第27話 よく考えない人達
エンディゴ美術館 『+++』
断崖絶壁に立つ建物の床にへばりつくという、珍妙なオブジェ制作を依頼された数日後のこと、選達は美術品の運搬を手伝ってた。
当然、依頼主はルーンだ。
選達は慎重な手つきで美術館の内部へと布で覆われた美術品を運ぶ。
そこは、以前訪れたカララギ動植物園の創設者ケラース・エンディゴが財力の限りを尽くして作った建物だ。
この世界の建築物としては異例の四階立てに、外壁にはふんだんに装飾品がとりつけられている。色合いは周囲と調和する気がまったくない、原色だ。
「何か、すごいな」
「ルーンさんといい、この町の芸術家やお金ちの人って、どうしてこう個性的なセンスしてるのかしら」
そんな感想を抱きつつも、選達は建物内部へ。
二人して抱えなければいけない作品は、自分達がモチーフなにでもちろん等身大だ。
数日前はただのスケッチだったのに驚異的な創作スピードを発揮して歓声させたものだ。、一体どのような手法を持ちいればこの短期間で人二人の彫像を完成させられるのか。
選達は不思議でたまらない。
「中見たか?」
「見ちゃった」
そんな二人はつい先ほど、覆われた布がかぶさる前の彫刻を見てしまった。
中はもちろん、自分と同じ顔をした彫刻像がものすごく必死な形相をしている作品だ。
二人は同時にため息をついた。
微妙な気持ちになるなと言う方がおかしいだろう。
これが飾られるのだ、祭りでは。
何とも言えない気持ちを抱えたまま、二人は重厚なつくりの洒落た建物の中を進んでいく。
「水礼祭が終わったら、ここでずっと展示してもらえるらしいぞ」
「すごい……けど、何かすごく後悔してきたわ」
「何で俺達あんな依頼受けちまったんだろうな」
見世物にされる様子を思い浮かべては二人は交互に思いため息をつく。
一度は止めた華花の言葉を聞いておけば良かったと思いながら。
煮え切らないその表情は二人にしてはとても珍しい顔だった。
しばらく、近々行われるという祭りの話をしながら作品を運ぶ。
そして館内に入り、内部の人の指示を聞きながら慎重に彫刻を置いたところで、突如建物内に爆発音が響いた。
「今のって」
「荒事の匂いだな」
「とりあえず行ってみましょう」
「だな」
普通の人間なら離れるはずの所を逆に吸い寄せられるように向かっていくのが二人だった。
己の行動に何の迷いもみせず、音が聞こえた方向へと走っていく。
たどりついたのは開けた場所。美術館の入口だった
建物の床や壁、芸術作品の一部が割れたり砕けていたりして壊れていた、
破壊の前にはそこには黒い髪に黒い瞳、褐色の肌の少年が立っていた。
「四宝はどこだ」
そして感情を伺わせない声を出す。
周囲に倒れている人達はいるが、気絶してるだけで幸い怪我をした人はいないようだった。
選はその少年へ尋ねる。
「四宝ってなんだ」
「特別な力をもった秘宝だ」
それで律儀に答える人間はいないだろうなと思っていたら、教えてくれた。
「そっか、で。そいつを探して、お前はここで暴れ回っていたのか」
「そうだ」
続けての選の問い。少年は自らがする悪事の言いわけも誤魔化しもなく、まっすぐに肯定する。
「変な奴だな」
「変な人ね」
「そうか」
それが選……緑花のその少年に対する正直な感想だった。
今までの問答で目の前の二人が目当ての物を知らないとわかったのか、少年は別の人間へと向かう。
「悪い奴なのかなんなのかしらないけど、これ以上他の人達に怪我させるのを見すごすわけにもいかないからな」
そうはさせじその前に立ち、選は大剣を構える。
横に並ぶのは双剣を構えた緑花だ。
「ここで止めさせてもらうからな」
「全力で行くわ、怪我しても恨まないでよね」
言うがいなや二人は同時に飛びかかった。
息のあった行動だ。
「グラビティ」
ツバキは選へと手の平をむけて、漆黒の球体を出現。放つが。
選はそれを避けて進む。
驚異的な身体能力を発揮し、わずか数秒で敵の元へたどりついた。
「人間相手とやるのはこれが初めてだ。気をつけないとな」
選は回り込むようにしてツバキの背後を狙い大剣を振るう。
その隙に緑花は正面から、接近。
「グラビティ」
重力球がいくつも出現、しかし緑花はそれを全て正確に見切って回避した。
「らぁっ」
双剣の腹で、少年の銅を薙ぐように攻撃を繰り出すが、避けられる。
「隙あり!」
後ろに下がった所を、回り込んでいた選が武器で……と見せかけて拳を打ちこむ。
「っ、やるな!」
少年は身を下げて回避。
地面に片手をついて、選へと蹴りを放った。
「おっ」
少年の攻撃が伸びた腕を直撃、する前に選は自ら引いてショックを軽減する。
それでも腕にかなりの衝撃がきた。
「緑花、こいつ強いぞ」
「ええ!!」
一旦、二人は離れて距離を取る。
「ふ……」
今まで無表情だった少年はわずかに笑みをこぼした
「人間相手でこんなに手こずるのは、ホワイトタイガーの頭以来だな」
「すごいわね。私達とそう変わらない歳のはずなのにこんなふうに戦える人がいるなんて」
少年は構えを解いて、口を開く。
「お前たちは恋人か」
そしていきなりそんな質問を放ってきた。
「は?」
「ふぇ?」
二人は当然、耳を疑う。
「つがいなら、相手を助ける為にここは逃げるのが最良だ」
「つがいって何だ。まだ勝敗は分からないだろ」
「こい、恋び……、選と、あわわ……」
意味の分からなかったらしい選は問い返し、続きを催促するように拳を構えるが、緑花の方は顔を赤面させて目を回しそうになっている。
「勝てない相手に挑む理由は、他人の為に挑むの理由は何故だ」
無表所で尋ねる少年だが、その言葉には不思議そうな色が含まれている。
「難しい事なんて分かんないけどな、逃げるよりは戦ったほうが楽だろ」
「そうね。その方がすっきりするし」
「……」
少年は無言で二人を眺めた後、何故か天井を仰ぐような仕種をした。
「ツバキだ」
そして名前を名乗った後、背を向けてその場を去っていく。
「あれ、もういいのか」
「目的は?」
そのまま行かせればいいものを、声をかけてしまう二人。
少年はそれに短く答えた。
「いい」
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