元気な後輩
カランコロンカランという入店音と共に、二名ほど女の人がカフェに入って来た。
カフェの入り口で店全体を見渡しながら、どこにしよっかーと席を探すその女子を俺は知っていた。
っていうか、長谷川真彩だった。
俺の目線の先には、笑顔百%で上品に話す真彩がいた。
正直、あいつの外面モード見たくないんだけど。
そんな風に真彩を見ていると、目が合った。
目が合ったっていうのは真彩とではなく、真彩と一緒にいたもう一人の人物。
その人のことを、俺は知らない。
その人は、真彩よりも身長が低く、肩くらいまでの高さしかない。
腰くらいまで伸びた髪の影響か、とても小さく見える。
そして、その目のあった少女は俺を見ると、はっ!とした表情をして、俺の方を指差し、真彩に何かを告げている。
真彩は、それにつられるように、俺の方を見る。
すると、その少女に見えないように、露骨に嫌な表情をして見せた。
なんだよその顔……。ちょっと傷つくぞ。
そんなことを思っていると、真彩は俺の目の前に座っていた、一ノ瀬に気付く。
すると、さっきまでの嫌悪感満載の表情から、子供向け番組のお姉さんも驚くような笑顔を見せる。
そして、
「静音じゃん!偶然!」
そう言って、俺らが座っている席の方へやってくる。
少女も真彩についていくように、俺らの方にやってくる。
「おお!誰かと思ったら真彩か!」
一ノ瀬はさっきまでの暗い表情から一転して、嬉しそうな笑顔で言う。
「それで、二人は何してるの?」
そう言った真彩の顔が、一瞬俺の方に向けられる。
その時の真彩の表情と言ったら……。
なんであいつ、あんな一瞬で表情めっちゃ怖くなるの?一流女優でもそんなことできねーよ。
「ん?ああ、私たちは普通に買い物してただけだよ」
そう言って、一ノ瀬は目線だけを一瞬ギターに向ける。
「へー。そのギターを……二人で?」
その質問は確実に俺に向けられていることがわかった。
いや、怖い。そんな怖い顔で俺を見ないで。こいつの怖い顔は何回も見てるはずなんだけど、全然慣れない。
ってか、なんで今そんな怖い顔するんだよ。
「ま、まあ、そんなところだ」
俺は、出来るだけ真彩と目を合わせないように答える。
「それで、その子は?」
一ノ瀬は真彩の後ろでひょこっと顔を出す少女に向けて言った。
「ああ、この子は私の友達よ」
その真彩の言葉を聞くと、少女はひょこっと、真彩の後ろから体を出し、俺らの席の目の前まで来る。
「私は、
な、なんだ、この元気という言葉がそのまま具現化したような子は。
すごい、活力がすごい。やばい、この子を見てると活力にやられそう。
するとその、藍倉という子は俺と一ノ瀬の顔をまじまじと見て言う。
「もしかして、もしかするとなんですけど!お二人は一ノ瀬先輩と天谷先輩じゃないですか!?」
「え、そ、そうだけど」
そう答えた一ノ瀬を見ると、一ノ瀬もまた、溢れ出る活力にやられたのか、少し引いている。
「やっぱり!私、先輩たちと一度お話ししてみたかったんですよ!」
「そ、そうか、それは嬉しいな」
「はい!今、一年生の間の話題の殆どがお二人のことなんですよ!男子は一ノ瀬先輩を、女子は天谷先輩の話ばっかりしてます!」
「まじで?」
俺は、藍倉に聞く。
いや、前に真彩にもそんなこと言われた気がするけど。
「はい!だから私、お二人のことが気になってたんですよ!すごい美少女とイケメンの先輩がいるって聞いてたので!」
そう言って、藍倉は俺の手を両手で握りしめる。
すごい、活力がすごい。何この行動力。舞台女優より動くじゃん。
「ほ、ほら、若菜ちゃん一旦落ち着く」
そう言って、真彩は藍倉の手を俺から引き離す。
さすが、妹がいるだけあって年下の扱いは慣れているな。
「まあまあ、真彩たちも座れよ。一緒に飲もうぜ」
そう、一ノ瀬が言う。
まるで、飲み会に誘う社会人のように。
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