第41話 関門



 最初の障害物も何もないコースを走った選手たち。

 そろそろ先頭がレースの第一関門に差し掛かる所だった。


『さーて、勢いよくスタートを切って競い合う各選手達ですね。やや一名選手が脱落してしまいましたが、どんまい。そろそろ先頭集団が第一関門にさしかかるようですよ。木材で編んだ浮島に、土を持った島が点々としているのは、その名も浮島コース。そこから先は港を飛び出して水上にある浮島を走行することになります、水中に落下せずに点在する浮島を飛んでいけるか!? 選手の手綱さばきに注目です!』


 アムニスの説明のとおりに、行く先の地面は途切れそこからは海になっている。

 海面にはユラユラ揺れる人工的に作られた浮島があって、コケトリーはそれらをジャンプして進んで行かなければならない。


『おっと、優勝候補のリリック選手が一番乗りです! スピードをまったく落とすことなくリズミカルに足を運んでいますね! 見事なテクニックです』


 そうこうしているうちに一番先頭の選手が到達し、その後も続々と各選手たちが続いていく。


 浮島は十分な大きさがあるので、選手が数人同時に乗っても沈んだりはしないが、かわりに後方の物になるほど揺れが大きくなって、足を取られやすくなる。

 自然と、遅れて到着した選手達はスピードを落とさなければ良くなくなる。


「ぴゃ、ぴょ、ふぁ……くりあーなの! 偉いのコケちゃま! ぴょんぴょんぴょんって行けたの!」


 なあちゃんを含めた先頭集団が、浮島コースを抜けることになっても姫乃達はまだようやくコースの半ばにいた。


「わっ、……ととと」


 揺れる大地に足を取られそうになているコケトリーを落ち着かせ、どうにか海に落ちずにすむ。

 そうこう言ってると、後ろから盛大に水音がした。


「難しー、素人の付け焼刃じゃだめだねー」


 啓区だった。


「リタイヤしちゃったー。頑張ってねー、姫ちゃん」


 背後に遠くなっていくだろう姿をふりかえりたくなるが、車や自転車と同じようにわき見は危険だ。


「行けるとこまで頑張るよ!」


 姫乃はそう声をかけてコース攻略へ集中する。


『数多の脱落者を出した浮島コース、もうすぐほぼ全員が渡り終えるみたいですね。コースが終わったら、今度は足場の広い、大きなコースが続いていますので、そこで先頭と開いた差を埋められるといいですね。では、お次はそろそろ第二関門。水流コースです』


 姫乃達の位置からは、主だった変化は見えない。

 アムニスの説明によると、水の流れが複雑になっているコースでしっかり泳がないと、流されてしまうというコースだった。


 流れは刻一刻と変化していてこれといったパターンはないらしい。

 熟練の船乗りですら予想の憑かない流れの中、選手達は進まねばならない様だった。


『おっと、ここで先頭が水流コースにやってきました! さすがの優勝候補もここでは苦戦しているようです! 後に続く選手達も進みづらそうにしてますね。おやっ、何人かが流れに捕らわれかけてしまいました。ひやひやするコースですね』


 後続との距離を離すばかりだった先頭集団がここにきて、急に近くの存在になってきた。

 その中でもなあちゃんの活躍は目覚ましい。


「あっちから来るの、次はたぶんこっちからなの、えーと後はまっすぐなの!」


 まるで流れがどうなっているか分かる様にすいすいと進んで行く。

 なあちゃんの声からは真剣みとかは感じられなくて、そうしているとまるで何でもない事のように感じられそうになるが、はっきり考えるとすごかった。


『これは……凄い。キトセ選手、まったくスピードを落とすことなく突き進んでいきます。まるで水の流れが分かっているように。一体どうなっているのでしょう。ぐいぐい順位を追い上げていきます!』


 アムニスの驚愕の声が上がると同時に、歓声が湧く。

 思わぬ奮戦に観客達も同じ反応のようだった。


 そんな様子で、コースを一周。海から上がって最初にスタートした場所が見えてきた。

 あそこについた順番で、順位が決まる。

 上位十名が次に進めるのだが、姫乃は全体の真ん中らへん、前にはまだ十数人以上もいた。


「今から頑張って、一気に抜くのは無理かな」


 普通に考えれば無理だろう。

 でも……。


「それじゃあつまらないよね」


 途中で投げ出す事ほど、勝負をつまらなくするものはない。

 それは部活でも同じだ。


 いつも何らかの形で雪奈先生に出し抜かれる部員達だが、途中で諦めるなんてもったいなくて皆しないのだ。

 なぜならあの先生は、形勢逆転や思わぬトラップ、本当に最後まで目が離せない事ばかり起こしてくれるからだ。


 それに頑張るって言っちゃったから、最後までやらないとね。


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