていく宗像を見ていたのであった。
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