世界の卵と正義の味方〜異世界で聖女生活始めます!?〜
古森きり@『不遇王子が冷酷復讐者』配信中
第1話 お巡りさん
「……………………」
私の名前は
今年ついに四十歳になった。
というか、今さっき、なった。
結婚? 彼氏すらいないわ。
十代や二十代の頃は何人か居たけど、どの相手とも結婚には至らない。
そして二十歳を過ぎた頃に始めたアルバイトのせいでより、結婚は遠のいた気がする。
溜息をつきながら、スマートフォンを充電器にさして放り投げた。
日付が変わったのをなんとなく、確認しただけよ。
そうよ、それだけよ。
謎の言い聞かせ。
ええ、ええ、分かってるわよ。
でも、三十代と四十代ってそんなに違いがなくない?
ほら、十九歳の時に二十歳になったところでお酒やタバコが解禁された程度の違いしか感じなかったのと同じで!
「…………」
やめよう。
寝よう、明日も……いや、今日も仕事だし。
今日は優勝戦だから、お客も多いだろう。
忙しいのは嫌だけど……SGの優勝戦は楽しみだわ。
…………これが婚期を遅らせた最大の原因よね……分かってる。
でも好きなもんは好きなんだからいいでしょ!
またも誰に言っているのかわからない言い訳を最後に、私は目を閉じて本格的に眠りに入る。
…………のだが。
「はぁ、ダメだ眠れない」
ベッドから起き上がってまた放り投げたスマートフォンのボタンを押す。
時間は深夜一時。
この歳になると将来を考えて不安がとめどないわ。
十代や二十代の頃にはこんなことなかった。
三十の半ばを過ぎたあたりかしら……先のことを考え始めると眠れなくなる。
私より先輩で、結婚もして子供もいる人も言ってた。
将来が不安で眠れないって。
既婚者で子供もいるのに心配と不安で眠れないのよ?
独身彼氏なしの私はもっと将来が不安で眠れないわよ!
しかもついに……四十……。
見た目は若く保っている……と、思う……一応接客業だし……。
でもさ、それとこれとは話が別よね。
貯金はそんなにないし、お見合いパーティーでもなかなかいい人に巡り会えないし……。
趣味、競艇っていうとほとんどの人が引くし。
分かってるけど競馬はありなのになんで競艇って言うと引くわけ?
意味わからん。
別に賭け事が好きなわけじゃないのよ?
そりゃ他場に行く時は千円以内で賭けるけど……でもそれだけよ!
そんなうん万も賭けないし、そんな度胸ないし!
私が好きなのは選手であり、その選手へのお布施みたいなもんだし!
それをまるでギャンブル狂いみたいな目で見やがって!
そんな男こっちから願い下げよ!
…………そうして現在に至る…のよね……フッ。
「…………。コンビニでも行こうかな」
目が冴えてしまった。
財布だけ持って、ルームウェアのまま住んでいるアパートの横にあるコンビニへ行く事にする。
ビールでも飲めば少しは眠れるかもしれないし。
……いや、酒を飲めば眠くなるのはそういう体質の人だけで私は飲んでも酔っ払うだけ。
明日も仕事だし、酔い潰れて寝坊するのだけは避けなきゃ。
つまり、ビールは一本だけ。
でもビール一本だけ買うのはマズイわよねー。
つまみもいくつか買ってこようかな。
あと、明日の朝ごはんと昼ごはん。
靴を履いて、部屋を出る。
鍵をかけて下に降り、隣のコンビニへと入店。
真っ直ぐに飲み物……ビールを一本手にしてつまみのコーナーへと入る。
「!」
うわ、すごい好みのイケメンを発見。
薄い水色の髪なんて珍しい〜。
外人さんかな?
背も高いし……。
「玖流、今日のところはホテルに戻って明日に備えるぞ」
「……了解です……」
うわ、もう一人の男もイケメンなんじゃない?
サラサラの少し赤みがかった黒髪。
後ろ姿だけど立ち姿がもうイケメンのオーラ出てるわ。
「!」
「!」
振り返った!
目が合った!
……顔は意外とそうでもなかった!
「失礼」
きゃー、声かけられちゃった〜!
好みじゃないけど立ち姿は百点!
この歳でナンパなんて二度とないチャンス…!
これはモノにせねば……。
「こんな時間に女性の一人歩きは危険だ。家はどこですか? 送ります」
「へ」
バッ、と警察手帳を取り出した黒髪のお兄さん。
うん、そんな気はしてたけどかなり歳下だわ。
……ではなく。
「け、警察?」
思わずコンビニの入り口を見てしまう。
そうね、どのコンビニも基本的には『警察官立ち寄り所』みたいな文言が掲げてあるわね……。
二人の男はスーツ。
こちらのお兄さんは第一ボタンまで閉めてる。
真面目か!
あちらのイケメンさんは第三ボタンまで外して着崩してるちょっと悪い空気のあるイケメンさんなのに。
あまりの型にはまったかっきりかっきり感に……引く。
しかも……私を部屋まで送るって言った?
「い、いえ、隣のアパートなので大丈夫です」
レジにいるイケメンさんならこちらから頭を下げてでも是非お願いしたいけど……。
いやむしろお金払ってでもお願いしたいけど……。
……あんた好みじゃないのよね〜……。
「……なら、部屋に戻るまで見届けさせてもらいます。女性がそんな薄着で一人深夜にわずかな距離とはいえ出歩くのは、警察官として見過ごせない」
ま じ で 。
「い、いえ、大丈夫です……」
「……センパイ、逆に警戒されてる……アパートの前までにしたら……」
「……その方がいいものなのか?」
「……知らねぇけど……近いんならそっちのがいいんじゃないっすか……?」
「分かった。ではアパートの前まで送ろう」
「…………わ、分かりました……それなら、まあ……」
この付近はボートレース場が近いから、まあ、そこまで治安がいいというわけではない。
だからすぐに駆けこめるコンビニの横のアパートに引っ越したわけだし……好みじゃないけどお巡りさんなら、まあ、いいか。
気怠げに話すイケメンのお兄さんに是非一緒に来て欲しいもんだけど……この歳であんなに若くてちょいワル風イケメンなお兄さんとお近づきになりたいってちょっと図々しいかしら?
見た所二人とも結婚指輪はしてない。
「お巡りさんたちお若いですね、お幾つなんですか?」
気になるし、世間話を装って聞いてしまえ!
「自分は今年で二十七になりました」
「…………(……教えるんだ……)……センパイ、俺は先にホテルに戻ってます……」
「ああ」
「⁉︎」
えええええー⁉︎
私の目的はそっちのイケメンのお兄さんなのにぃ!
「送ります」
「……あ、は、はい」
ビールとつまみ、明日の朝ごはんと昼のお弁当も買って…マジで隣のアパート前まで送ってもらう。
正直お巡りさんに送ってもらうような奴じゃないです。
そりゃ、世の中変な人は多いし、この辺りはボートレース場が近くにあるからガラの悪い奴らもウロウロしてるけど。
「えっと、ありがとうございました」
「いえ、夜中の外出、特にそのような薄着での外出は犯罪に巻き込まれる確率が上がりますのでお控えください。では、おやすみなさい」
「お、おやすみなさい……」
ビシッと頭を下げて、アパートの前から立ち去るお巡りさん。
うわ、マジキチー……。
今時あんなど真面目なお巡りいるんだー……。
いや、新人さんなのかも。
…………。
でも色素の薄いイケメンさんに「センパイ」って呼ばれてたし二十七歳って言ってたよね……?
まじか。
まあ、あんなお巡りが居た方が安心っちゃー安心かもね。
いかにもお巡りさんって感じだし。
SNSに書き込んでやろうかとも思ったが、そこまででもないので明日職場の同僚と笑い話にでもしよう。
そう思ってビールを煽るように飲み干し、再び布団に戻った。
すると、不思議と爆睡。
***
翌朝。
頭をボリボリ掻きながら起き上がり、アラーム代わりに8時に点くよう設定してあるテレビの音で目を覚ます。
ニュースや天気予報を確認しながら身支度を整え、昨夜買ったコンビニ弁当を温めて食べる。
今日は晴れ。
良かった、優勝戦はやっぱ晴れてないとね。
雨だとせっかくのウイニングランも中止になっちゃうし、入場数も伸びないもの。
なんたってSGの優勝戦よ?
死ぬほど忙しいけどめちゃくちゃ楽しみ〜。
誰が優勝するのかしら。
やっぱり1号艇の篠崎?
篠崎の1号艇は固いわよね〜。
だからこそ2号艇や3号艇にも頑張ってほしいわ。
まあ、一番盛り上がるパターンは5号艇か6号艇の外からのまくり差し……!
SGの優勝戦でそんなことされたら滾りすぎて叫ぶわ〜!
それに6号艇茅野は2年前にG1の優勝戦で外からまくり差しで優勝してるし……アリだわ!
まあ、個人的には4号艇の中田くんを全力で応援しちゃうんだけどね。
だってベビーフェイスで可愛いんだもん。
おっと、そろそろ出勤しないと。
「いってきまーす」
誰もいない我が家へ挨拶をして、自転車にまたがる。
約20分ほどの距離を自転車で走り、職場に到着。
ロッカールームで着替えて制服を纏い、同僚の子達と今日の優勝戦について熱く語りながらミーティングを経て持ち場へと移動した。
今日は入場口から一番近いインフォメーションね。
……景品交換所がよかったなー、楽だし。
「先輩、今日やばそうですよねー、忙しさ」
「だよね。あーあ、優勝戦インタビューと表彰式見たかったなー」
ここからじゃ見れないのよ、インタビューと表彰式。
館内中央にあるステージでやるから。
ここで働いてなきゃ観に行けたし、花束だって渡せたのに……。
「まあ、ステージ担当よりはマシですよねー。最近マシにはなりましたけど、女のファンはおっさん達とは違う意味で言うこと聞いてくれませんもんねー」
「それねー、まじほんとそれー。選手が優しいからって付け上がってスタッフの言うこと『はいはい』言いながらちゃっかり選手紹介中に写真とサインねだってんの。選手紹介中は写真とサイン禁止だっつってんだろっつーの!」
「あと聞きましたー? 加藤選手のファンの子、床に手をついた加藤選手の手に自分の手を重ねて話しかけてたらしいですよ! ドン引きなんですけどー」
「うわ、マジ? 加藤選手びびったんじゃない?」
「はい。ドン引きしてました。流石に眉寄せて驚いた顔してたらしいです」
「そりゃそうだよー。こっちは知ってるかもしれないけど向こうからすればただのファンの一人なんだからー。ないわー」
ファンサービスを勘違いし過ぎなのよねー、昨今のファンは。
……まあ、一昔前よりは遥かにマシだけど。
女性ファンが増えてきて、そういうところが如実に現れてきた気がするわ。
良くないわよねー……。
「サインだって、転売目的でしてもらう人も増えてきたじゃないですかー」
「あれねー。ほんと腹立つわよねー! そういう事するの大体小汚いおっさんだけど」
「それがこの間の選手紹介中にサインを複数の選手に頼んでたの女子中学生だったんですよー。親御さんと一緒にサイン求めまくってて〜」
「うそ⁉︎」
「そもそも選手紹介中のサインや写真って進行遅延するから禁止じゃないですか〜? あんまりサイン求めまくるから警備員にしょっぴかれて、その後親と一緒にクレーム付けてきたらしーですよー」
「…………世も末だわ……」
ボートレース場に来る親子の全部が全部そうとは言わないけど、嫌だなー、そういうの。
そういう親子がいるからレース場は民度が低い奴らの集まりで、教育に悪いって言われるようになるのよ……。
そんで競馬場で働いてる人たちに「所詮ボートは……」みたいに見下されるのよね……!
「お客さんのマナー向上が難しいのはわかるけど……そういう話を聞くとほんとボートレース場に来る客の質が残念って思うわ」
「ですよねー、みんながみんなそうじゃないんですけど……」
「この間、コンセント抜いて止めたマスコットロボのコンセント、お客がわざわざ差し直して稼働させて写真撮ってそのまま放置されてまたコンセント抜いて止めるはめになったのよね」
「ヤバくありません? その客」
「ほんとよね。写真ならわざわざ動かす必要なくない? しかもこっちの了承もなしにさー……」
ボートってこんなに面白いのに……。
選手もイケメン多いし、美女多いし……人間できてる人多いし……競馬と十分対等な面白さがあると思うのに……。
ファンの層が残念なのよね……どうしても。
競馬場のお客さんの層と比べると……残念なのよねぇ…!
そうこうしてるとあっという間に開門の時間。
お客さんがドッと入場してくるので、我々は笑顔でお出迎えする。
先程までお客の愚痴をだらだら垂れ流していたとは誰も思わぬ営業スマイルで、いらっしゃいませー、と声がけも忘れない。
SGなので、ほとんどは小綺麗な格好のお客さんだけど……やっぱり
この間ノベルティーで配ったやつだと思うけど、一人一枚よね?
なんで連日一人一枚しか配られていないはずの無料券で入ってくるの?
またゴミ箱から漁ってきたのかしら?
入場料金すら払うのケチって舟券買って当たるのかしらねぇ?
「すみません」
「はい」
入場口の側のインフォメーションカウンターなので、この時間は我先にとイベントホールの場所を聞かれたり、イベントの時間を聞かれたり……わんさかお客に囲まれる。
しかし日本人の素晴らしいところは「案内待ち」でちゃんと並んでくれるところだ。
散々お客の悪口を言っておいてなんだけど、こうしてわざわざ並んで待っていてくれるマナーのいいお客さんもたくさんいる。
素晴らしい……素敵だわ、マナーの良いお客サマ!
待っててね、すぐにお答えしますからー!
「あれ?」
「警備本部はどちらでしょうか」
「あ、お待ちください」
昨日の、お巡りさん?
やっぱりそうだ、黒髪と薄い水色の髪のイケメンさん。
スーツ姿で、警察手帳を見せられる。
警備本部に用事ってことは詐欺師かスリか窃盗か……。
こういうところだから多いのよ。
そういう奴らを追って、二課の刑事さんもよく来る。
時に張り込みもしているので、そういう時は目の前で刑事ドラマを見ている気分。
張り込み中の私服警官を常連さんが「あいつ舟券買わずにずっと客を見てんだよ。きっとドロボーだぜ」って言ってきた時は返答に困ったものだ。
「今、担当の者がお迎えに参りますのでお待ちください」
「分かりました、ありがとうございます」
内線電話で本部に連絡すると、約束してたんだろう、すぐに担当がここまで迎えに来るという。
えー……若干気まずいんですけどー……。
お化粧してるから、私だってバレてないかな?
「監視カメラですか?」
後輩が興味津々で二人に話しかける。
まあ、一人はジャーニーズに居てもなんら不思議はないレベルのイケメンだから話しかけたくなる気持ちはめちゃくちゃわかる!
分かるけど、警察官がそんなこと教えてくれるわけがない。
「はい」
答えてくれちゃったよ生真面目さん!
「えー、どんな事件か聞いて良いですか?」
「ちょっと……」
「すみません、詳細は」
「ですよね」
うちの後輩がすみません……頭を下げると、向こうも頭を下げてくる。
「おい、ねーちゃん! 自販機売り切れになってるぞ!」
「え、どこですか?」
「そこだよそこ!」
んもー……。
エスカレーターのところかなぁ?
「ちょっと確認してきますね」
「はい、行ってらっしゃい」
後輩にカウンターを任せておっさんの騒ぐ自動販売機へと向かう。
ったく、わざわざ夢の国みたいに物価の高い場内で飲み物買わなくてもいいだろうに……。
————ヒメ……。
「?」
ほわん、と真っ白な光の粒が私の周りを漂う。
呼び掛けられている?
でも、普通の声じゃ、ないわね?
子供の声?
それに、ヒメ、って?
————ヒメ、ゴメンネ……。
光の粒が増えていく。
おかしいと気付いたのは、周りがほとんど見えなくなってきてからだ。
子供の声は聞こえていた雑踏を搔き消す。
なにこれ、なにが起きているの⁉︎
————ゴメンネ……ヒメ……デ、モ……モウ…………。
「君!」
「あ……! た、助け……!」
光で埋め尽くされる!
訳のわからない声。
嫌、なんだか、怖い!
はっきり聴こえてきた男の声と、差し伸ばされた手に思わず手を伸ばした。
男の人の手。
ゴツゴツしていて、温かくて……頼もしくて……。
けれど、下から吹き上げてきた風と光に飲み込まれる。
体が宙に浮いて、四肢が引きちぎられると思えるほどの訳のわからない衝撃。
でも、何故だろう……この感覚を知っている気がした。
————ゴメンネ…………ヒメ………ゴメンネ…………。
子供の声。
謝り続けるその声に、いいよ、と言ってあげないと。
子供がそんなに辛そうに謝るなんて……そんな事……。
それに、姫なんて言われて悪い気はしないし。
でも、今のは一体……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます