第17章 お祭り



『姫乃』


 休憩が終わった後、姫乃は軽く運動して体をほぐす。

 結局この先の事を考えて、何かに使えることもあるかもという事になったため、ゲーム機を使用することはなかった。

「なら自主的にギブアップしても問題ないようなー」と啓区は言っていたがそれはそれ、これはこれだ。

 自分から諦めるなんてもったいないと思うし、そういうのは何か嫌だ。


 そんな事で時間を使い、休憩をした後は、また修行へと入るのだが。


 煮詰まった。

 パーティーでの戦いに一段落つけ、個人での修行に戻るとやっぱり駄目なのだ。

 壁を感じざるを得ない現状だった。


 それらを見てか顎に手を当てて考えるそぶりをした雪菜先生は、久しぶりにその言葉を言った。


「息抜きとしてお祭りに参加しましょ。ひさしぶりのあそ部の活動よ。ちきちきお祭り盛り上げ大会! お祭りで一番目立った人が一番ね!」


 突拍子もない事だった。

 関連性はあまりなさそうだが、息抜きとしては良い案だと姫乃も思う


「お祭りあるんですか?」


 もたらされた情報に姫乃は聞き返す。

 船から降りてすぐお城へ直行だったので、今この町がどうなっているのか情報がないのだ。


「そうよ、この町で近々、水礼祭っていうお祭りがあるの。お水の恵みに感謝するお祭りね。ずっと修行やってたら煮詰まっちゃうから、ちょうどいいと思うのよ。皆で参加しましょ!」

「祭りか。良いんじゃないの? ずっと缶詰っていうのもアレだし」

「うん、良いと思うよー。美味しそうな食べ物とかもいっぱいあるだろうしねー」

「お祭りさんなの、楽しそうなのっ。なあ、わいわいしたいのっ」


 さっきまでの空気が一転して、騒がしくなる。

 気付けば、ここの所みんなしてずっと難しそうな顔ばかりしてた気がする。

 強くなる事とか成長する事ばかり考えてたけど、こういうのも大切にしなきゃだよね。

 姫乃としても楽しそうだし、特にその案についての反論はない。

 出店とか出るのかな、お金とかはあんまり使いたくないけど、見てるだけでも楽しいよね。


「盛り上がってるみたいね! くぅーっ、このワクワク感が祭りの素敵な所なのよねー。良いわ、先生とっておきの情報を教えちゃう!」


 雪菜先生は拳を握って、体を震わせたあと、くわっと目を見開いた。

 気合いが入ってる……。


 祭りでは町の至るところで普通の出店や、芸術作品などの飾りつけが楽しめるらしい。

 広い水上舞台をつかった見世物や、動物と一緒に行う賭け競争なんかもある。

 基本的な所は、私達の世界と変わらないようだ


「でも観客だけで満足しちゃダメ! こういうのは参加して楽しみを何倍にも増やさなくっちゃ! コケトリ―の水上レースとか、舞台上のショーとか、すんごく楽しいわよっ。どうせならもう両方とも出ちゃいなさいよ!!」


 まるでその目で見て実際に経験でもしてきたみたいな言葉だ。


 雪菜先生は姫乃達に、どうする? 

 と聞きつつも、

 もちろんどっちもやるわよね?

 という目をしている。


 こういう所、ルミナとそっくりだなぁ。


「でも私達、コケトリー? って言う名前の動物とか飼ってないですけど」

「それなら問題ないわ。この世界の動物園の知り合いに貸してもらえる事にしたから」


 この世界にもそんなのがあるんだ……。

 というか、したからって……。

 参加させる気満々だったみたいだ。


「出し物は全員で協力してもいいけど、やるからには一番。皆で目指さなくっちゃね!」


 雪菜先生、大人なのにこういう事を考えてる時すっごく楽しそうだよね。

 目がキラキラしてるっていうか。

 心からそう思ってるってのがすごく伝わってくる。ルミナみたいに。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る