家族。その5
家族。
俺は、この単語について、思い入れる事がみんなより少ない。
もし、授業で家族に対しての作文を書くことになれば、俺はみんなより、書く内容が少なくなる。
それが、何故かというと、俺には親がいない。
いや、いるにはいるのだが、母親とは数回くらいしか会った事がなく、父親に至っては会った事がない。
そして、何よりも、俺には本当の親がいない。血の繋がった家族がいない。
姉貴も、母親も、父親も、誰とも俺は血が繋がっていない。
本当の親が、生きているのか、死んでいるのかすらも、俺は知らない。
じゃあ、何故俺が、今現在姉貴と一緒に暮らしているのかというと……。まあ、それは話せば長くなるので、また別の場所で。
生憎、長い回想に入る余裕がないもんでね。
* * * * * *
ヒューという、不気味な風が耳元をすり抜けるなか、俺ら四人は途方もなく、ただ道が続くがままに、足を動かしている。
横一列に並んだ四人の足並みは、歩幅や足の出方、それぞれが気持ちいいほどにバラバラで、横一列というより、ジグザグしていて、真彩に至っては一ノ瀬の袖をギュッと握りしめながら歩いている。
「何だか、寒くねーか?」
体をブルブルと震わせながら、一ノ瀬は言う。
「確かに、さっきから風が強い気がするな」
少し、視線を上に向けながら俺は言う。その時に見えた空は、星一つも見えず、全てが雲で覆われている。
街灯も、ついたり消えたりで、視界がほとんど真っ暗である。
「そ、そ、そ、そんなことりさぁ。な、な、なんか、建物が不気味すぎない?」
一ノ瀬を盾にするように、後ろに回った真彩がそう言う。その時の声は、すごく震えていた。
「フッ。軟弱者め。建物如きで怖がっているようじゃ、この先に進めないぞ」
そう言いながら、左手を顔にかざす、お馴染みのポーズをとる香月。
俺は、建物とやらが気になり、顔を建物がある横へと動かす。
すると、そこに見えたのは、まるで、江戸時代へとタイムスリップしてしまったかのような、古い木でできた建造物があった。
確かにこれは、どこか不気味。まあ、それは、今の雰囲気というか、真っ暗の中で見た物なので、多分明るいところで見たら、それはそれは時代を感じさせる、美しい建物に見えるのだろうけど。
ただ、今の状況ではそんなことなど感じられるはずもなく、この建物たちのおかげで、より一層不気味さが増している。
「そ、そ、そんなこと言われても……。怖いものは怖いんだよぉ〜」
相変わらず、一ノ瀬の後ろで丸くなりながら、そう言った真彩の声はとても震えている。
こいつ、まじで怖いの苦手なのか。弱みゲット。
「んなことより、どこに行けば良いんだよ。暗くてなにも見えねえ」
そう言って、一旦立ち止まる一ノ瀬。それにつられるように、俺たち三人も足を止める。
「そもそも、ここはどこなんだ?長いとこ、この町には住んでるけどこんな場所来たことないぞ?」
一ノ瀬は、頭を抱えながらそう叫ぶ。
「そんなの、スマホ見れば分かる……圏外だった……」
そう言い、静かに出したばかりのスマホをポケットにしまう俺。情けねー。
「しょうがない。ここは僕の魔眼の力を解き放つとしようか」
そう言って、例のポーズをとる香月。お前、ポーズの種類それしかないのかよ。
「結構です」
辛辣!一ノ瀬さん辛辣!
と、そんなことをしている時だった。
後ろから、とても小さな足音が近づいてくる。
「ママがどこにいるかわかりませんか?」
そう、5歳くらいの女の子の声が聞こえる。
俺たちは、一斉に声がした後ろを振り返る。
すると、そこにいたのは、熊の人形を大事そうに両手でギュッと握りしめて、涙目になっている女の子がいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます