9-1
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練習でかいた汗を風呂で流し、さっぱりしてから駅に向かう。うちからは徒歩15分だ。
てことで、55分くらいに家を出た。どうせ宵闇も遅くなるんじゃねぇ? レコーディング中だしさ。
ぷらぷら歩くと、やっと涼しくなってきた夜風が気持ちいい。
あっちのレコーディングの様子はどうなんだろうな。昨日も今日も宵闇が連絡とってくるってことは、何かは動いてるのかもしれない。良いか悪いかはわからんけど。
あいつが俺に会いたい理由なんて、バンドのこと以外ないだろう。俺も、別にバンドのことがなけりゃわざわざ会わないし。
メンバー以上の何者でもないからな。今んとこ、友達ですらないし。
ジーンズの尻ポケットにつっこんでたスマホが震えて着信を知らせる。
取り出して見ると、宵闇からのメッセージ。
あいつLINE大好きだな。
「今どこだ?」
時間を見ると、23時5分。約束の時間を5分過ぎたところ。何だ、きっちりしてんだな、あいつ。
「あと5分で着く」
適当にそう返信する。まあ、焦らなくてもラーメン屋は深夜過ぎまでやってる。
待ち合わせ場所に指定した駅前のマクドナルドが見えてくると、宵闇は、まだ離れているのに俺を見つけて歩み寄ってきた。
「おつかれ」
ルーズなシルエットの長袖Tシャツを着て、スキニーデニムを履いている細っこい宵闇は、ちょっと人目を引く。ほんと、ヴィジュアル系の皆さんってのは何でこんなにヒョロヒョロなんだ。何食って生きてんだ。
ヤツの顔を見ると、唇の端が上がってる。あ、これ笑顔か。
「おつかれさん。ラーメン屋は…」
今日の目当ては、俺の一番の気に入りのラーメン屋だ。醤油豚骨の美味い…。
「
「ん? お前知ってんの?」
宵闇はくすくすと笑う。
「この辺で一番美味いもんな、あそこ」
「ああ。来たことあんのか?」
ラーメンの趣味は合うみたいだな。それなら、一緒に飯食うのも悪くない。
「俺の家、この向こうだからな」
「へ? この向こう?」
「ああ、そこにツタヤあるだろ。あれのもうちょっと先だよ」
たまに使うわ、そのツタヤ。ってことは。
「何だ、近所かよ」
「住所聞いてびっくりしたよ」
「聞いた時に言えよ、俺、今びっくりしてるわ」
偶然で徒歩20分は驚くだろ。この広い東京で、名古屋出身者が二人。ありえない。
どちらからともなく、龍谷を目指して歩き出す。龍谷は、ツタヤのちょっと手前だ。
「礼華たちもこの辺なのか?」
「いいや。この辺なのは俺だけ」
そりゃそうか。何も固まって住むことないもんな。
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