レヴェネイター  謎多き魔法探偵と霊量士の活動録

トッキー

第1部 邪神復活事案 レヴェネイターズ始動!

第1話 夜空を見上げる2人の男

 


 時は20XX年、文明や技術の発展著しい地球では今から約5年前ほどに、突如世界中の大都市で出現した吸血鬼ゾンビによる「ブラッドホワイトデー事件」により、世界総人口が約半分にまで減少し、人間が住める陸地の実におよそ50%が、「血海」と呼ばれる領域により汚染され死の大地と化していた。


 その後、恐るべき大災厄の傷跡を埋めるかのように、世界の在り方自体が大きく変わりつつある状態であった。


 多くの国民を失った国は時に隣国と合併し共同体を作り、幾つかの国では機能不全に陥った政府に代わり、複数の企業が1つとなり、複合巨大企業体としてBW事件を生き残った多くの人たちの生活を支えているという。


 そんな激動の時代の中、周囲を山岳に囲まれ血海による汚染を受けていない、日本の京都府に新たに作られた「春花」という都市にて、半月ほど前に不思議な2人の男が奇妙な依頼を引き受ける探偵事務所を開設し日々活動しているのであった。果たして彼らはどういった存在なのだろうか。





 時刻は夜7時過ぎを回ろうとしていた。季節は冬の真っただ中、時折肌に突き刺さるほどの凍てつく北風が激しく街中の間を吹き抜いていく。街中を歩く人たちは寒さに体を震わせつつ、飲みに行ったり自宅に帰ったりと歩道を行き来していた。


「うー、本当に寒いな」


「早く予約している居酒屋に行きましょうよ先輩」


「ああ、そうだな。熱燗でも飲みたい気分だ」


「良いですねえ先輩」


 寒いと体を自身で抱きしめながらそういう、スーツ姿に上着を羽織った会社員は、隣にいる上司に対しそう言い、彼もそれに言葉を返す。


「っ!おい、あのビルの屋上に、人か何かが?」


「どうしたんですか?」


「ああ、あれを見てくれ」


 するとふと空を見上げた上司は、近くにある周りのビルよりも高い商業ビルの屋上に、何者かがいるのを目で捉えた。それに対し後輩社員は驚きつつ、上司に促される形で指をさした方角を見る。しかし彼には何も目に映らなかった。


「何も見えませんけど?」


「そ、そうなのか。しかし俺は確かに……」


「疲れているんじゃないですか?」


「かもな。さあ、大きな契約を取り付けたことだし、パーっと行こうか」


「さっすがですね先輩!しっかし、こう酒を飲めるのも防警軍のおかげですかね」


 先輩に対し気遣う形でそういう後輩社員に対し、彼は今の仕事が順調に進んでいることに言及し楽しもうと笑顔でそういう。


 最も、本来は酒を飲んでいる場合ではない。5年前に起きた事件のせいで、何もかもが壊れてしまった。地球上のあらゆる場所で赤く塗りつぶされたかのように大地が血で染められ、居住域を徐々に奪われているからである。


 だが、それに対応しようとしている組織がある。それに感謝しつつ、彼らはそれについて話題を広げ話す。



「そうかもな。他の場所じゃあ血の海だらけで住めなくなった街が多いからな。他の国なんかもっとひどいとな。最も、情報封鎖のせいで手に入れられる情報はわずかだが」


「年々住める場所が減ってきている……し、他の地域に容易に行くこともままならないのは本当にきつい。誰か、あれを消すことができるヒーローいないかな」


「いれば、こんなにひどいことにはならないさ。そう辛気臭い顔をするな後輩」


「そう、すね。っと、早くしないと時間が」


 後輩社員は、あのおびただしい、不気味で目がくらくらしそうな血の海を消すことができる存在がいないかぼやいていた。あらゆる兵器を使っても消えるどころか侵蝕が広がるその血海は、人類に絶望と恐怖を与えていた。


 すると店の予約の時間が迫ってきていることを後輩が気付き、2人は急いで街中を駆け走ったのであった。



 そうした人混みから聞こえる様々な声が街中にこだまする中、ある高層ビルの屋上から2人のどこか怪しい男が地上の景色を見下ろしていたのであった。


「ここに来てまだ日は浅いけれど、ひどく嫌な匂いが鼻に入ってくる。ああ、あの時と同じあれだ」


「あれの匂いを感じない日はない。昔は特に異世界絡みの問題なんてこの世界にはなかったはずと思うんやがな」


「ああ、向こうで読んだ資料と、今のこの世界は大分差があると見ている。しっかし、世界と世界の間を取り持つために他の世界で活動している私たちは、本当に女神代行としての役割を果たせるのだろうか。力も奪われているのにさ」


「女神代行ねえ、俺たちは貧乏くじ引かされたも同然やな。神々の捜索と確保、究極兵器の回収、んでこの血の匂いの元凶である同族の面汚しの討伐。どれも一筋縄じゃあかん内容や」


 そう言いながら、一人は風を全身で浴びながら街の景色をじっとその瞳で見ている。


 ややウェーブのかかった、外はねのアシメというか両サイドを分けた美しい緑黒髪、そして後ろ髪は長い三つ編み。根元をリボンでまとめており、灰色のワイシャツ、黒いスラックス、そして風に激しくたなびくほど長い丈のコートを身に着けた格好の若い男性は、自身の在り方をどこか嘆きながらも今起きている新たな脅威を解決するためここを訪れたという。


 その一方で、青髪で紫色の和服風の衣装を着た、不敵そうな笑みを浮かべる、関西弁のような言葉が所々に混じる男の言葉に対し、彼は少し元気なさそうにうつむいた後、2人は夜空を見上げていた。


 街の明かりで見えづらいものの、彼らには夜の星がまるで標高の高い山から見える夜空の如くよく見えていたのであった。


 しかし、少し前に読んだこの世界での星座の本と、今見えている星の群れに差異がある。この季節に見えるはずの北斗七星やオリオン座、おおいぬ座やふたご座を構成する星々がまるで見当たらない。


 それに気づいた緑髪の男はどういうことだと思いながら、2人でしばし昔話をしつつ自分たちの人生が過酷であることを再認識していた。


 この紺色のコートを着た、星のことについて指摘する緑髪の男はハーネイト・スキャルバドゥ・フォルカロッセという名前であり、紫色の服を着たいつも明るそうな雰囲気を見せる関西弁を話す、角を生やした男はサルモネラ伯爵、本名サルモネラ・エンテリカ・ヴァルドラウンと言う。


「なあ伯爵、やはり夜空がおかしくない?」


「確かに、何か見えるはずの星が見えねえ」


「その代わりに、あの星が見えるか?」


「ああ、分かるぜ相棒。赤く禍禍しい、でけえ星が東の空にある。最初は驚いたよな。まあすぐに何でできているかぐらいは分かったけどな」


「それは俺もだ。不吉な物、そして膨大な力を感じるよあの星からは」


 彼らは星空を見てからしばらく、どこかけだるそうに冬の街の景色を屋上から見下ろしつつ目で捉え続ける。すると、東の夜空に見える、赤く妖しく光る流星に視線を移す。


 それを見た2人は、ある感覚に体を一瞬支配され驚くがすぐに気を取り直し、今度はやる気のないように見えて、実はかすかな異変も逃さないように常に神経を張り巡らし、人間観察をしていた。


 実はこの2人、探偵として最近この春花に事務所を構えたと言う。また今行っている作業もとある仕事の依頼によるものであった。


 紅き流星を見ることができるかと数日前にある少女から聞かれ、そのついでに星が見えている人がどの程度いるか調査して欲しいと言う風変わりな依頼内容であった。


「血徒の匂いと異界化現象を追って来たわけだが、調査が思うようにいかない」


 このハーネイトと伯爵と言う男は人間、ではない。見た目こそ完全な人間の姿、いや伯爵は角が生えているのでそうとも言いづらいが彼らは大世界と言う無数の世界の入れ物を生み出した存在によりデザイリング、つまり設計された兵器なのである。


 と言うことはこの地球の住民ではもちろんなく、別世界から来た存在なのである。

 

 彼らは、ある組織の動向と異変現象についての関係を追うため遠路はるばるこの世界までやってきて、調査を始めたと言う。


 しかし、どちらの調査も規模の大きさが尋常ではなく少ない人員でやっていくとなると思ったより調査が進まないのは必然的にそうである。


 今日も2人は地道に足で情報を稼ぎながら組織の動向を追うために不審な物がないか調査していたと言う。


「だな、相棒。こいつは、長丁場になりそうだぜ」


「覚悟はしてきたのだが、いい拠点が欲しいところだ。……伯爵、またあの感覚が。当たりの亀裂だ」


「へいへい、俺様の菌探知でも確認済みだ。行くぜ!原因を早く探らねえと、取り返しがつかねえ」


 そう言いながら2人はビルの屋上から身を乗り出し、そのまま飛び降りたのであった。はたから見れば飛び降り自殺のようにも見えるが、次の瞬間彼らは空を飛翔し、南の方角へ飛んで行ったのであった。彼らは街中で異様な霊気を感じ、何があるのかを探るためにそこに向かったのであった。


 この2人のどこか怪しい男、ハーネイトと伯爵は共に怪異を打ち払う力を持っていた。そして今日も、事件を解決するために、そして人の世界を守るために武器を取り、戦いに赴いていたのであった。


「景色は綺麗だが、こうも怪異がいると魅力も半減する」


「言うじゃねえか、まあわかるぜ。だからこそ、討伐するんだろう?あれをな 」


「ああ、勿論だ!」


  飛翔しながら2人は、自分たちに向かってくる何かを目で捉え反応する。それは不気味に体が光る鳥のような物であり、下の方から2人に向かって勢いよく突撃してきたのであった。


 それを迎え撃つかのようにハーネイトは腰に携えた刀を抜き、すれ違いざまに一閃し鳥の胴体を粉々に切り刻んだ。


「向かってくる意気や良し、だが、相手をよく見た方がいいぜ、あん? 」


 それに続いてさらに数体の鳥型の霊が襲い掛かるも、今度は伯爵が手から灰色のノイズで包まれたかのような剣を作り出し、霊の群れに対して乱れ切りを行う。その一撃であっという間に撃退すると同時にハーネイトはそれらが出現した光る亀裂という、別の世界に繋がる通路に行き来できるゲートを発見した。


「あそこだ、伯爵」


「いいぜぇ、飛び込むぞ相棒!異界亀裂の中にいやがるぜ」


「何としてでも仕留めるさ、それが魔法探偵なんだからな!」


「せやな、急いで飛ばすぜ相棒!」


「行くぞ、伯爵!」


 2人はそうして、特定の能力を持つ人にしか見えない亀裂の中に勢いよく空から飛び込んでいったのであった。

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