第10章 現実的な問題
その日の夜、お城の浴場。
姫乃は昼間の出来事について未利と話をしていた。
もうすでに大まかな話はしてあるが、未利はまだ言葉が尽きないようだった。
ちなみに雪菜先生はアルガラとカルガラと共に、報告や今後の事についてコヨミと話しあっている。
「あの先生、タフすぎるでしょ。大魔導士の弟子とか」
「あはは、そうだね。イフィールさんの態度見たけど、大魔導士様って本当に凄い人みたいだよ」
近くでは他の兵士さんからもらったアヒルの玩具を浮かべて遊んでいるなあちゃんがいる
「ぴゃ、あーひーるーさんーなのっ」
とても楽しそうだ。
「でも、他の人ならともかく雪菜先生だから」
「無人島に流れ着いても生きてけるわ、あの人」
予想通りとまではいかないけど、予想外とは言えないかな、と思う。
どんな状況に放り込まれても、明るく前向きに生きていけそうだって思えたんだよね、先生って。
「明日からの魔法の訓練、大魔導士さんにアドバイスしてもらえる事になって良かったよね」
「そうだね。ウチ等だけじゃ、考えるのとか限度があるし」
姫乃の魔法の上達のヒントがもたらされるかもしれないのは素直に嬉しかった。
それに、見知った大人と合流できたというのも心強い。
イフィールさんも良い人だけど気軽に相談できるような関係ではないし、保護者代わりでもあったセルスティーと離れてからは自分達だけで何とかしなければならないという状況に気疲れを感じることもあった。
「大人がいてくれるのってやっぱり、心強いよね」
「……、まあそうだけどね。良い奴だったら、歓迎はするよ」
姫乃が感じたことを言えば、歯切れの悪いひねくれた言葉が返ってくる。
そのまま無言の時間を数秒過ごした後、未利がぽつりと言葉をこぼす。
「あー、その……。昼間、悪かった。空気悪くして」
エアロと言い合いをしてしまった事の謝罪だった。
「それは別にいいよ。コヨミ姫のこと思って言ったんだよね。私が何か言う事なんてないよ」
「ん、そっか」
ひょっとしてずっと気にしてたの?
なあちゃんの元からはぐれてしまった一匹(?)のアヒルがちょうど二人の目の前にやって来る。
未利はそのアヒルをここぞとばかりにつつきまわす。
「アイツに謝りたくない、……けど、助言は必要だと思う」
「えっと、仲直りしたいって事?」
「違うし。仲直りはしたくないけど、協力は必要っていうか。魔法の上達とか……」
高速で体の各所をつつかれてるアヒルは、ちょっと沈みそうだ。
揺れるにしたがって水しぶきが上がり、アヒルのつぶらな目にかかって、涙目になってるようにも見える。
「力、必要でしょ。これからも」
「私もそうなる気がしてる」
勘っていうのか、学習っていうのか……。
これからも大なり小なりのトラブルに巻き込まれてしまうのだろう。
姫乃はそう思っている。
「だから、すーっごく、もうこれでもないくらい嫌だけど、何か言わなきゃいけないって思ってるワケ」
「あ、今の顔」
「ん? 何」
「学校にいたころの未利の顔に見えた」
「え、何それ、変な顔してた? じっと姫ちゃんに見られてたの?」
未利に詰め寄られて、アヒルが逃げるように姫乃の方へと向かってくる。
そんなにじっとは見てないよ。
「たまにだけどね、退屈そうだな。つまらなさそうな顔してるなって思ってた」
「マジで?」
「ケンカするよりは仲良くしてほしいって思うのが普通だけど、無理をしてまでする事はないと思うな」
流れてきたアヒルを手で受け止めながら姫乃は自分の考えを伝える。
「でもさ、それなら無理してるの姫乃だって同じじゃん」
「え?」
「火の魔法使いこなすために、色々やってるじゃん」
「それは……」
未利はそのまま体を湯船の中に沈めて、首元まで浸かる体勢になった。
「そんな事しなくても良い環境なら良かった。けど、そうじゃない。いつも助けてくれる奴がいるとは限らない。頑張んないと。次は何とかできないかもしんないし」
姫乃は手元のアヒルをそっと撫でる。
言い返せない姫乃は、静かに未利の言葉に耳を傾けるしかなかった。
「ただでさえウチ等は子供なんだから」
未利って本当、私にはできない現実的な考え方してるよね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます