ギャル、死゜る

@oococco

第1話 前座

〇はじめに

・ギャル(24')


 当時の私にまともな語彙があれば、自分が必死になっていること、どうしてもその瞬間にこだわらなければいけないこと、他人よりも自分が〇〇じゃなくちゃいけないこと、そういう一つ一つに対して、「なんの意味もない」と人に言えたかもしれない。

 それを認識できれば、自覚していれば、自分の人生に疑問を持つことくらいあったのかもしれない。


 でも今となっては知れないことだ。


 だから私の話は、まともな言語能力を手に入れられるところまで、ほかの人にお願いすることにする。

 それまでの私なんて、子供や動物と同じでただの混沌でしかないからね。


 だから、まずはお願いしますね?

 神様。





〇導入としてのモノローグ

・交換手(神)


 仕事。人間ではできない仕事。


 私の生きる世界では「人間ができる仕事」は「人間にしかできない仕事」と同義である。

 機械が進化し始めたころ、人間にしかできない仕事とは何かみたいな論議が起きたらしい。

 その頃はまだ人間じゃなくてもできる仕事も人間の仕事だったらしいから、わざわざ議論して推察しなければならなかったんだろうね。

 もうその心配はない。この時代ではもう仕事は「人間にしかできない」。


 それは、どんな仕事か?

 それは人間のどうしようもなく不完全で、不合理で、不可解な部分を相手にする仕事だ。

 なまじ論理や整合性を持ち合わせようとした人間の、それでもどうしようもなく混沌の存在である部分を相手にする仕事。


 わかるかな?


 生殖?まぁそれも立派な「仕事」だろうね。

 教育?幅広いね。でも保育はともかく、勉学という意味なら人間が携わるべき教育はわずかだ。

 医療?これも幅広いけれど、生物というのも機械的な解釈で読解することは可能だ。だから肉体に属する医療行為は人間の仕事ではない。

 肉体に関してはね。


 おっと、ここまで来ればわかってしまうかな。


 そう、主にこの時代の「人間の仕事」は、対人間の「精神」についての仕事だ。

 人間を、人間たらしめる、認識することの源、「心」「思考」「概念」に対する仕事。


 そういう仕事をそれぞれ、「仕事が必要な人々」が担っている。

 必要な人々ということは、そうでない人々もいる。

 むしろそういう仕事なんて必要ない人々がほとんどで、仕事が必要な我々の方が奇特になってしまった。

 私はまだ「仕事」をしている、数少ない人間だ。


 さて、そろそろ本題に入らなければいけない。


 私の仕事について。


 私は、いわゆる「転生の神」をしている。





〇承前としてのエピローグ①

・ギャル(-2)


 やば。え、やば。やばいって。だから、やば





〇承前としてのプロローグ①

・神(交換手)


 待機している。


 たとえば真っ暗な暗闇。たとえば神殿風の白い空間。たとえば宇宙のような。

 望まれているシークエンスにふさわしい空間。

 佇まう姿も望まれているもの。

 女神。天使。少年。老人。姿のない声。

 それらをすべて兼ねそろえて、あらゆる望まれるシークエンスに備えている。


 それらは「待ち人」が現れる瞬間に、全て望まれた姿に、望ましい環境に、自然と仕上がる。


 だから待機している。

 また一人「終える」その瞬間を。





 〇承前としてのエピローグ①

 ・ギャル(-1)


 やばやばやばやばやばやばやばやばやばやばやばやばやば、やっ


 ――かずくん。





 〇承前としてのプロローグ②

 ・神(交換手)


 一つの終わりが収束する。

 担当が決まる。

 情報が頭にあふれる。

 登録者、登録内容、期間、頻度、傾向、主義、経過、

 そして「私」の形式が定まる。

 この中の「私」となる。対象者のための「私」になる。

 意図的に情報が欠損・誇張され、人格を得る。


 ほんの一瞬の「私」として、対峙する。

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