第10話 仮面の騎士・ゼノンと死霊騎士団



「なんという力だ。これほどとは。フフ、見立ては間違ってなかった。予想よりかなり早く目覚めたのは驚きだが、大したものだ。それだけ、辛い思いをしてきたと言うわけだな」


「音を操る具現霊は初めてみたで。ビリビリ来やがるぜ、へへへ!お前ら超グレイトォだぜ!」


 2人の潜在能力、そして能力の発現。予想以上の結果にハーネイトは表情はあまり表に出さずも、内心では飛び上がる程喜んでいた。それと同じくらい伯爵も上機嫌で新たな霊量士、そして現霊士の誕生に拍手していた。


「はあ、はあ。もう……」


「おっと、お疲れさん2人とも、ナイスファイトだったぜ」


「流石、私が見込んだだけのことはある。……だが、これからだ」


「そうだな。さあ、亀裂の外へ……いや、やることがまだある」


 外に出ようと全員に言おうとしたがハーネイトは少し待てと指示を出した。それは地面に倒れている仮面騎士のことが気がかりであり、何か情報を聞き出せないかと考えたからである。そうして倒れている彼女の下に彼は駆け寄った。


「くっ、なんて奴らなの。……こんなことして、只…じゃおかない、んだから……!」


「もう、やめといたほうがいいんじゃない?」


「死霊、騎士団に勝つには、能力者が、必要、なの……よ」


「死霊騎士団?なんだそれは」


 仮面騎士はどうにか起き上がりながら、聞いたことのない集団についてキーワードを言い、ハーネイトもそれが気になり彼女の体を少し魔法で治した後、その死霊騎士団についての話をメモにまとめた。   


 彼女が話した内容をまとめると、あらゆる魂を集め、詳細は不明なものの何者かにそれを捧げるために動いている悪霊の集団がいるという。


 それは霊界出身であり、全員が魂食獣を操る力と魂を刈り取り命を奪う術を磨いた凶悪な集団であることと、それらが本来干渉しあってはいけない魔界の住民と手を組んでいることにも触れつつ、彼らがもたらすであろう脅威を食い止めるために立ち上がったのが、仮面の騎士という霊界人の集団であるということを確認した。

 

 この霊界と言うのは少なくともこの地球とは違う次元、詳しく説明するならばヴィダール神ソラの作った、神々の楽園とも呼べる世界であった。そこには霊体生命体が数多く暮らしているという。また、肉体を失った魂が流れ着く場所であるとも言われているが、詳細は不明である。


「ほう、そいつらが魂食獣の暴走を招いているのだな?」


「そういう、ことよ。私たちだけじゃ向こうの方が戦力が多すぎて勝てない……の。それに、ここ最近この空間に人が入ってきてて、見つけ次第保護しているのよ。魂食獣に襲われたらひとたまりもないし」


「そういう背景があったのか。だが、捕らえたなら外に出せばいいだけだろう」


「あのねえ、そうしても次々入り込んでくるし何人かに話を聞いたらいきなりこの空間にいて彷徨っていた人ばかりよ。拘束していたのは、その人たちに何かあるんじゃないかって思ったのと、もしかしたら死霊騎士団に対抗できる逸材がいるかもしれないと思ったからよ」


 仮面騎士はそうして一通り今まで何があったのかを説明したが、ハーネイトは彼女の最後の言葉に少し呆れていた。やり方が荒すぎるのではないかという点である。


 確かに彼女の言うとおり、この異界空間に入ってくる人間というのがレアであり、何か秘密を持っているのではと思うのは分かるが彼女はその人たちを強引に戦士に仕立てようとしていたことが良くないと彼は言い、その上でもうやめるようにと言ったのだが、彼女はとても不満そうな顔をしていた。


「だからって、あの連中の悪行を止めないでいいの?あなたたちの世界にも影響が既に出ているし放置してはいけないはずよ」


「ならば、私たちが倒せばいいだけだ。女神代行の名、それに絶対勝利請負人の名にも懸けて、ね」


 ハーネイトはそう言った存在を倒すのも自身らの仕事であると彼女にそう告げ、大丈夫だ、任せろと、静かに胸に拳を当てるモーションを取る。


 それを見たのと先ほどの戦いぶりから、もしかするとあの裏切り者たちの暴虐を阻止できるのではないかと考えた仮面に騎士は、肩を落としてからこう言った。


「あなたたち……。はあ、まさか、こんな形で。……私は降参するわ。だけどほかの4人たちは事情を知らないし、連絡が取れないわ。彼女たちもそれぞれ独自で動いているのよ。それぞれのやり方で事件を起こす可能性があると思うし、その……入ってきた人たちに何かするかもしれないわ」


 実は仮面の騎士は1人ではなく、あと4人おりそれぞれが能力者を集めるため独自に活動していることをハーネイトに告げる。


 その人たちも同様の事件を起こすかもしれないこと、そして彼女たちも死霊騎士団に狙われていることを説明した。それを聞いても、ハーネイトは優し気かつ余裕の表情で、


「その時も、止めるまでさ」


 と言葉を返した。すると彼女は今起きている事件に関連し、9年前に起きた事件、あの響たちの村が廃村になった集団衰弱死事件についての話と、死霊騎士団と関係があるのではないかと彼らに話した。それを聞いた響は驚くものの、彼女に言葉を返す。


「そこの騎士さん、一緒に来てくれよ。その死霊騎士団ってのが、俺のいた村と関係があるっているなら、何が何でも倒してやる」


 と真剣なまなざしで仮面の騎士を見ながらそう言った。この子供たちも何か因縁がありそうだ、そう彼女は思い協力するならばできるだけ何かしてあげたいと思ったのであった。


「……仕方、ないわね。それと私の名前はゼノンよ。ねえ、緑髪の人?」


「私のことか?私の名前はハーネイトだ。そう呼んでくれ」


 彼女の名前はゼノンと言い、ハーネイトも自身の名前を明かす。探偵であり何でも屋であることと、異世界浸蝕の件について話をすると彼女は人が引きずり込まれる理由がようやく分かり納得した顔をしながら、じっと彼の顔を見つめる。


「ハーネイト、ね。なぜ、お母さんの雰囲気がするの?」


「何を言っているのか、意味が分からないな」


「……あなた、ヴィダールの神様?おかしいとは思っていたのだけれど。でも、それ以上の力を宿している?」


 いきなり奇妙なことを言い出したゼノンをハーネイトは不思議に思うも、次に彼女が発したその言葉に彼は一瞬固まった。


 実は彼女と剣を交えているとき、彼は妙な感覚が体を駆け巡るのを感じ取っていた。それはかつて、彼が故郷の星で戦った際に感じたものと同様の者であり、それと同じならば今目の前にいる彼女は自身と同じ神性を持つ存在ではないのかと考えていた。


 それはどうも的中したようであり、詳しく話を聞きたいも、響と彩音に聞かれてはまだまずい内容もあるため待ってくれとハーネイトは彼女にそういう。彼の体には秘密がたくさん存在し、その中には世界創成に関わる情報もあると言う。


「待て、その話は彼らに聞かせるのはまずい、あとで答えるから待ってくれ」


「……まあ、いいわよ。その代わり、私たちの代わりにあの霊界の裏切り者たちを倒してほしいの。今の私たちだけじゃ、実力が離れすぎているわ。だから、あんな真似をしたのだけど、もうしないから代わりに、貴方たちが、あれを倒して止めて欲しいの」


「約束しよう。異界化浸蝕と関連があるのか調べてみる必要がある。それに、色々気になることがあるのでね」


 そうハーネイトは言いながら彼女を握手をして確認すると、早く空間から脱出しようと響や伯爵たちが確保した被害者たちを抱きかかえ、急いでその場所を後にして外に脱出したのであった。


 周囲を見渡し、人がいないか確認してから霊量迷彩を解いた各員は被害者を床に寝かせ治療の準備に入った。


「全員無事に救出できたのはでかいな。しかし、私たちの顔がばれるとまずい」


「別に問題は、ないと思うんだけど」


「あるのだよ。中級の記憶操作系呪術を使おう」


「っと、その前に彼らの治療をしなければ」


「私も手伝うわ、91番でしょ?」


「そうだ、しかしもう番号より○○式と言った方がよさそうだな」

 

 ハーネイトと伯爵は別の世界の住民であるため、極力存在がばれないようにするためそれをすることにした。記憶を消すことについては魔法で容易に可能なため、治療魔法と同時並行で作業を行っていく。

 

 しかしハーネイトはこの時、ある懸念を抱いていた。もしこの被害者たちが全員霊量子の力に目覚めた場合、術がはじき返される可能性があることである。


 本来術式には魔粒子(マカード)を用いて魔法を扱うのだが、ここは地球であり魔粒子の濃度が薄い。そこで霊量子でそれを再現しようというものであるがそれが問題だった。


「周囲に誰もいないか?」


「いねえよ。てか菌結界張っているから見えやしねえし。菌卓召喚するか?」


「それはやめろって」


「今から、何をするの?」


 ゼノンは今から何をするのかとハーネイトに尋ねた。それに少し疲れた表情を浮かべつつハーネイトは説明を彼女にした。


「君たちが無茶した結果、彼らの霊量子は消耗状態かつ、体に負荷がかかっている。素質がなければ、命を落としていた可能性もあるが……その心配はない。さあ、始めようか」


 ハーネイトは手早く術式を組んで、あっという間に詠唱を完了し被害者たちの身体及び精神状態を調整しつつ、その前後に関する記憶を同時に消したのであった。


 彼は剣術や攻撃魔法の他にも、回復系の魔法に関して高い技量を持っているという。と言うか、実は彼、戦うよりも治す方が好きで得意だと言う。


 そうなったのは、ある凄惨な事件で唯一生き残ったと言う事実と、無力さと後悔。それをばねに懸命に研究し続けてきたからである。


「これで問題ない」


「本当に、それでいいの?」


「私たちの仕事は、極力知られずに行わなければならない。私と伯爵は別世界の住民だし、下手に動くと自分たちが行方不明事件を起こした犯人だと言われかねないぞ?」


「そ、そうね……でも、ここで開放してもよくないと思うのですが」


 自身らはともかく、響と彩音が犯人と間違えられるのは面倒であるが被害者たちを確実に助けるには病院に連れていく必要がある。それを2人に言うと響はある病院ならば行けるかもしれないと申し出た。


「ハーネイトさん、市内にある春花記念病院ならばこの人たちの数でも恐らく入院に必要なベッドはあるはずです。母が言っていました」


「母だと?もしかしてそこで働いているのか?」


「はい、看護師として働いています。一八かもしれませんがどうですか」


「背に腹は代えられない。そこまで私がどうにか連れていく。みんなは事務所に戻って」


「俺も手伝う。病院は好きじゃねえが、衰弱がひどいこいつらを助けるにはそうするしかねえ」


 ハーネイトは響の話を聞いたうえで場所について教えてもらうと、急いで被害者をまとめて自身の次元倉庫に格納し、すぐさまその病院までテレポートしたのであった。伯爵とリリーもまたハーネイトの後を追うかのように姿を消した。


「大丈夫かな本当に、だけど任せる他ないな彩音」


「あの人たち、色々ありえないけど1つ確かなことがあるわ」


「それって?」


「人を助けるのにためらいが無くて、素敵な人たちってことよ」


「ああ、そうだな。ひとまず事務所に向かおう」


 そうして響と彩音はハーネイトの指示通り速やかに学校を離れハーネイトの事務所に一旦戻ったのであった。

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