4-2


 そこへ座って、俺の前髪をかきあげた。

 暫くそのまま俺の顔をじっと見つめる。

「…とっとと化粧するならしろ」

 その沈黙に耐えかねて俺がそう言うと、軽く頷き、箱の中からクリップを取り出して俺の前髪を上げて留める。

「目は閉じてろ」

 そう言われて、目を閉じる。顔中にどんどん何かを塗りたくられ、瞼を何かが擦ってる感じは、正直気持ち悪い。

 どれくらい時間が経ったのか。

「よし、目を開けろ。顔はそのままで、上を見ろ」

「んぁ?」

 わけがわからないまま、目玉だけ上を向く。目のふちを何かが触っていく。ちょっとこえーな。

「よし、後は…」

 宵闇は箱の中からあれこれ取り出し、俺の顔と見比べる。

「何だ?」

「リップだ。…そうだな、パープルだな」

「いかにもだなぁ」

 紫の口紅か。典型的なヴィジュアル系って感じだ。宵闇は慣れた手つきで筆に口紅をつけて、左手で俺の顎をつかむ。

「あ?」

「じっとしろ。塗れないだろ」

「あー…」

 そういうことな。唇を筆が撫でる感触が嫌な感じだ。

 筆を置いた宵闇は、そのまま俺の顔を見て、頷いて立ち上がる。

「カラコンがいるな」

「はぁ? そこまでいるか?」

「いる」

 カラコンって…使ったことないぞ。目はいいんだ。

 部屋の隅のレターケースの引き出しから、カラコンらしきものを取って、宵闇が戻ってくる。

 取り出したそれは、また紫だ。

「目はこっち向け。動かすな」

 そう言って、俺の瞼を引き上げてカラコンを瞳に乗せる。ひやっとした感触にぞっとする。

「うわ」

「痛いか?」

「いや、痛かないけど」

 答えると、もう片方の目にも同じようにカラコンを放り込まれる。思ったよりすぐにカラコンは目に馴染んで、違和感はなくなる。

「よし。じゃあ後は髪だな」

 前髪を留めていたクリップをはずし、宵闇は親指で唇をなぞりながら俺の頭を上下左右から見る。

「よし」

 プランが決まったのか、俺の背後に周り、髪をまとめ始める。上半分をとって、頭のてっぺんでゴムで留められる。そうしてから、ハードスプレーを吹きかけながらクシで逆毛を立てている…ようだ。自分では見えないから、どうなってんだかよくわかんねぇ。

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