第2章 クロスバード紙芝居屋 02





 互いに自己紹介を終えた後、ハッセ・クロスバードという人の紙芝居が始まった。





 七色に輝く鳥が描かれた表紙を一枚めくる。


「ある所に七色に輝くとても綺麗な鳥がいました。鳥はとても綺麗だったので、モテモテになってウハウハでした。そのモテモテウハウハはとってもすごかったので、とりあえず朝になったら踊ってみます。するとピッカーと、光り輝いてその姿は太陽のよう。雌鳥たちは目がハートでラブラブです」


「ドキドキ、ワクワクなの」

「そこは突っ込めよ!」


 正座でお話聞きますモードになったなあの様子に、アルルが速攻で突っ込んだ。


「アルルちゃま、しーっなの。人のお話を遮っちゃいけないの」

「内容について何も疑問を持ってない!?」


 しかも正論だから反論しづらい! と驚愕顔になっているアルルを置いて話は次へと進んでいく。

 次の絵は、ハートを背景に舞い踊る鳥の絵が描かれていた。


「シャイニングは言い寄ってくるメス鳥たちを華麗にさばきながら、流し目でウインク! ズッキュンハートでフォーリンラブ。雌鳥たちの中で一番美しい鳥とつがいになりました」


「シャイニングって誰だよ。いきなり名前付いてるし……。はぁ、もういいか二回目だし」


 同じ様な突っ込みを一回目にしたであろうアルルは開始早々疲れた様子で肩を落とした。


「お疲れー」


 一応啓区がそう声をかけると、連れならあんたが面倒みろよ、と言い返される。

 次の絵は仲の良さそうな二羽の鳥の絵だ。


「シャイニングは、ローズマリーと一緒に群れを離れて世界中を旅します。誰も二人の邪魔はできません。伝説の指輪を手に入れたり、伝説の武器を手に入れたり、魔王を倒したり、勇者を倒したり、大忙しです」


「あ、可愛い名前がついたねー」

「ローズマリーちゃま頑張れなのっ! なあ応援してるの!」


 啓区となあの、ごくごくのんびりまったりした会話に、アルルは頭を抱えた。

 抱えただけで今度は何も言わなかったが。


「だけど、そんなニ羽にも残酷な運命は降り掛かります。ローズマリーは病を患って倒れてしまいました。そこは綺麗な桜の根元でした。ですが世界の運命を背負っているシャイニングは行かなければなりません。泣く泣くローズマリーを置いて最後の戦いへと出かけました。つらく厳しい戦いを終えてシャイニングは桜の根元へ戻ってきましたが、ローズマリーはすでに、息を引き取っていました。ああ、ローズマリー。シャイニングの流した涙はローズマリーの亡骸へ一滴。すろと奇跡が起きたのです。ローズマリーは見事蘇り、シャイニングを暖かく迎え入れました。……こうしてニ羽は末永く幸せに暮らしましたのだとさ、めでたしめでたし」


 白桜の木の枝で中良さそうにしている二羽の絵で物語は幕を閉じた。





「うう、良かったの。ローズマリーちゃま達が幸せになってよかったの……。なあ嬉しいの」

「良かったねー。うん良かったー。まあ良かったんじゃないかなー」

「何だろう、この釈然としない気持ちは……。最後だけまともだし……」


 もらい泣きしてるなあちゃんの横で啓区が笑顔で同じなセリフを繰り返す。

 アルルは微妙な表情で紙に描かれた絵を見つめている。

 神妙にハンカチ何かで目元をぬぐっていた紙芝居屋のハッセが、脇から小瓶をとりだした。


「と、いう事で、そのシャイニングの奇跡の涙を今ならたったの千コレルで販売中です」

「前言撤回、ラストが台無しだろ!」

「冗談です」


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