第7話 初任務と学園内の異様な霊反応
「いきなりですか?」
「最初だから勿論加減はする。むしろ君たちの方が適任な仕事だ。2人には、街中の調査と、新しい拠点の確保を行ってほしい。何せ私たちはまだ土地慣れしていないのでね」
ハーネイトは早速彼らに2つの任務を言い渡した。それは今後のカギを握るものであり、それについて簡潔に説明した。
要は、街中を歩いて例の光る亀裂が他にあるかどうかや、気になったことがあれば情報をまとめて欲しいのが1点、新たな事務所となりそうな施設、建物を探すのがもう1点。話を一通り聞いた2人だが、響が気になった点に関して彼に質問する。
「調査はいいのですが、なぜ拠点を?当面ここでよくないですか?」
「人が増えたからね。君たちにしっかりとした霊量士の教育や鍛錬を行うとなると、一定の土地や建物が必要になってくる。お金はあれど、なかなかいい場所がなくてな。ほら、私って別世界から来たから色々とね……うん」
「あぁ……それもそうですね。慣れない環境で大変ですよね先生たちは。だからずっとここに住んでいる自分たちに代わりに探索を、ってわけか」
「勿論こちらも色々歩いて調査するけどね。情報は足で稼げってよく言うだろう」
「分からないことがあったら聞いてほしいな、えへへ」
自身らの強化につながる拠点づくりと聞いた響は納得し引き受けることにしたが、別の世界から来た人もまたこうして苦労しているのだなと思うと複雑な心境になったのであった。次に彩音は冷静に、調査方法について質問をした。
「えーと、私は……街中の調査について、何か重要なことはありますか先生?」
「そうだな、これを渡すから、これに亀裂や霊量子の異常な反応があった場所を地図上でタッチしてくれ。そうすれば記録される。また通信機器の機能もあるし、君たちが使うスマホという通信器具とさほど変わらん」
ハーネイトはそう言うと伯爵に対し指示を出し、戸棚に厳重に管理されていた、腕に着けるタイプの通信機器らしき何かを2人に配布し、その装置の機能について幾つか説明をした。
これはハーネイトが開発した通信および補助装置、「Cデパイサー」という。霊量子を利用した機関を採用したことにより、拡張性と稼働時間を極限まで引き上げたという。また防御力場の形成や生命維持装置、体調管理、治療なども行える優れた装備品であり。
これは彼が中心となって立ち上げられたプロジェクト・CX(クォルターンX)により開発された、最新鋭の霊量士用霊量通信デバイスである。
「霊量子を取り込んで動くのか、だから無限に動かせるのかよ」
「普通に聞いて反則級な代物ですね。しかも軽いわ、本当に何でできているのかしら。発泡スチロールなわけないよね。ちょーっと、左腕がごつい感じがするわ」
「くれぐれも取り扱いには注意してくれよ2人とも。特に紛失だけは注意してくれ。今いる世界にはない元素を使った合金なのだ、そのフレームは」
紛失だけはするなと、ハーネイトに念入りにそう言われた響と彩音は、再度Cデパイサーを見てやや緊張した面持ちで返事を返した。するとハーネイトは市内の地図を机に広げ、手分けしてどこからそれぞれ調査するか打ち合わせをした。その中でリリーが補足説明をし、犯人の目的についても追加で調査しないといけないと2人に告げた。
「それが俺たちの仲間である証明にもなるからな、頼むよ?」
「了解、しました」
「それで、どのあたりを調査すればよろしいのですか?」
「この街の中央部を頼む、私と伯爵は南から今日の夜調べる。どうもあの別の場所に転送される的な場所がこの街だけでも10以上はあるみたいだ。ざっと追加で調べただけでこれとか、正直頭が痛い」
「じゃけん頼むぜ。もし危なくなったらそのボタン押してみぃや。すぐに駆け付けてやっからよ」
「一番は、これ絡みでなく全員無事に見つかるのがベストなんだけどね……できる限りのことはするからね」
ハーネイトは自分らの担当区域も述べ、手分けして光る亀裂の数などについて記録する作業を行うことを話す。その上で、彼は今までの調査からある考察をしており、それについて話をする。
「1つ、可能性としてだが……。素質のある存在を集めて、何かをする集団がいるかもしれん。伯爵が言っただろうが、危なくなる前に、連絡を」
「まあ、霊量武器まで使えるようになればあれらとの戦闘も問題ないと思うが、嫌な予感がする。無理はするなよ」
「はい。今日明日で街中を調べてみることにします」
「それと、拠点の方も何かあれば連絡を頼む。出来るだけ広い空間がいくつもあるところがいいのだが」
「分かりましたハーネイトさん。それと、もし体から血を流して彷徨っているゾンビっぽい生き物がいたら、絶対に交戦するな」
「わ、分かりました伯爵さん」
「さんはいらねえぜ、んじゃ今日はここでお開きだ、お疲れさん」
そうして、2人は挨拶をしてから事務所のあるビルを出た。大分日も落ち、思ったより長い時間あの場にいたのだなと思いつつ帰宅の途につく。
「そろそろ日が暮れるな。一応母さんに連絡しておこう」
「そうね、私はどうしようかな。何だか、いつもと何ら変わらない街並みなのに、何もかも違って見えるわね」
「そうだな、彩音。まさかあんなことになっているとはな。って、小さい亀裂見つけたぞ。こいつは……っうわわ!当たりかよ」
「えーと、入った以上は出口がすぐに見えるというけど、ああ、あったわ!あの時は混乱していたから見つけるのが難しかったけど、目を凝らしてよく見れば、ね」
「今まで何で気づかなかったんだろうな」
「そうね響。ふとした拍子で目覚めたのかな、あれに襲われる前に」
ハーネイトの処置により、能力が向上した響と彩音は、今までよりも小さな亀裂を見つけられるようになっていた。試しに近づくと、あの青い空間にいきなり移動したような状態になり焦るものの、アドバイスを聞いた2人は冷静に出口を探し、すぐに外に出ることができたのであった。
「ここについてチェックしておきましょう」
「早速当たりなうえに、どうもあの人たちがまだ見つけていない場所だな。本当に、翼の奴どこにいるんだよ」
「こちらにもあるわ。でも人が入れそうな大きさじゃないわよ」
「だが、そういうのも次第に大きくなるって言ってたよな。うっかり中に入ったら……あれ、これは違うみたいだな。放置していていいのもあるってのが曲者だ」
「そうね。えーと、これで亀裂のあった場所を入力すればいいのよね」
「しかし、結構便利だなその機能」
「ええ。地図をこうして使ったことなかったし、これはこれでいい経験ね。一般向けにして防災系の機能とか入れたら売れそうなのに」
2人はそう話しながら、ハーネイト及び伯爵に教えられたとおりに与えられた装置を使用し、亀裂が観測された地点を地図上でタッチしながら入力していった。しばらく作業をして一段落すると、その通信機器から連絡が入り、響がそれに出た。
「はい、ハーネイトさん」
「調査の方、順調みたいだな」
「そうですが、こんなに亀裂ってあるのですか?」
「力に目覚めて、感知力が上がったからかもしれないが、それでも見る限りなんか多い。協力感謝する」
先ほど彩音が入力したデータはすぐに共有され、ハーネイト側にも情報が伝わっていた。それを見て、ある場所を中心に亀裂の数が増減していることが分かったハーネイトは2人にこういう。
「やはりか。そして君たちのデータから、ようやく分かったことがある。急ですまないが、30分後に中央街の駅の広場で待ち合わせできるか?」
「いいですよ。では向かいます」
ハーネイトが改めて話したいことがあるといい、2人は待ち合わせ場所である春花駅の広場に向かい少ししてから3人と合流した。
「呼び出して済まないな」
「いえ、それで分かったこととは?」
「どうも行方不明になった人たちは、あの学園内の亀裂の中にいるのではないかとな」
「学園に近づくほど亀裂数が多いうえに、行方不明になったと思われる場所と亀裂の数に関係性が見られるって相棒が分析したのさ」
「そしてさっき、異様な反応を一瞬だけ検知したわ。私も肌と装置で感じ取ったし」
亀裂が特定のエリアで特に多く観測されており、それがどうも街の中で最大の規模を誇る九条学園の周辺であることと、行方不明になったと思われる現場が重なるため、それについて調べる必要があるとハーネイトと伯爵は説明した。
さらにリリーが、まだ不確定ではあるけれど、異様な気を学園の中から感じたと2人に説明する。
「もうそこまで分かったのですね?なんだか、外堀から調べて追い詰める感じですね」
「ああ。地図を使って分析すると色々面白いぞ。しかし、学園にどうやって入ればいいか」
「あの、私たちその学園の生徒なんですけど……」
「あ、ええ?そうだったのか。履歴書でも持ってきてもらえば話は早かったな」
彼らの話を聞くまで、問題はどうやって学園内に入ろうかということであったが、ハーネイトは響と彩音がその学園の生徒であることを知って驚くも、それなら2人についていけば話が早いのではないかと考えた。
「高等部の方なら、休日にも部活している人がいて空いているはず、どうですか?今日は流石に遅いですし、明日にでも仕掛けたほうがいいんじゃないかと俺は思います」
「そうか、そうだな。やるじゃないか」
「だけど、もしそこに行方不明の人たちがいたとするなら、急がないと」
「確証と言うか証拠がない限り、下手に踏み入るのもお勧めしないがな。生憎様相棒は、治療の達人だからビンビンに治すぐらい分けないだろうけど」
「まあそうだけどさあ。ともかく、君たちも万全の準備をして明日の朝、学園内を調査しよう」
「分かりました先生たち、ではこれで失礼します」
普通に出入りできる状況だと聞いたハーネイトと伯爵は、その日に学内の調査をしようと提案し、それに響と彩音は快諾したのであった。
だが、ついていくときに姿を消して入るとハーネイトが言ったことについて2人は突っ込みを入れるが、一応保険をかけておきたいという思惑があることを理解したのでそれ以上は言わずしばらく話を続けていた。
その後さらに駅の周辺を見回りながら異変がないかを確認し、響と彩音は明日の準備をするためハーネイトたちと別れ、帰宅したのであった。
早く行方不明になっている人を探さないといけない。焦りを隠し切れない2人だったが、今の実力で2人だけで亀裂の中に入るのは危険だと思い、戦力を整えてから挑もうと考えを共有していたのであった。
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