第68話 宗次郎からの依頼2・汚染土壌の浄化



「今度新たな部品の工場を建設しようとしたのだが、どうも予定地がかつてある工場の跡地でな、土壌汚染が予想以上に深刻なのだ。それで大和から聞いたのだが、創金術であらゆる物質を生み出せるとな」


「創金術か……全く大和さんは。……しかし自然を守るためならば一肌脱ぎます」


 ハーネイトはどこからその情報を手に入れたのかと尋ね、大和経由であることを聞きため息をついていたが、汚染浄化は自身の得意技ということで依頼を快諾した。


 何より、大自然を汚すものを彼は許さないのである。無意識の支配術とすら称される、無限の軍勢(パーフェクトアーミーズ)を使用する彼だからこそ、人間以外の生物にも人一倍気を使い自然を大切にしていたのであった。


 このためハーネイトの住む故郷では、彼に手を出そうものなら原生生物の軍勢に襲われるという話もあると言う。


「明日の昼過ぎ、時間を空けておいてくれ。現地まで連れて行こう」


 そういうと会議のため会社に向かうと言い、宗次郎はその場を車で後にした。ハーネイトたちはその後外出しリリーが見つけたうどん屋で食事をとり、その周辺の調査をしたのち事務所に戻り再び研究に勤しんでいたのであった。


 翌日、ハーネイトは宗次郎の車に乗せられある場所に案内された。


 それはかつて不法投棄などが横行していた場所である。その影響で土壌がかなりひどく汚染されていた。ハーネイトは意識を集中し、地についた足裏からその土地についての情報を吸収する。


「……重金属のオンパレードか、とりあえずどう変えようか」


 ハーネイトは大和からもらった高く売れる金属ランキングとより効率よく変換できる金属元素を考慮し、ある貴重な金属にすべて変換してしまおうと考え、あの技を発動した。


「創金術発動!(イジェネート・オン)」


 ハーネイトはそう叫び、右掌を地面に置く。すると次の瞬間、白く輝く金属の柱が無数に地面から隆起し辺り一面全く別世界と化していた。


「なんと、辺り一面プラチナの金属結晶、だと?いや、他にもこれはレアメタルの一種か。いかん、わしは夢を見ておるのか?」


「割合近い元素なので容易でしたね。あとは回収して売りさばくとよいでしょう。……作りすぎたかも、あはは……」


 ハーネイトは振り返りながらニコッと笑い、うまくいったことを宗次郎に報告する。


 大和から彼の人知を超えた能力について話を聞いていたがそれに関してだけは本当に半信半疑であった。しかし今のを見れば、もう受け入れるほかなく思わずヘナっとして地面に座ってしまったのであった。


「愛馬を完全に治すわ金属を生み出すわ、あまりにも破格の力を持っているのだなハーネイト君は」


「この程度造作もないのですが……これで依頼完了ですね」


「ああ、確かプラチナは現在供給不足で高値で売れるはずだ。売った代金の6割は君に渡そう」


「そんなにですか?わーい!じゃなくて、まあ、ではそれでお願いします」


「あとは回収班などに任せよう。ご苦労だった。まさかほかの業者に頼まずここまでとは」


 宗次郎はそう言い彼の活躍を褒め称え、すぐに各部門へ連絡をした。すると10分ほどしてどこからか大量の車、トラックが到着し多くの人員が回収作業などをてきぱきとこなし始めた。


 あとは任せるぞと責任者に伝えると、宗次郎はハーネイトを連れてその場を去り自動車に彼を乗せると発進したのであった。


「ほう、検査部からの報告で地中にあった危険な重金属を始めとした物質はほとんど測定不能レベルまで濃度が下がっていた。すばらしい。その力で各地の汚染された場所を浄化できれば、それだけでも大金持ちだ」


 その後しばらくハーネイトは宗次郎の車で市内を見回っていた。部下からの報告で検出された土壌中の重金属の数値がどれもほぼゼロになったことを聞いた宗次郎は改めて、他にも同様な土地の浄化をしてくれないかという提案に若干苦笑いしつつ、ハーネイトは車の中で外の青々とした森の景色を見ながらあることについて思わずつぶやいた。


「それはそれは。しかし、あれだけの事件が起きていながらここまで騒ぎにならず暴徒化とかないのが不思議というか……」


「ああ、一見以前の生活ができるように保たれているように見えるが……色々変わりすぎだ。しかしパニックを恐れ真実は表に出てこんよ。政府も実質名ばかり、張子の虎、じゃ。わしら多企業複合体が、多くの国民の生活を様々な面から支えておるのだ」


 ハーネイトの疑問に対し、宗次郎は運転しながら数々の事件に関して、政府の方は必死に人々の記憶から消えてもらおうと必死であり、また事件の特殊性から信じてもらえないと思い口を閉ざしている人も少なくないと説明した。


 何よりも、5年前の事件により政府への信頼が完全に失われているような状態でありその代わりに、企業が国を運営しているようなものだと背景を簡潔に説明する。それと合わせ、さらに宗次郎は私立春花九条学園についても設立の経緯について話をするのであった。


「それと、九条学園を設立したのも実は儂なのだよ。稼いだ金で巨大な学園を作り上げたわけだ。事件に巻き込まれ親を失った、前途ある子供たちを救うために寮なども用意し教育をしているのだよ。未来への投資は、何よりも大切なことじゃからな」


 ブラッドホワイトデー事件の後、宗次郎が独自に自身が稼いだお金をつぎ込み、私立春花九条学園という学校法人などを作ったという。


 響たちの通う高校もその学園内にあり、元々は様々な事件や不慮の事故などで親が亡くなる、あるいは親元で生活できなくなった子供たちを受け入れるために設立したと宗次郎は説明する。


 ハーネイトも、実は理由は違えど似たようなことをしてきた。大陸間だけでなく、街単位で教育格差が激しい場所で先生を育て、学校を運営できるようプロジェクトを行い続けているという。


 そのような学校に通う子どもの中には、魔獣や侵略者に親を殺された子供たちも少なくなくこの魔法探偵もまた、稼いだ金で支援事業に参加していたのであった。


 互いに話を聞いた後、似た者同士だなと2人はそう思い、親密度が上がる。


「響君たちを始めこちらの生徒はこちらの権限で色々支援できるが、他の生徒がどう思うかはあれだ。だが、あの行方不明事件や血徒と呼ばれる存在についてそなたが話を直接すれば……」


「機密の件もありますし、難しいですね……。というか話を理解できる人がまず少ない?……あの光る亀裂と関係した異界化現象の起動条件を満たす人達がこんなにいるなんて、思ってもなかった。そうでないならここまでしてこなかったかもしれない」


 人生予想外の出来事ばかりと言うが、響たちが亀裂内に引きずり込まれ襲われたことこそ、彼らにとっては最も驚いたことであり、計画の見直しを迫られたポイントである。


 元々最初は、別の行方不明者を探すため依頼を受け動いていたハーネイトと伯爵であったが、響たちが異界空間の中に引きずり込まれた話を聞きそこから事態が大きく変わったのであった。


 そうこうしているうちに人員も集まり、これからは更に、彼らの負担を少しでも減らすため上司である自身がどうにかせねばならない。そこで彼はある構想を考えていると宗次郎に説明したのであった。

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