第70話 影の剣皇ミロクと2人の助っ人
「ハーネイト様、もしやあのお方とお知り合いでしょうか?先ほどあの空間を通り抜け訪れたがどこなのか分からんと言われまして……」
宗次郎の隣で食事をしていた亜里沙の質問よりも早く、ハーネイトはその窓際にいる人物の元まで駆け付け話しかける。
「ミロクじっちゃん!なぜあなたがここに!」
そう、その白髪のダンディなアラフィフは彼の直属の部下であり、父方の祖父でもある。
彼は頼んだうどんを美味しそうに食べながら、ハーネイトに気づくと声を上げて彼と対面する。
「おお、我が主よ……この私、異界の地にて仕事をなされる主を心配で心配で……」
ミロク・ソウイチロウ・カゲヤシャ。それがこの男の名前である。
彼はフォーミッド界に存在するAM星の中で、最も多くの怪異を倒してきた伝説の魔剣豪であり、妖刀・影食に認められた存在でもある。また、ハーネイトの実の祖父でもありヴィダールの神柱でもある。
「はぁ……どうにかやっていますよじっちゃん。いつまでも子ども扱いしないでください!」
「何を言う!わしにとってお前は大切な孫なのじゃぞ!」
「貴方はどうも過保護すぎるところが……」
その後も2人は何やら言い合いながらも、改めてこの地球に来てくれたことをハーネイトは感謝していた。
「一体、あの壮年の男性は何者なんですかね」
「どうも先生のお爺さん、みたいだけどね響」
「とにかく、何故来たのです。貴方のことですからただ心配になってきたわけではないでしょう。それに……」
「うむ、一足先にわしが受け持っていた仕事が終わっての、あのゲートを使って視察しに来たわけじゃ」
ミロクはどうも、リシェルたちからハーネイトが異世界のパスを作ることに成功したことを聞いて真っ先に抱えていた案件すべてを速攻で片づけてここまで来たという。
しかしそれだけでなく、追加のメンバーも連れてきたというのであった。
「それとな、ボルナレロとヨハンを連れてきた」
「そ、そうですか。分かりました」
「そろそろここに来るんじゃないのかね。しかし、異世界の料理も良いものだ。ハハハ」
そのメンバーとは。現霊士にして魔法剣士でもあるベルクード・フラーディシエル・ヨハンと、地図&魔法工学研究者ことボルナレロ・ジャド・ジオノアロークという2名のフォーミッド人であった。
正確には、ヨハンは元地球人である。すぐに2人は連絡を受けレストランまで来て、久しぶりの再会を果たす。
「ええ、ハーネイトさん。ようやく故郷に帰ってこられました。色々変わっていますがね」
「……遅くなって悪かったなハーネイト。どうしても機材やプログラムの準備に時間がかかった。またこうしてともに研究できるとは嬉しい限りだ、機士国以来だな」
2人の顔を見るな否や、ハーネイトはボルナレロの方に駆け寄り思いっきり抱きしめた。慌てる彼であったが仕方ないといった感じで嬉しそうにハーネイトの顔を見る。
「うわわわん、まじでつらかったよボルナレロ!慣れない土地で仕事するの本当に大変で……」
「おいおい、そんなにかよ。だからこそ来たんだろう」
「例のシステムの件、頼んだよ。材料とかはすぐに用意するからね」
ハーネイトにとって、ボルナレロは今後の作戦において非常に重要な人物である。なぜならば彼がいれば地図情報などのビッグデータを適切に管理分析できるからである。
RTMGISにより彼らの故郷では、犯罪率の低下や災害発生時に早期救助ができるなど目に見えた成果を上げている。
今回この優秀な科学者の到着が遅れたのは、あるシステムを追加で作ってもらっていたためである。
2人の様子を見ていたヨハンは、少し不貞腐れながらもじっと2人のやり取りを見ていた。すると後から追いかけてきた響たちが彼らに質問する。
「あの、その2人は一体……」
「僕はヨハンと言います。一旦帰還したリリエットたちの代わりに貴方たちの戦闘教官を担当します」
「俺はボルナレロと言う。ハーネイトとは昔からの付き合いでな、裏方で色々支援させてもらう。どうだ、もう一度この世界の言葉を勉強しなおしたが」
「上手ですね、かなり練習されましたか?」
「あ、ああ。ハーネイトほど、異界の言葉を話すのは得意ではない。まだ聞き取りづらいかもしれないが、そこはご了承を」
ヨハンは自己紹介をし、全員と握手をする。彼は見た目が響たちとさほど変わらない年代というか、そこまで年が離れていないため高校生たちは先輩のような人だというイメージを彼に持っていた。
ボルナレロは勉強してきた日本語で流ちょうに話してみせる。亜里沙がハーネイトと同じくらいうまいと言い、少し照れながら彼はまだ不慣れなところもあるがよろしくという。
「貴方が、色々カギを握っているのですね」
「そういわれちゃあれだが、地図支援などはもっぱら私に任されているのでな。転送装置の管理とかも仕事だし、忙しくなる。それとハーネイト、1つ言っておくが新しい異界空間の調査とかは足で稼いで情報をくれよ。座標登録などの記録などはこちらでしておくがな」
「っ、そりゃそうだよね。了解だ。元手がなければどうしようもないし」
「頼んだぞ、友よ」
ボルナレロは仕事をして欲しいならさっさとデータを集めてきてくれと催促し、その通りだとハーネイトは言いつつ、今まで収集したデータもすぐに渡すと約束した。それから2人はしばらく何があったか話をして情報交換をしていたのであった。
「しかし、高校生たちかな?何故このような子供たちまで」
「この世界で起きている、行方不明事件の被害者の約半数がこの年代の人たちなのだ。助けてからもいろいろあってね、結果的に手伝ってもらうことになったわけだヨハン。君もさほどあの子たちと年が変わらないだろう?兄貴分になってやって欲しい」
一方でヨハンは、自分とさほど年が変わらない子どもたちまでこうしてハーネイトの傍にいることに疑問を抱きハーネイトたちに質問する。
その理由を聞いた彼は、少し黙ってから自分と変わらずの悲しい人生を送ってきたのだなと思い彼らの力にもなろうと考えたのであった。
「それはいいですが、あの、労働法に違反してないですよねハーネイト師匠?」
「そ、そういうものもあるのか。だ、大丈夫だよね、ええ……」
「大丈夫ですよヨハンさん。俺たちは好きでやってるんだ。村を壊した犯人捜しもしてるんでさ」
「そうなのか……。だったらなおのこと、君たちを鍛え上げてそんな奴に勝てるようにこの僕もでき
る限りやりましょう。というか故郷の地球に戻ってきたらこんな状況になっていたとか困惑過ぎるのですが」
「え、ヨハンさん元々地球人?」
「ああ、僕は日本人とフランス人のハイブリッドさ。生まれは鹿児島なんだけど」
ヨハンは自分の過去について高校生たちに話し、自身は転移に巻き込まれた人の1人であり、DGに拾われそこで戦士として戦いに参加しながら、あるグループに加わり内部から組織を凡解しようと動いていたことを明かす。
「何でそう言う人まで異世界に……?」
「恐らく、事件に巻き込まれた君たちと大して理由は変わらないと思うよ。飛ばされた先が偶然、別の世界上だっただけの話さ、僕は運がいい、呼吸もできるしなぜか言葉も通じるところに飛ばされたが、中には海中や宇宙空間に転移され絶命した人もそれなりにいるってね」
ヨハンは、ある宇宙快賊から聞いた身の毛もよだつような話を響たちに聞かせるのであった。転移に巻き込まれた者の中には、不運にも生存に適さない場所に移動させられその場で絶命する人も少なくなかったと説明し、改めて自身は運が良かったということを彼らに話したのであった。
「聞きたくなかった話だな」
「転移の裏事情、恐るべしね」
「異世界転移系の小説読んでるけど、確かにそういうあれもあるよなあ。ぞっとする話だよなあ」
「先生の言っていた。他の仲間さんたちにも早く会ってみたいな」
「そうね、皆ユニークな感じの人ばかりで面白いわ」
「そうじゃハーネイトよ。こいつを受けとれぃ」
そう言いミロクは、懐に入れていた封筒をハーネイトに投げるように渡し読むように促す。
「おじさん、これは手紙ですか?」
「そうじゃなあ、ヴァストローという物からこちら宛に送られてきてのう。届けに来た」
「あっ、ヴァストローに渡す名刺間違えたかも?」
どうもヴァストローはハーネイトの故郷にある事務所の方に手紙を送ってしまったようであった。これはハーネイトが彼に名刺を渡す際に間違えて元々の事務所の場所が書いてあるのを渡したためであった。
「全く主殿は。しかし少しだけ聞いたが、霊騎士とはなあ。わしもだいぶ長く生きとるが、初耳じゃ」
「私もです。ですが、魔界復興同盟がその騎士たちの洗脳に関わっているようでして、気運汚染も同時期に発生しているわけでして」
「報告書を見たぞ、全くヴィダールを侮辱しているような奴等じゃな。我が影軍のコレクションにしてやろうかのう、フッフッフ」
ミロクは既に、ハーネイトからCデパイサーによる通信で報告書を読みその感想を述べる。改めてあのソラから逃げ、離散した神柱たちのことを思うミロクは、無理やり目覚めさせ利用しようとする存在に憤りを隠せなかった。
「影軍?」
「フッ、わしはこの妖刀が武器なのでな。影を取り込み、自在に召喚し戦う摩訶不思議な刀じゃ」
彩音の言葉に反応し、ミロクは腰に帯刀していた、禍々しい色の鞘に納められた刀を手にし高校生たちに見せた。
師であるハーネイトもよく刀で戦っているのを響たちは見ていたが、あれとは明らかに違う。思わず後ずさるほどの妖気を放っており、ミロクはどういう刀かを説明する。
彼の持つ刀は通称「影喰(かげばみ)」と呼び、斬った物の影を取り込み、影法師として召喚し攻撃や防御などに使用できると言う。
この刀の恐ろしいところは、際限なく影を取り込み放出も自在であることと、その影自体が質量を持ちつつ、霊量子の力で対霊特攻の力を帯びているという点である。
最大開放時はざっと5000億もの影をノーリスクで召喚し物量攻撃を実行可能ともはや存在自体が危険な業物であり、ハーネイトでさえこの刀を持ち戦うのは困難だという事実が、さらにこの刀の恐ろしさを強調する。
元々は第三世代神造兵器である神造人らが、超技術計画(オーバーテクノロジアス)で生み出した超兵器の一種だと言うが、詳細はいまだ不明な業物である。
「まさに妖刀、ですね」
「反則的すぎだろその刀!無数の影を召喚し、しかもノーリスクって、インチキ何とかもいい加減にしろってあれだな」
「ハーネイトの親族もまた、評価規格外クラスの存在というわけか。しかし祖父と聞いて驚いた」
「フフフ、そなたは、何者だ」
話を聞いて翼や宗次郎は目の前にいる老年の剣士に恐怖を覚えるも、この男が味方であることに安堵していた。
彩音と間城は、異世界に住む人たちは総じてけた違いの何かがないと生きていけないのかと思い互いに顔を見合ってから、宗次郎らの方を見て話を聞いていたのであった。
「ああ、わしは刈谷グループの代表である、刈谷宗次郎と申す。このホテルもわしのグループが管理しておるのだ」
「おお、貴方がか。孫からメールで話は聞いていた。孫が世話になっとるの。異界の者よ」
宗次郎は改めてミロクに自己紹介をし、話を聞いた彼はこの男が孫の言っていた世話になっている男だと分かり軽く一礼する。
「とても良いお孫さんですなあ。近代まれにみる好青年ですが、しかし……本当に神様の手先なのですかい」
「お主等が、ヴィダールを神と崇めそう呼ぶならそうなるじゃろうな。だが気負うことはない、それが主であり孫の望みなのだ。1人の人間として、今後も接してやってはくれぬかのう。異能の力を持ちながら、誰よりも人として生き続けたいと願う男じゃ。わしの息子に似ずに育ってくれたのは嬉しい限りじゃよ」
「そうですか、分かりました。ミロク殿」
「堅くならんでよいぞ、宗次郎殿。わしもしばらく世話になる、よろしく頼むぞ」
宗次郎の言葉に、ミロクの表情が思わず緩む。それからミロクは、ハーネイトに対して今まで通り接してあげて欲しいと宗次郎らに頼んだのであった。
その間ハーネイトは、レストランの席に座りながらヴァストローが送った手紙を読んでいた。すると真剣な表情で文を目で追い、その内容を口に出した。
「っ、これは……。魂食獣や悪鬼霊という存在が、生物以外に乗り移るケースがまれにあると」
「本当ですか先生」
「ああ、ヴァストロー曰く、もし見つけたら早急に撃破すべしであると。君たちももしも、奇妙なというか無人で動くはずがない物が動いていたら報告してくれ」
「了解したわ先生」
「街中の偵察も気が抜けないな」
ヴァストローは、事件の影響で魂食獣が異界空間内どころかその外側に出て悪さをすること、その中には機械などに取り付き勝手に動かす可能性があることと、その場合は速やかにそれを壊し魂食獣などを追い出すしかないと対処法まで手紙に書いていたのであった。
それを聞いた彩音や時枝は、また面倒なことが起きそうだと思いつつ自分たちが率先して対処に当たらないといけないことを分かっており、全員で監視の目を強化しようと言うのであった。
「そういえば渡野さんたちは?」
「あの3人は様子見だ。強引に目覚めさせると悪影響が出かねない」
そんな中間城は渡野や音峰、田村について今どうなっているのか質問する。ハーネイトは彼らについては経過観察が必要であると言いながら、少しずつであるが成長しつつあると彼女に説明した。
「少しずつ、分かってきたことがあるな。彩音、この事件の結末をこの目で見よう」
「うん、響。こんなことになるなんて、思ってなかったけどそれでも、私たちは事件を解決しないといけないわ」
響と彩音は、ホテルのレストランから見える春花の街を見ながらそう言い、これからが本番なのだろうと思いながらしばらく思いにふけっていたのであった。
少しずつ新たな仲間を加えたレヴェネイターズは、これから新たな事件に巻き込まれようとしていたのであった。
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