第35話 調査
シュナイデル城 倉庫 『+++』
姫乃達が水上レースに向けて練習をしている一方で、啓区と未利は別の事をしていた。
「今日も綺麗だよアテナ」
「そんな、ルーンこそカッコいいです。最高ですですよ」
案内役であるアテナとその彼氏であるルーンがイチャイチャしているのを横で見ながら、啓区と未利はクレーディアという女性が使っていた部屋を見せてもらったり、彼女の道具が保管されている部屋を見せてもらっていたのだ。
見知らぬ人物……ルーンは一般の芸術家であるらしかったが、エアロやイフィールとも顔なじみであるため、城へこうやってたまに出入りしては恋人であるアテナと話をしているらしい。
現在位置は倉庫内だ。
薄暗い室内で、棚を一つ一つ確認する未利は、先ほどあった出来事を思い返して毒づく。
「くそ、あのコケトリーの奴、こっちを見るなり凶暴さ爆発で体当たりしてきやがって」
コケトリーという動物がどんなものか一目見てから移動しようとした未利は、出会った瞬間にコケトリーの凶暴すぎる攻撃を受けたのだった。
「普通のニワトリならまだしもあの巨体でぶつかってくるとか、もはや凶器でしょ!」
「未利って動物に縁がないよねー。ヤコウモリにもたかられてたしー、ネコウにも生き埋めにされかかったとかー。やっぱり、凶暴さが滲み出てるのかなー」
「誰が凶暴そのものだって!!」
「そこまでは言ってないよー」
筋金入りの動物運のなさにぶつぶつ文句をこぼす未利を近くに、啓区は別の棚を確認する。
部屋の中は、古めかしい道具が置かれているものの掃除はしっかりとされていて、埃が積もっているようなことはなかった。
目的は使える機械パーツを手に入れる事だ。
城の人間に質問して、クレーディアについて分かったのは、
実際に百年前に実在したという事。
そして……。
彼女は人間ではないという事。
今からおよそ百年前、彼女はエマ―・シュトレヒムという機術士と共にこの城にやってきた。
彼女は遺跡から発掘された機械であったため、エマー・シュトレヒムは道具として彼女を扱っていたらしい。
それを、この城の当時の領主であるアイナが保護した。
しかし、その年の
啓区は、棚に並んだ物……彼女にまつわる遺品を眺めながら、少し前に姫乃と話した事を思いだす。
『クレーディアさんかー』
『実際にこのお城にいた人みたいだけど、どうしてその人の事が見えたんだろう』
『何でもありだから見えたって言えば、そうなんだろうけどー、気になるよねー』
『啓区が見た方は……、まだ分かりやすいのにね』
『そうだねー。詳しい事は分かんなくても、これ以上ないくらい不吉さ全開だったもんねー。これは防ぐしかないよねぇー』
『調べてみた方がいいよね、もっと色々』
『それがいいと思うよー』
初めは姫乃と啓区の役割は逆だった。だが、ロングミストでの啓区の魔法(?)の事に思い至り今のこの割り振りになったのだ。
考えに沈む啓区に未利が話しかける。
「ウーガナの奴、ちゃんと凶暴してると思う? あいつが協力するとかマジで想像つかないんだけど、どういうアレで推薦したわけ?」
「凶暴さについては大丈夫ないんじゃないかなー、けっこうな悪人顔……凶暴顔だったし、しっかり役目をこなしてると思うよー。それと、推薦は大げさだよー、可哀そうだから交ぜてあげたらいいよーって適当に言っただけだしー」
「適当かい!」
そこにイチャイチャしていたはずのアテナが寄ってきて同じ事が気になったのか尋ねてくる。
「イフィールさんが乗り気でしたですから、許可が下りましたですですけど。どうしてあの犯罪者を使ったですですか」
「うーん、あえて言うなら未利の凶暴さじゃちょと足りないかなってー」
「誰が凶暴の化身だごるぁ」
「そんな話してないよー」
頬をみょーんみょーんされながら、啓区は未利を背後にくっつけて歩いていると、棚の上に目的のものを見つけた。
何かまたいい様にはぐらかされてるだけな気がする、みたいに呟く未利にそれを見せる。
「何これ。何でこんなもんがここに置いてあんのさ。頭おかしいんじゃないの」
「頭はおかしくなっててもこれはこんなところに置いたりはできないと思うよー」
驚愕する未利の言動に珍しく啓区が突っ込みをいれる。
そこには鈍色の小さな機械達が置いてあった。
この世界マギクスにはなくて、メタリカにあるはずのもの。
「どう見てもこれー、機械のジャンクパーツ、だよねー」
「マジで?」
「よーし、目的達成ー」
「ていうか、まだいろいろ聞いてないことあるんだけど。クレーディアって誰とか、これ何に使うつもりとか」
啓区はいつも通りの様子で口にする。
ここに来た目的を。
「作るんだよー。もう一個通信できるやつー。携帯モドキをー」
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