第15話 ゴミ問題は異世界でも課題です


「おはようございます! 姫さま!」

「ん〜〜……おはよー……」


 ……おはようございます、幸坂菫こうさかすみれです。

 この世界に神竜、アーナロゼ(私命名)から召喚されて遂に一ヶ月が経ちました。

 私は神竜と契約して『神竜の聖女』というものになったのですが、これがまたとんでもないモンでして……。


「今日のご飯はエッグベネディクトだそうですよ!」

「…………水守さんパネェ……」

「……みゅー?」

「な、なんでもないわ。ミュー」


 ……この二足歩行の白猫の名前はミュー(この子も私命名)。

 ケットシーという猫の妖精で、アーナロゼに頼まれて私の身の回りの世話をしてくれている。

 見た目は猫そのものだが歩くし喋るし掃除も洗濯も出来る、ものすごいデキる女。

 ただし料理は苦手。

 猫なので包丁を持ったり、かまどに火を起こしたりが出来ない。

 なので、料理は相変わらずあの男が担当している。


「おはようございます、水守さん」

「おはようございます、幸坂さん」


 …………水守鈴太郎みもりりんたろう

 警視庁特殊部署『後処理係』、別名『不思議案件対策室』所属のエリートお巡りさんである。

 エリートなだけあり料理を始め家事は全て完璧。

 博識で、顔も(私の好みではないが)イケメン。

 身長は183もあり、警察官らしくガッチリ体型。

 体は私好み。

 常に冷静で仏頂面。

 第一印象通りの朴念仁。

 しかし、この男が召喚時に私を助けようと飛び込んで一緒に来てくれなければ……私は今こうして美味しい朝ご飯に舌鼓を打つ事もままならなかっただろう。


「っ…………〜〜っ! お、おいし〜い!」


 エッグベネディクトなんて久しぶり〜!

 卵や牛乳頼んで正解だよぉ〜。

 ………本当……水守さんが居なかったら不思議警察手帳さんも居なかった。

 この美味しいご飯にもあり付けなかった!


「ありがとう不思議手帳さん! いえ、不思議手帳様!」

「お礼は同僚と上司に言ってください。手帳ではなく」

「ありがとう水守さんの上司と同僚の人! そして美味しい朝ご飯を作ってくれた水守さん!」

「卵と牛乳があるだけで全然変わりますから。……それに、今はそのくらいしかやる事がありませんし…………。次の問題はやはりゴミの処理ですね。牛乳パックや卵の紙パックは土に埋めても紙なので問題ないのですが……、ボディーソープなどの詰め替えた袋や生理用品などのビニール素材のものはどうしたらいいものか……」

「ミモリさまの世界ではどう処理されているんですか?」

「分別などして、ゴミ処理場でリサイクルするんだ。だが、こちらからあちらへゴミを送り返すことも出来ないし……やはり高温焼却しか…………」

「出来れば私もそうして欲しいです」


 生理用品は一刻も早く焼却してくれ、滅してくれ。


「それならワキュレディエさまの昔のお住まいに投げ込んじゃえばいいんではないでしょうかです

 !」

「さらりとすごいことを言い出したな……」


 ホントだよミュー!

 どういう事だよ!?


「この島には大昔、ワキュレディエさまとエルディエゴさまが一緒に住まわれていたそうなのです! その時のお住まいがあっちの山とあっちの山なんです!」


 右の山と左の山。

 正確には東の山と西の山。

 この島は三日月型で、先っぽの方に山がある。

 え、あの山ってワキュレディエとエルディエゴが昔住んでた場所だったんだ……?


「ワキュレディエさまのお住まいはものすごーくものすごーくあっついお水の中だったって! なんでも溶かす、あっついお水に住んでたって! 王さまが申しておりました!」

「あっついお水? 王さま?」

「溶岩のことでしょうか……? 西の山には火口がありましたので……」

「え……! ふ、噴火するんですか!?」

「いや、マグマは固まっていました。休火山でしょう。……この世界……いや、この島自体がまだ完全に浄化されたわけではないから、復活すれば活動を再開する事も考えられますけれど」

「………。ん? じゃあゴミを投げ込んでも溜まるだけですね?」

「そうですね……。あと、いくらゴミ問題に悩んでいてもかつて神竜が住んでいた場所にゴミを投げ入れるのはどうかと思うんですがそこは良いんですか」


 …………う、うーん……そ、それはまあ、確かに?

 でも、ゴミを溜め込む訳にもいかないしー……。


「じゃあどうするんですか」

「………」


 さすがの水守さんも即答出来ずに腕を組んで考え込む。

 瓶とかは再利用出来るけど……私たちの世界のゴミは処理に困る。

 うーん、埋める……?

 いや、埋めても自然に還らないし……。

 ぐぬぅ、便利だけど私の世界のゴミってやっぱり問題なのね……。

 あっちで生活してる時は燃える燃えない資源ゴミって感じでまとめてゴミ置場にポーイってしてたけど。

 この問題はもっと真剣に取り組まなければならなかったのね……。

 …………か、帰ったら分別ちゃんとやろう……。


「………いや、しかし……そんな理由で呼び出したら何を言われるか……」

「?」


 悶々と珍しく独り言まで始まった。

 水守さんがこんなに悩むなんて……!

 ゴミ問題恐るべし……。


「ミモリさま? なにを呼び出すのですますか?」

「……俺の契約獣だ。だが、さすがにゴミを燃やして欲しいなんて理由で呼び出したら殺される」

「…………そうですね……」

「へ?」


 ミューがそこは素直に同意しているが、いやいや待ってくれ。

 今、なんと?


「水守さんも神竜と契約してるんですか!?」

「俺が契約しているのは幻獣です。幸坂さんのように神竜の力を代行する契約内容でもなく、共闘契約という戦闘に関しての契約をしています。………ゴミ問題で呼び出したら確実にキレられますよ」

「………そ、それはまぁ…………」


 そうだな。

 それは幻獣さんとやらでなくてもキレるな。


「えー、でも会ってみたいです。水守さんも不思議生物と契約してるなんて! それに幻獣ってなんか神秘的だし!」

「幸坂さんが考えているものを全て真逆にした存在だと思います」

「どういう事ですか!?」


 そして私の頭の中が見れるのかこの人!?

 ……私が考えていた幻獣っていうと、ほらやっぱりユニコーンとかペガサスとかグリフォンとか……そんなファンタジックな感じの生き物でしょ?

 ハ◯ー・◯ッターとかに出てくる感じの生き物じゃないの?

 まぁ、私ハ◯ー・◯ッター三巻目くらいから映画すら見なくなったけど。

 ……真逆って……。


「奴は神に牙剥くことを許された『理と秩序の番犬』。地獄の業火を操り、神すら食い殺す圧倒的な戦闘能力を誇る戦闘種族」

「……っ! ま、まさか……! ミ、ミ、ミ、ミモリさまの契約獣って……! そ、そんにゃ! ……“彼ら”が人間に協力するにゃんて!」

「え? ミューは何か知ってるの? え? 有名なの?」

「………にゃ、にゃあ〜っ!」


 頭を抱えてしゃがみ込むミュー。

 え、ホントに私が考えてる幻獣とは全然違うの?

 むしろすごく怖がってる……。

 確かに水守さんから出てくる言葉はどれも不穏!

 水守さん、一体なにと契約してるの……!?


「…………そんなものをゴミ処理の為に呼び出していいと思うか?」

「絶対思わないですにゃ! 無理、ダメ、怖いにゃぁぁぁ!」

「ちょ、気になる! なんなの!? 水守さんの契約獣って!」

「幻獣ケルベロス族さまですにゃ!」

「ケルベロス……? って、地獄の門番って言うあの頭三つあるやつ?」

「奴らに言わせるとそれは“魔獣ケルベロス”だそうです。それを言うと「俺たちも人間とチンパンジーの違いが分からない」と遠回しにこちらも貶されます」

「うぐっ」


 ……なんとなく地雷らしい事は分かりました……。


「俺たちの世界だと、そちらの方が有名ですからね……」

「そ、そうですよね」


 と言うことは水守さんは言っちゃったんだな?

 本人を前にそれを言っちゃったんですね?

 くそう、その場を見たかった!


「でも、ミューの様子を見るに危ない生き物って感じなんですけど」

「……戦闘種族ですからね……。俺は奴しか知らないんですが、確かに戦いになると容赦も慈悲も一切ない。しかし、基本的に平穏や秩序のある世界を好み、それを乱すものを嫌います。俺が契約した紅葉(もみじ)というケルベロスは甘いものを食べながらダラダラ寝て過ごすのが至上の喜びだと語っていました」

「…………あれ、なんかすごく仲良くなれそう……」


 というか、大多数の人類と幸せの基準が同じでは?


「ひ、姫さま! 彼らは王獣種ですよ! 表面上は穏やかな性格でも、世界を滅ぼす事を許されている恐ろしい種族なのですにゃう! 黒い炎は塵も残さず焼き払い、どんな攻撃も無効化する鎧よりも頑丈な真っ黒な毛並み……無尽蔵の魔力、鋭い牙と爪は竜の鱗も噛み砕き、削ぎ落とす……! 竜の肉を何よりも好み、生きたまま食らう無慈悲な獣にゃんですにゃうううう!」

「お前も獣だろうミュー」

「王獣種と一緒にしにゃいでください! ミューは妖精にゃんですよ!」

「すまん、そうだったな……」


 ……ややこしいけどそうだったな……。

 とりあえずミューがめちゃくちゃ怖がってるし、聞けば聞くほど物騒なのは分かった。


「むしろミモリさまはよく王獣種と契約なんて……! にゃおおおううぅ、急にミモリさまが恐ろしい人に見えはじめましたにゃあああ……!」

「紅葉は若いケルベロスだから、人間に興味があると言っていた。俺はからかい甲斐がなくて逆に面白いのだそうだ」

「…………からかい甲斐がなくて逆に面白いってなんですかそれ……。そんな理由でそんななんか凄そうな生き物と契約って出来るんですか?」

「俺に言われましても……。……俺は紅葉が俺のなにを面白がっているのか分からないので……」

「…………そ、そうなんですか」


 ……変なやつなのね。

 それはなんか分かったわ。

 まあ、確かに水守さんってからかおうと思っても華麗に斜め上をいくからな……。

 そこが面白いのかしら?


「なんにしてもミューがこんなに怯えてるんじゃ、呼び出してゴミ処理なんて頼めませんね」

「…………そもそも誰だってゴミ処理目的で来てくれと言われれば腹をたてると思うのですが」

「あ、はい。それはもちろんそうですよね……。っていうか、それだと結局話が元に戻るんですけど……」

「……とりあえず穴を掘って溜めておきましょう。まとめて俺が………変身して………『灼炎滅消エンフレイムロスト』で…………燃やすしか………ない、でしょう…………」

「………よ、よろしくお願いします……」

「っく……! 端末手帳は国民の安全と信頼を守る為の力……それをゴミの処理に……!」

「わ、私の生活の安全のためです! 水守さん!」


 ゴミ問題は水守さんの警察官のプライドを少し犠牲にする事で解決へと向かった。


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