第9話 具現霊(レヴェネイト)発現!
「これは大きいな、ざっと30名と少しか。ターゲットもいるな、早急に片づけないとな」
「タコ型の魂食獣とはよぉ、ガチの魔獣ならたこ焼き何人前採れるか……やれやれだ」
「誰ですか、こんなところに入ってくるなんて。……フフフ、丁度良かったわ」
5人が対峙したその巨大な怪物。それはこちらの気配に気づき、5つある赤く怪しく光る眼がこちらを捉えると睨みつけたままその場から動かなかった。
その時タコの頭上に突然一人の少女が現れ、そこから飛び降りてすっと音を立てずに着地し、腰に携えていた突剣を素早く抜くとその剣先をハーネイトたちに向けてきたのであった。
「こういうところに来るってことは、只者じゃなさそうね。何をしに来たの?」
「私は、そこに捕まっている人たちを助けに来たのだが」
「助けに?へええ、だけどそんなことはさせないわ。行くわよ、ダングリアヌート! 」
仮面を身に着けた件の少女は、背後にいる怪物に呼び掛けると同時に突撃を仕掛けてきたのであった。その勢いに押されそうになるも、ハーネイトたちは的確に行動する。
「いきなりか、全員応戦しろ」
「遠慮なくいかせてもらうぜ」
「私は上から支援するわ」
「お前らは捕まった奴らを助けに行ってこい!」
その動きに素早く対応し、それぞれが得意な間合いと陣形を取った。ハーネイトと伯爵、リリーで気を引き、その間に2人で左右から仕掛ける。
「行くぜ彩音!」
「ええ、響!」
「っ、そうはさせない!創金剣術・剣銃(ブレイドバスター)!」
2人に背後から襲い掛かる触手攻撃に対しハーネイトは空気中から数本剣を作り射出し、一撃で触手をまとめて切断し守る。チャンスだと思った響は飛び上がり、彩音はそのまま突撃し触手に捕らえられた人を霊媒刀で切り救出していく。
「危なかったっ!今のうちに!」
「このっ!ぶつ切りにしちゃうんだから!」
「そうはさせない!」
「おっと、そいつぁ野暮ってもんよ。醸せ、
「きゃああっ、何よこれ、き、気持ち悪いし、と、溶けてる?え、えええ!?」
その動きを邪魔しようとする仮面の騎士に対し、伯爵はニヤッと笑い彼女の進む方角に灰色の煙のような壁を幾つか形成する。それに触れた騎士の防具が腐食し、思わず驚いて彼女は声をあげたのであった。
「これでも相当加減しているんだ、有難く思いなお嬢さん!相棒、一撃ぶちかませ!」
「言われなくても、弧月流・月陽!」
彼女が動揺した隙をついてハーネイトが一気にワープし間合いを詰め、彼女を逆袈裟斬りから袈裟斬りと剣軌跡を繋いで切りつけ打ち上げる。さらに追い打ちをかけて伯爵が地面から菌でできた縄を形成し彼女の体に巻き付けたのち地面に激しく叩きつけた。
「きゃあああっ!な、んて、ぐっ……強すぎるっ」
「勝負あったな。って響、彩音、そっちに行くな!」
仮面騎士の体力を強烈な一撃で奪いダウンを取るも、響と彩音に迫るダングリアヌートを見たハーネイトは声をかけ、何もない空間から何本も鎖を発射したこの動きを止めようとする。
しかしあまりに咄嗟に発動した影響か拘束力が足りず、魔生物の突進を止められないかと思ったその矢先、響と彩音の体が突然光り溢れる霊量子が周囲をまぶしく照らし、閃光弾の如く巨大タコの動きを止めたのであった。
響と彩音はその後その場で崩れるように倒れる。そう、彼らは自分の鏡でもある幻霊(トラウマ)により悪夢を見せられていたからであった。
響も彩音も、9年前に起きた集団昏睡事件で亡くなった父や祖父祖母のことを思い出し、なぜ早く村から連れ出さなかったのか、犯人をこの目で見たのに何もできなかったのかという後悔と無念が体を支配していた。
「この声は、懐かしい……声。どこから聞こえて……」
響は、暗闇の中にいた。その中に響く、どこかで聞いた声、懐かしい声。それに耳を傾けていた。その声の主は、すぐに分かった。なぜならば、いつの間にか目の前に今は亡き父の姿をした光る人のような何かがいたからであった。
「響、聞こえるか」
「その声は、父さん!」
「ああ、そうだ。まさか、このような形で再会するなんて、な」
響は、幼い時に父を亡くしている。元々父は警察官であり、将来の夢は立派に仕事をし、皆の生活を守っている父のような存在になりたいと彼は思っていた。
だが、父はある日を境に帰って来なくなった。そう、何者かに襲われ命を落としたからであった。それからすぐ、突然住んでいた村が政府の命令により住めなくなり、響は母と妹共にこの春花に来たのであった。
だから、もう一度父の声を聴いたとき、最初は幻かと思っていたが、これはどうも違う、そう響は直感で感じていた。
「父さん、今俺は、友達を助けるために……だけど、どうすればあれを」
「ああ、だが今の状態では助けるどころか、お前が命を落とすかもしれん。先祖が戦ったとされる、人の形をした異形の者。響よ、俺はそいつに命を奪われたんだ。このままでは、更に被害者が、出る。あいつらは、村の宝を奪った。俺はそれを守ろうとして……このざまだ」
「なっ……!だ、だけどそれでも、俺はっ!もう誰も失いたくないんだ!父さんの無念も、俺が代わりに取ってやる!皆を守ってきた、父さんのように俺はなりてえ!」
何故父が命を落とさなければならなかったのか、なぜそうなったのか、それを聞いた響は、今目の前にいる何かは、父の意思か何かだろうと思うようになった。
それでも、自分はもうあんな思いをしたくない、ましてや友の命が危険に晒されている今、無力感がこみあげてくるこの状態を、どうにかしたい。響は覚悟を決めた顔と目をしていたのであった。
「あれから成長したな、響。ならば、俺の手を取れ、俺と縁を結ぶんだ響!そうすれば、お前は力を得て友を助けられる。今の俺では、お前を助けるために必要な力が足りない。手を握るだけでいい、そうすれば縁を結び、契約し戦う力をお前に与えられる」
響を見た、父である勇気の魂霊はそう声を彼にかけ打破する方法があると言う。自身に現霊としてこの世に映し出すだけの力を注いでほしいと息子にそう頼んだ勇気は、これ以上家族を失いたくないという思いだけでここにいたのであった。
「わ、分かったぜ父さん!!!俺は、運命を切り開き道を作る!」
「ああ、勿論だ息子よ。行くぞ!」
幼いころに別れた2人は、この場にて再会し、互いに手を取り共鳴することで、新たな力を獲得したのであった。
一方で彩音も、周囲が青くまるで海の中にいるような感覚を覚える空間の中にいた。冷静に周囲を確認すると、少しずつ何者かの声が彼女の耳に入ってきた。
「ここは、どこかしら。まるで海の中、みたい」
「彩音や、聞こえるかのう」
「そ、その声はおばあちゃん!?」
するといつの間にか彼女の目の前に、腰が少し曲がった老人のような姿の光る何かが現れていた。彩音はよく観察し、確かにこの感じは、村が廃村指定を受ける少し前に亡くなった母方の祖母、弁歌のものであった。
「これが、幻霊?」
「彩音よ、このまま事態を見過ごせばあの異形の者に、全てを奪われるぞ。わしが、戦い方を教えてやろう、手を取るのじゃ彩音」
「おばあちゃん、そう言えば若い頃に怪物と戦ったことがあるって、言っていたわね。……お願いおばあちゃん、私は家族の仇を取りたい、そして、世界を守りたい!」
彩音は、よく祖母の家に遊びに来ては、弁歌の武勇伝ともいえる若い頃の話をよく聞いていた。自分たちの村は、代々光り輝く神秘の球を守ってきた。それを奪いに来るものをすべて、村人総出で撃退していたという。
いつしか彩音も、祖母のような頑健で豪快で、何より大切なものを自分の力で守れるようになりたいと、元々好きな踊りや音楽だけでなく、武術も習得したという。だが今立ちはだかっている問題は、それだけではどうにもならない。だからこそ弁歌は、孫である彩音にある方法を授けた。
「若い者に、苦労をかけさせたくはなかったのじゃが、事態は一刻を争う。さあ、縁を結べ孫よ。手を取り、このわしに力を注ぐのじゃ」
「わ、わかったわ!そうすれば、私もあれと戦う力を!」
彩音と弁歌の魂霊は互いに手を差し出し、縁を結ぶ。この世に帰ってきて、彩音の想いと今まで培ってきた力と経験が魂霊と共鳴し、それは大きく形を変え、彼女の力となった。
2人とも、幻霊の試練を見事乗り切り、新たに現霊を行使する者が誕生したのであった。
「縁を結び、現世(うつしよ)に現霊映し出す者よ。我が名は言乃葉。言呪と神刃にて汝を護る者なり!」
「縁を結び、現世(うつしよ)に現霊映し出す者よ、我が名は弁天。響音と祝福にて汝を護る者なり!」
響も彩音も、意識がはっきりしない中、頭の中に出てきたその言葉を無意識に口に出した。半分現霊に体を支配された半トランス状態の中で発した言葉、それは現霊に対する契約と誓いの言葉である。
その時、彼らの体から光が溢れだし、それは形となる。そう、それが終わりある命持つ者が、神気に認められた時手に入れる、守護霊体。亡き者がまるで蘇ったかの如く現れるそれは、レヴェナントと言う亡霊、帰って来た者という意味の言葉から、現霊(レヴェネイト)と呼ばれるのであった。
「頼んだぜ、言乃葉!」
「私と共に、弁天!」
この力を手にしたものは現霊士(レヴェネイター)と称されるようになり、彼らはその更なる力を手に入れた存在となったのである。
「あれは、武人の姿か。質実剛健そうな、無駄のない鎧。そして仮面らしきもの。潜在能力及び未知数の力……これは期待できるな」
ハーネイトは響の生み出した言乃葉を見て、率直な感想を心の中で述べた。全身を黒鉄の鎧で包み、頭には日輪の様な飾り、そして烏帽子のような装具、手には二振りの日本刀が互いに柄の部分で合体し、風車のような状態の武器を手にしていた。
これが響の具現霊、言乃葉である。過去に起きたトラウマもまた、自分の運命なのだと受け入れ、そのうえで父のように逞しく強くなりたいという意思、そして今は亡き故郷にあった実家の鎧、そして亡くなった父への思いと音、そして音楽、言葉を好む彼らしい姿となったのであった。
「一見異形の姿に見えるも、その手にした楽器は常に波動を放ってやがる。そしてあの手にした武器は……まるで音叉みてえだ。きっついなこの波動、やはり只者やないなこいつら!」
一方で伯爵は、彩音の生み出した具現霊、弁天を見て感想を率直に述べる。
人の形をしているが、全身を青いタイツで包み込み、いくつかの装飾品を身に着けている。手には巨大な木製でできたような琵琶。そしてもう片方の手には先端が音叉のようになった長い槍を持ち、その琵琶と音叉の部分から常に何かしらのエネルギー波が出ているのを伯爵は肌で感じ取っていた。
彼女の祖母への思い、そして救えなかった後悔。今までの出来事、目が見えなかった祖母が大切にしていた琵琶。そして以前本で読んだ神話の本。そして大好きな音楽の力が融合し一つの形を結んだ。それが彼女の意思の表れ、具現霊として今ここに、弁天として顕現したのであった。
「砕けろ、言呪・壊!」
「響け、共鳴破!」
2人はしっかりと標的を睨むように見つめ、手にした武器を持って突撃しながら、具現霊に指示を出す。すると言乃葉の口の部分に魔法陣と言葉のようなものが現れ、霊量子の閃光による一時的な盲目から回復したガングリアヌートの触手をすべて崩壊させた。
さらに追い打ちをかけ、彩音の弁天は音叉薙刀を突き出し、そこから放たれる強烈な音波に霊量子をのせた。その一撃が巨大タコの心臓部に直撃し、粉々に破壊した。そしてコアを失ったそれは、次第に光となって消えていったのであった。
その余りある力に、ハーネイトも伯爵も本能のままに、咄嗟に体を構えて防御せざるを得なかったほどであった。
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