第104話 音楽フェス開催と事件発生



「さあ、フェス当日、だな」


「君たち、よく働いてくれた。後は今日のフェスを成功させるだけだぞ」


「って言っても、できることは警備ぐらいしか残ってないですがね」


 ハーネイトたちはホテルで朝食をとりながら、少し眠そうにしている宗次郎と話をしていた。彼らの働きで円滑に会場準備が進み、あとは始まるまで待つだけとなっていた。


「まあそういうことをいうな、人が多く集まる以上、例の奴らが狙う可能性もゼロではないだろ?」


「それは、はい。奴らは目的のためなら容赦しませんね。特に血徒は……。だからこそ警備は厳重にしておきます」


「うむ……何かあった時は頼むぞ」


 宗次郎は改めて会場の警備について任せるぞとハーネイトに言い、さわやかに彼は回答し、全力で警備にあたると約束したのであった。


 食事を終えたハーネイトは、会場に向かうため準備をして、ホテルのフロントにいた。伯爵とリリーもすぐに合流したその時、響たちがホテルを訪れハーネイト達に挨拶をした。


「先生、おはようございます」


「ああ、おはようみんな。しかし全員集まってどうした?」


「今からフェスの会場に行くんすよ兄貴」


「あの、先生たちも行くのでしょう?」


「まあ、そうだが彩音。といっても私たちは最後の仕事があるけど」


 始まる前に再度警備のため見回る、そう彩音達に言うと手伝いたいと言われ、ハーネイトはそれに了承し、始まる前に早くフェス会場に行こうと駅の方へ全員集まって向かったのであった。




「さあ、僕たちで盛り上げていこう!」


「はい!」


 その頃亜蘭は、チームメンバーと共に控室で最終確認を行った後、全員で成功させるぞと意気込んで声を揃え叫ぶ。このフェスに呼ばれること自体が名誉であり、出演した人たちは後にさらに有名になっていくというジンクスがあるほどで、彼らもそれを期待していたのであった。


「みんな、これが本番前最後の練習よ!」


「了解です」


 一方で初音たちのグループも、亜蘭たちと同様のことをしていた。彼女たちもこのフェスに対する思いは人一倍強かったのであった。


 あのBW事件以降、暗い空気を吹き飛ばそうと各地で行われている音楽フェスティバルだが、初音は矢田神村に住んでいた人たちが多い春花でのライブに、人一倍気合を入れて全力で歌うことを決めていたのであった。



 そうしてAM10時に、この春花で年に一度の音楽の祭典が開催されることとなった。会場は非常に盛り上がっており、日本各地から集まった著名なバンドが熱く演奏を繰り広げていた。ハーネイトはなぜか売り子のバイトをしながらも音楽を聴いて心の中で興奮していた。


 彼もまた、かつて女装しながらアイドルをしていたあまり人に言えない歴史がある。また彼の友達には音楽家もおり、久しぶりのステージ全体から伝わる高揚感に少し酔っている彼であった。


 曲に合わせて手を振ってみたり、相槌を打つなどいつもの仕事モードでは見られない、彼のそんな一面がそこにあった。


「流石だぜ、このフェスだけは何としてでも行かないとな」


「スマッシュの新曲と踊り、クールだな響」


「翼が気にしていたグループってスマッシュだったんだな、確かに勢いが凄い。全員身体能力高いのも驚きだな。ダンスもキレがありまくるし躍動的だな。流石だ」


 響たちは各グループの演奏を聴きつつ感想を互いに述べ楽しい時間を過ごす。特に問題もなく、昼を過ぎ初音たちのグループが演奏と踊りを始めたころ、突然事件は起きた。


 何と会場のステージを中心に、観客をも巻き込んだ異界化現象が突然発生し、逃げる思考を奪われた隙に多くの観客とスタッフ、アイドルたちがその場から消えてしまったのであった。広大な青き電子空間のような場所に会場全体が覆われてしまった状態である。



「なっ、これはどういうことだ。先ほどと風景が全く違うぞ!」


「うっ、何だ気分が……っ!」


「輝夜!お前ら、どうしたんだ!」


「何故平気なんだ、亜蘭……」


 ここはその異界空間。多くの人が倒れている中、亜蘭と初音は少し体が重たい程度で立っていられた。それが2人にとっておかしいと思っていた。


「嘘でしょ、メンバーもスタッフも、全員倒れているわ。それに、観客が……」


「姉さん!無事なの?!」


 冷静になろうと2人は周囲を見渡していた。すると向こうの方から誰かがやってきた。そして声を聴いて、初音は不安な表情が少し和らいだ。


「姉さん!無事なのね!


「彩音!これはどういうことなの?まさか……彩音が巻き込まれた事件と関係が?」


「あるとおもうわ。でも今までのパターンと全く違うわ」


「そうよね、力のある人たちしか狙わないと」


「まさか無差別に復興同盟が人間を狙って?スタッフと参加者の皆さんは、ここにいる人で全部ですか?」


 彩音も周囲を見渡し、倒れている人の数を数えていた。亜蘭はスタッフ全員がいることをすでに知っていたので彼女に話しかける。


「うむ、そのようだが」


「こっちも全員いるよお嬢ちゃん。しっかし、何だこの空気の重さは。しかも青い空間とは、どういうことだこれ」


「ん……やっぱり耐性あるなしに関わらず引きずり込まれたようね」


「もしかして、ここが異世界?亀裂の中の?」


 初音はハーネイトたちから聞いた話の通り、ここが異界なのかと質問したが彩音は少し首を横に振った後こういう。


「少し違うわ、ここ一帯が異世界の空間に侵食されているの。そういう装置があるのよね」


「彩音、全員無事か?」


「ええ、みんないるわ」


 彩音を追いかけてきた響は倒れている人たちを見つけるとすぐにハーネイトに連絡を取り報告した。そして彩音に用件を伝える。


「先生が緊急にAミッションやるとさ。観客たちの3分の1がこの中にまだいるそうだ。未然に先生たちが逃がした残りの人たちは渡野さんたちで記憶操作をしてどうにかしていると」


 異界化に巻き込まれなかった仲間たちが数名おり、場の混乱を防ぐために直前で指示を出していたハーネイトであったが、内心かなり不安ではあった。


「亜里沙さんと星奈さん、それと渡野さんに文治郎さん、大和の5人が外でCデパイサーを用いて観客たちの記憶に干渉している。5人を除いて、今いるのが」


「俺と彩音、時枝に間城、九龍と五丈厳、あと天糸さんだ。一チームしか組めないのか」


 少ししてハーネイトと伯爵は、この空間内にいる現霊士たちを招集しこれから行うことを説明した。そして作戦会議を手短に行う。


「田村さんたちはまだ具現霊を獲得していない。DダイビングもAミッションもまだ早すぎる」


「でしょうね。私なら許可しないわ。まあ、手伝うからね」


「燃えてくるぜ、バーニング!!!」


 実はハーネイトの後をつけてブラッドとリリエットが会場に来ていた。どうもフェスが気になり会場まで足を運んだのだが巻き込まれ、そんな中ハーネイトたちを見つけ声をかけたのであった。


 しかもシャックスとユミロも会場に来ており、彼は目を丸くしていた。ユミロは4mを超える大男だが、自身で魔法を習得し体のサイズなどを調整して服も着替えてきていたという。だが音楽を聴いて眠たくなったのか、端の方で大木の幹に寄りかかり、日向ぼっこをしていたシャックスと共に心地よく寝ていたという。


「んで、俺とリリー、それとブラッドとリリエットが……」


「そこに寝ているシャックスとユミロ……も合わせれば」


「7:7で行けそうですよ」


「分かった。伯爵はリリエットやシャックス、響たち4人を連れてナビゲーターでやってくれ。私は九龍と五丈厳、天糸、ブラッド、ユミロ、リリーを連れていく。まだ数十名がいるそうだ。見つけ次第転送しているが、そもそも異界化装置を壊さないと出口が分からん状態だ。今までのと違うぞ」


 彼らはどうするか話し合い、2つの作戦を同時に行うことに決め、初の2方面同時攻略を実行することにしたのであった。


 このままでは巻き込まれた観客や関係者などの命が危ない。時間の猶予のあまりない状況であった。

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