6-2
ん? デモと違うぞ。
宵闇は元から音数は多い方だが、デモより増えてる。デモは流れだけ作ってたのか? デモが殆ど完成品みたいな口ぶりだったけど。あれこれ考えながら聴く。ここまでは音数が増えただけで、デモには沿っている。でも、この2小節後には俺が派手目に入れたフィルインが入って来る。大人しめに入ったイントロをぶち上げる引鉄だ。デモに沿ってベースを入れて来ると、ドラムだけが目立つ作りになってるはず。
が、そこに入って来たベースラインは。
お前、やるじゃねぇかよ! フィルインにしっかり絡んで来るベースライン。こいつ、きっちり変えて来やがった。
そこからも、宵闇のベースは俺のプレイにぴったりと着いてくる。音の強弱すら重ね合わせ、時には俺のフレーズと掛け合って。
今まで俺が聴いてたベルノワールは何だったんだ。こんなベーシストはいなかったはずだ。こんな音を聴いたことはない。
心臓がドキドキと音を立てて脈打つ。体がカッと熱くなる。
ヤバい、俺、興奮してる。
テンションが上がる。
平凡なヤツだと思って期待してなかったけど、こんな面白いベーシストとリズム隊がやれるのか。音でバトル出来るのか。
そりゃ、技術的なことを言えば柴田直人さんみたいに、とはいかないし、もっと上手いベーシストはいくらでもいる。だけど、こいつにも俺のドラムと渡り合うだけの資格はある。上手さより、センスだ。ドラムのセンスは皆無だったけど、本気を出した宵闇のベースのセンスは俺の魂を蹴り上げる。
テクニックなんか、練習さえ積めばどうにでもなる。こいつは化けるかもしれねぇ。
こいつ、この3日でここまで練り直して来たのか。それも恐らく、3曲全て。残り2曲が素直に楽しみだ。どんな面白いことになってるんだろう。
最後の一音まで、ヤツは手を抜かずに弾き終え、前髪の隙間から俺を見て唇を歪める。
「お前、本気だな」
「本気にさせたのはお前だ」
中身がないクセに上から目線でムカつくヤツだと思ってた。上から目線でムカつくのは変わらねーけど、中身がないは訂正してやろう。
こいつ、思った以上にベーシストだ。
そうは言っても、まだまだ改善点はある。俺のドラムにふさわしいベーシストに叩き上げてやろうじゃねぇの。
「宵闇、もう一回だ」
もう一度聴いて確認してから、コテンパンにダメ出ししてやる。
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