第22話 霊獣ペガサスとの遭遇
水守さんの女性不信が発覚して、一時間後。
私たちはついに東の山頂へとたどり着いた。
ぜいぜいと肩で息をする私とは真逆で、涼しい顔の水守さんは周辺を見回す。
山の上は空気も綺麗だし見晴らしもいいし最高なんだけど………。
「ペガサスっぽいの、いませんね?」
「確か、山頂の泉を住処にしているのですよね?」
「は、はい。アーナロゼはそう言ってました」
ここにベンチでもあればなぁ……。
そんな事を思うが、無い物ねだりできる状況じゃないので大きな木の根元に座る。
「はぁ〜……どっこらしょっとぉ〜〜……」
「……水飲みますか?」
「あ、ありがとうございます」
水筒?
私たちの世界の魔法瓶タイプのやつ……。
い、いつの間に支給されていたの……!?
まさか遠くへの移動を想定して……?
さ、さすが水守さん……!
「ペガサスは一休みしてから探しますか」
「そ、そうして頂けると……」
くぬぅ、気を遣わせてしまった。
……って……。
「………」
「………っ」
隣に腰掛ける水守さん。
ち、近い。
いや、このくらい、別にこれまでも何度かあったじゃない!?
というかお姫様抱っこもされた事あるし、今更この距離で狼狽えるなんて……。
「「…………」」
わ、話題……再び話題が思い付かない……!
距離の近さに心臓がバクバクいってる。
と、年甲斐もねーなぁ!
……でも、仕方ないじゃん?
好きな人が出来たの、丸っと十年ぶりくらいなんだし!
忘れてたわよ、こんな気持ち……。
緊張するなんてらしくないけど、ど、どどどど……!
「……水守さんってどういう女の人が好みなんですか」
沈黙に耐えきれない!
……しかし持ち出した話題はある意味酷い。
さっき水守さんが彼女に振られまくった話したばかりなのに……。
さ、最低かよ、私……。
そもそも相手の好みなんて聞いたところでその通りになれるわけもないのによぉ〜!
馬鹿? 馬鹿なの? 私馬鹿よねぇ〜!?
「……あまり考えたことはないです」
「え、そうなんですか? エロ本とかで抜けるタイプですよ?」
「………」
「……すみません」
がっつり下ネタぶっ込んですいませーん。
……マジでなにやってんのよ私はー……。
見ろ! 水守さんの表情がドン引きしてるわよ!
「………その手の雑誌は持っていないんです」
「え! じゃあどこで抜いてるんですか!?」
「すみません、この話題やめませんか……」
「………で、ですよね……」
いや、だって答えが返ってくると思わなくて……。
……っていうか、まさかの持ってない!
あ、いや、水守さん世代だと紙媒体じゃなくてエロいアプリとかなのかも。
そ、想像したらなんか興奮してきた……!
「じゃあ芸能人だと誰が好きですか?」
「……俺はテレビをあまり見ないのでよく分かりません……」
昭和か。
「女優とか、お笑い芸人さんとか」
「……後輩に勧められた『牛皿』というお笑い芸人なら知ってます」
「うーん、そういうんじゃなくてー……」
「……そういえば砂上の好きなアイドルなら知っています。『
「み、水守さんの口から『CROWN』が!?」
『CROWN』は『Ri☆Three』というアイドルグループに星科新くんが加わってリニューアルしたアイドルグループ!
全員身体能力がクッソ高くて、個々で運動系バライティーや特撮、CM、ドラマ、映画によく出てる。
私は鳴海ケイトと星科新くんが好き……。
じゃ、なくて!
「え! え! だ、誰派ですか!? 私は鳴海ケイトと星科新くんが好きなんですけど!」
「さ、砂上は岡山リントが“おし”……? だそうです……?」
「わ、わぁ……」
岡山リントって今流行り? ……の『男の娘』のパイオニア的な子。
六歳くらいで出たドラマで女の子役をやって、すごい話題になってたわよねー。
今でも女の子みたいに可愛くて、フリフリスカートの衣装を着てテレビに出てる。
四人の中では一番身体能力低めだけど、マジックとか他の三人は絶対出来ない可愛いパフォーマンスが得意なのよね、確か。
歌も女の子が歌う感じのばっかり。
女性向け美容用品のCMとか普通に出てるからたまに「あれ、男の子だったよな……?」って思う。
芸歴=年齢だから私、あの子が赤ちゃんの頃から知ってるー……!
あ、ヤバイ、そう思ったら懐かしくなってきた……!
「……あの子も大きくなりましたよね〜……」
「え……?」
「今いくつでしたっけ……? 小さい頃から可愛かったですけど、ああいう子って大きくなったら男らしくなるんだろうなーって思ってましたよ〜。可愛いままだから凄いですよね〜」
「……幸坂さん」
「なんでしょう?」
「ペガサスです」
「ほわい?」
水守さんが指差す。
その方向には泉。
泉の水を飲む四頭の翼の生えた馬たち。
しかもその中で一際大きい一頭が私たちに近付いてくるところだ。
「ぶぉ!?」
おも、思いもよらなすぎて変な声出た!
ほほほほほ本物〜!?
立って喋る猫よりインパクト〜!
「貴女がこの地を蘇らせた聖女であろうか?」
「しゃ、しゃしゃ喋った!」
「ミューも喋っていたではありませんか」
「そ、そうですけど!」
「我々は霊獣ペガサス……」
「幸坂さん、出番ですよ」
「んん!?」
頭を下げる翼の生えた白馬。
幸坂さん、出番ですよ?
ごはんですよ、みたいなノリで話を振られても何が何だかわかりませんけど!?
「な、なにがですか」
「彼らも名前がないのでしょう。名付けるのは幸坂さんでないと」
「なんですかその仕事!?」
私の仕事になってる!?
「おお、聖女より名を賜れるのですか?」
「なに、聖女様より名を?」
「わたしにもぜひ……」
「ひえええぇ……」
マジかー!?
全部似たような白馬でもうどれがどれやらなんですけど!
……あ、いや……全部似たような白馬だからこそ名前は必要かも。
「え、えーとそれじゃあー……右からアール、ケビー、ショーン……で、一番大きい貴方はテルト……で、どう?」
「おお……!」
「……随分すらすら出てきましたね」
「テキトーで申し訳ないですけど……ね」
高校時代ちょっと好きだった全然デビューの兆しが見えないX JAP◯Nに影響を受けたのが丸分かりなんちゃってヴィジュアル系インディーズバンドのメンバーの名前をもじっただけです。
………とは、言えない……。
「……やはりギャンブル場勤務だと馬の名前にもお詳しいんですね……。俺はディープ◯ンパクトくらいしか………」
「違います」
あと、私はボートレース場勤務なので競走馬には明るくないです。
ついでにディー◯インパクトはもうとっくの昔に引退して種馬になってますからね?
……インパクトといえば仕事で競馬場見学に行った時、競馬場付近に馬刺し屋が多かったのはものすごいインパクトだったわ……。
馬見た後、馬食うのかよ。
水族館後の寿司か?
比にならんだろ。
「ディープ……?」
「あ、気にしないでください」
ミューにはタメ語なのにテルトたちには、なんか大きさ的に敬語になってしまった。
……それに、私の中の幻獣ってこういう生き物のイメージなんだけど……。
霊獣?
幻獣と何が違うのかしら?
「ええと、それよりお願いしたいことがあるんですけど……」
「聖女の願い? なんでしょうか」
「実は他の大陸に行きたいんです。他の大陸も、自然を復活させたり腐墨亡者を浄化したりしないといけなくて……」
「おお……世界再生ですね……」
……名付けておいてなんだけど、どれがどれやら……。
「では、我々の背にお乗せしましょう。今すぐに行かれますか?」
「え、い、今すぐ!?」
「そうですね、下見はしておきたいです。距離や移動時間が分かれば予定が立てやすくなり助かります」
「……そ、そうですね……」
あんまり遠かったら困るもんね……。
遠目からでも隣の大陸が見えればどんな感じなのかも分かるかもしれないし……。
やっぱり最初のこの島みたいな感じなのかな。
「お連れしましょう。……我らも目覚めたばかり故……どれだけ世界が変化しているかわかりませぬが……」
「どのくらいかかると思いますか?」
「我らが眠りにつく前ならば、神竜の社島からルーの大地までは翼を二回休める程度……。フーの大地までは、十回は翼を休めねばならない」
分かんないですけどぉ〜!?
「とりあえず行けるところまで行ってみましょう。ミューに何も言っていませんから、あまり遠くへは行けませんが」
「そうですね。……じゃあよろしくお願いします」
「もちろんです、どうぞ」
水守さんもテルトの仲間に乗せてもらえるらしい。
なんかこう……選ばれた者しか乗せない、みたいな事言われるのかなって思ってたら普通にテルトの仲間が頭を下げて「どうぞ」って言うんだもん。
そうか……処女にしか興味のないのはペガサスじゃなくてユニコーンか。
ツノがあるか翼があるかで生態にえらい違いがあるもんなのねー。
「さあ、聖女よ」
「いや、あの、菫でいいです。菫で……」
正直ミューに「姫さま」って呼ばれるのもアレなのに、翼のある白馬に「聖女よ……」なーんて畏まられると「すいません……私ただの年増女です」って気分になる!
聖女なんて柄じゃないし、歳でもないよ……。
普通に名前で呼んでくれぇ!
「いえ、神竜の使いをそのようには………ああ、ならば姫さま、どうぞ我が背に……」
「ひょえ……」
紳士的に頭を下げて、私が跨りやすいように脚を折るテルト。
大変申し訳がない。
でも、ありがたく首に手を置いて背中に跨らせていただく。
あったかくて、サラサラな毛並み。
そして馬なら普通持ち得ない巨大な翼。
馬なんて乗った事ないけど、こんなにあったかいんだ……。
「よっこらしょっ……っと!」
「……」
「……立ち上がりますよ」
「は、はい」
私が乗るのを見ていた水守さんの方を見ると、あれ、おかしいな?
私の目がおかしいのか?
白馬の王子がいる。
ペガサスに跨るスーツをビシッと着こなすイケメンって……何度目か分からないけどなんてファンタジー……!
手綱とか握ってて欲しい……。
「うわ!」
返事をしておきながら水守さんに見惚れていた私は、立ち上がったテルトのあまりの高さに……舌を噛むかと思った。
なななななにこれ高ーーーーい!
ひえええぇ、う、馬の背中ってこんなに高いのー!?
「大丈夫ですか? 姫さま。飛び上がる時に振り落とされないように首か
「ふあ、はい!」
お言葉に甘えまして。
太い丸太のような首をがっしり両手で抱き締めさせていただきます。
うっわ、あっったけぇー!
「参ります」
ふわっと浮かび上がるテルト。
嗎きとともにどんどん上昇していくので、少し怖い。
地面はどんどん離れ、空が近くなる。
青い空に白い雲!
………でも、それはこの島の真上だけ。
私たちが次に向かうべき方向は暗雲で真っ暗だ。
大きな大陸……そして海に巣食う腐墨亡者を倒さなければ晴れないのよね。
「お、おお〜」
テルトが羽ばたくと前へと進み始める。
風が気持ちいい〜!
それに空をペガサスに乗って飛ぶなんて……ファンタジー!!
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