第18章 迷子の達人



 シュナイデル城、中庭


 日課の訓練が終わった後、姫乃達は中庭に移動した。


 雪菜先生の提案もあって訓練とかは少なめにして、お祭りのことを主に取り組むようになったからだ。

 少し前まで停滞していた様子が嘘の様に、一気に忙しくなった。

 考えることが増えて頭がパンクしてしまわないか不安なくらいだ。


 これまでも何度か足を運ぶ事はあったが、ここは本当に素敵な場所だなと思う。


 天井が吹き抜けになっているから、強すぎない風がやわらかに吹き込んでくるし、花壇とには色とりどりの花が整然と咲き乱れ、かすかに甘い匂いを周囲へ散りばめている。

 中央には大きな白桜の木が立っていて、深緑の葉をまとわせており、天井からの日の光をほどよく遮って木陰をつくっては、地面に影の模様を映して絶えず変化させていた。


「あらためて思うけど、お城の中にこんな素敵な場所があるならもっと足を運べばよかったなって思うかな」

「確かに良い感じだってのはあるね。ま、何度も足を運んでりゃ、そのうち慣れるだろうけどさ」

「訓練ばっかじゃなくてー、こういうのもたまにはいいかもねー。シートを広げて下でおいしいお菓子を食べるとかー」

「綺麗なの、お花さんひらひらなの、光がきらきらで……、ぴゃ、太陽さん見ちゃった。お目目がまぶしいの」


 訓練しつにちょっと缶詰になりすぎた弊害を皆まとめて、改めて感じていたところだった。

 コヨミ姫がやってきた。


「ここにいたのね、探したわ」

「コヨミ姫様が私達に何かようですか?」

「ちょっとね、実は……。その、ええと」


 コヨミはどう伝えたらいいのか、戸惑っているような表情を浮かべ言いにくそうにする。


「私の力で見た未来なんだけど……、ちょっと、何て言うか……」

「そうですか」


 モゴモゴと口の中だけで音を発しているような喋り方で、伝えたいことを言っていると、小さな体が担ぎ上げられた。


「あ、ちょっと。グラッソ!」


 護衛役の男だ。

 コヨミを荷物を担ぐようにした後、さっそうとその場を去ろうと歩いていく。


「ま、まって。書類仕事は嫌……。じゃなくて。いえ、違わないけど。他に言わなきゃいけない事が……、ちょっとぉ、私、姫なのにぃぃ……」


 大股の兵士になす術もなく運ばれていくコヨミの姿はあっというまに遠くだ。


「えっと、何か言いたかった事があったみたいだけど」

「あれはほっといてもいいかもね。アテナとかいう奴と同じもんを感じる。ま、言いたかったらその内また言いに来るでしょ」

「いいのかな……」


 そんなこんなでコヨミやグラッソの一時的な乱入があったものの、穏やかな時間の中祭りのアイデアを出したり、言いあったりして中庭で時間を過ごした。


 なぜか途中で雪菜先生がやってきて、部活をしようとか言いだして。かくれんぼをする事になったりで遊んでいたら、なあちゃんが行方不明になった。


「途中までは一緒にいたんだけどね」

「すごいよねーなあちゃん、さっきまでは横にいたのにー。あざやかに視界から消えちゃったよー。迷子の達人かもしれないー」


 未利も啓区も見失ってしまったようだ。

 もちろん、一人にさせると次はどんな事に巻き込まれるか気が気じゃないので、姫乃達は急いで探すことになった。



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