第7章 失礼な人



 修行に精を出しているとそこに新たな人物がやってきた。


「アテナから聞いた通りだわ。ホントにやってる」


 驚いた様子のコヨミと、無言のグラッソだった。


「気合入ってるわね、最近の子供ってみんな修行がブームなの? 私の知り合いも修行好きだって言ってたし」

「えっと、それは……。たぶん私達が特殊というか少数派というか、変というか」


 子供であるはずのコヨミから問われる内容に、姫乃は言いよどむ。

 この世界の子供事情がどうなっているか詳しくは知らないが、エルケとか他の小さな町を見てきた限りでは、修行は一般的なものではないと思う。


 ひとしきり興味深そうに姫乃達を見つめたあと、エアロへと視線が止まる。


「久しぶりね、エアロちゃん。任務ご苦労様、イフィ―ルから聞いたけど大変だったそうじゃない」

「あっ、ひ、姫様!」


 エアロはこちらを確認するやいなや、さっと頭を下げ、かしこまった様子でコヨミにおずおずと話しかける。


「ど、どうしてこのような場所に足をお運びに?」

「ちょっと息抜きしにね」


 一向に肩から力が抜けなさそうな彼女へとコヨミは語りかける。


「そんな風にしなくてもいいって言ってるじゃない。いつも言ってるとおりに接してくれればいいのに……」

「そっ、そんな事できません。無理です。貴方は一国の領主で私の命の恩人でもあるんですから。ただの兵士が気安く声をかけるなんて」


 変わらない態度に今度はコヨミが内心で肩を落としているのが分かった。


 アテナのところはそうでもないが、こういう感じのやりとりは姫乃も何度か城の中で見た。


「そう……」


 コヨミ姫は先ほどまでの態度を切り替えて尋ねる。


「怪我はありませんでしたか」

「はい、お心遣い感謝します。その予定外のことはありましたか無事調査は完了、隊員達も無事帰還しました」

「そうですか、これからもこの世界に住む人達の為に頑張って下さい」

「はいっ」


 そういって部屋から出ていこうとするコヨミを、姫乃は呼び止める。


「コヨミ姫様、何か用事があったんじゃないんですか?」

「あったけど、ちょっと様子を見たかっただけだから。もう行くわ」

「あ……」


 寂しそうな様子でそのままグラッソと共に部屋を出ていってしまう。

 それを見送って、未利がエアロじっとを見つめる。


「何ですか」

「命の恩人ねぇ。恩を感じてるんだったら、もうちょっとマシな態度できないの?」

「なっ、何言ってるんですか! 私の態度が失礼だって言いたいんですか」

「うん。ていうか、そうでしょ」


 喧嘩を売っているようにしか聞こえない未利の言葉を受け、エアロが眉を吊り上げて睨みつけた。

 二人は掴みかからんばかりの距離で言い合いを続ける。


「どこがどう失礼だっていうんですか。失礼なのは貴方達の方じゃないですか! 姫様に向かって、普通の知り合いでにでも話しかけるような態度で、恥ずかしくないんですかっ!?」

「どこがぁ? 恥ずかしくないね。普通に話しちゃいけないワケ? 何で?」

「何でも何も、あの人は姫様で……」


 今までの言い合いが嘘みたいに聞こえる声量で未利は静かに低い声でその言葉を言った。


「分かんないの? そういうの、アイツは望んでないって事」


 そう言って部屋を出ていってしまう。


「未利……」

「あちゃー」

「未利ちゃまケンカしちゃめっなの、すごくプンプンだったの」


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