第34話 絵本のような光景
シュナイデル城 中庭
祭りの参加が参加が決まってから数日後。
ようやく姫乃達は水上レースに向けての練習を始める事になったのだが、お城の中庭にいるのは珍しい組み合わせだった。姫乃となあ、イフィールとウーガナだ。
中庭の開けた場所に立つ姫乃達の前には、二羽の鳥がいる。
だが、鳥と言い表すにはいささか無理があるかもしれない。目の前のそれはボールのようにずんぐりとした体格をしていた。
「すごいの! おっきな鳥さんなの、ビッグなの!」
「コケェェェェェ!」
なあが歓声をあげると、鳥はそれに答えるように羽をばたつかせて嘶く。
その生物の名前はコケトリー。
姫乃達のいた世界メタリカでの生物を挙げるなら、ニワトリに近い生き物だ。
もっとも、体長は成人男性の腰の高さよりちょっと大きくて、体格は丸々とした姿をしているといった違いがあるが。
だが全体的にはおおよそニワトリのイメージそのまま。
頭のてっぺんには赤いトサカが付いていて、喉のところににも赤いひだがある。
体毛は全体的に白で、触り心地がよさそうにふさふさしているし。
きっと目の前の生物を小さくしてスマートにしたら、多分普通のニワトリになるのではないだろうか。
「コケッ」
「なあはね、なあっていうの。始めましてなの、コケちゃま」
「コケケッ」
つぶらな瞳で見つめてくるニワトリ……ではなくコケトリーとさっそく意思疎通を図るなあちゃん。
動物相手との相性は抜群だった。
「私はとりあえずそのコケトリ―さんで水上レースの練習をしてるから。ええっと、なあちゃんは動物達と一緒に頑張ってね。凶暴なウーガナから逃げるために、動物に指示を出す練習をするんだって」
姫乃は啓区や未利達から言われたことを伝えて、確認する。
「分かったの!」
なあちゃんは元気に頷く。
理解してくれてるかは見た目じゃわからないが(特になあちゃんは)、とりあえず安心しておこう。
「あぁ? てめぇこのガキなめてんのか。ふざんなおいっ」
何やら横でウーガナが言葉を発しているが耳をかさず、姫乃はコケトリーに挨拶をして練習に入る。
心配はするが、イフィールが横で面倒をみているので大丈夫だろう。
姫乃はなあちゃんが仲良くなったコケトリ―とは別の鳥に挨拶する。
「えっと、よろしくね」
「コケェッ!」
よく考えたよね。こんな滅茶苦茶な方法……。
レースの練習と一緒にひょっとしたらなあちゃんの魔法の練習もできるかもという話になって、思いついたのがこの方法だ。
なあちゃんの魔法は収納の魔法だ。
物を自在に出し入れしたりできる魔法。
だけど、実際が生き物が瞬間移動するような出来事が何度も発生していた。
そこで推測するのはなあちゃの魔法は空間を操る魔法だということ。
それで危機的状況に陥った場合、無意識に魔法を必要な形に応用して使っているのではないのかということだ。
「ほら、お前の役目が回ってきたぞ、つべこべ言わずに働くといい」
「ちっ、こんな馬鹿なマネやれるか。だいたい脅し役なら他にもいるだろうが……」
「つべこべ言わずに働け」
「……くそが」
乗り気ではないウーガナに剣をちらつかせて無理やり動かすイフィール。
不快な目にあわされた事もあり、どうなるかと思っていたが意外にも彼女はそんなに気にしていないようだった。
そんな殺伐としたやり取りをしている間にも、なあちゃんはどこからか集まって来た動物達と仲良ししていた。
なあちゃん、まだウーガナは頑張ってないよ。
「えっとねなの。まずなあの好きな事を教えるの。なあは皆で楽しく遊ぶのが好きなの」
「にゃー」
「ぶかつどーっていうのがあるの。みんなでわーってやって、ぴゃーてやって、とっても賑やかで楽しいの」
「ピピッ」
「こんどぶかつどーする時は一緒に遊ぼうなの、きっと楽しいの」
「キキーっ」
なあちゃんのことばに、ネコウや、生まれたばかりの小鳥のぴーちゃんや、ヤコウモリが楽し気に返答している。
普通の人間がつくれるような景色ではない物を目の前にして、ウーガナがイフィールに一言。
「おい、いつから絵本の中に入っちまったんだよ、俺らは」
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