六日目(一)
こんなところに来ても、結局、文明の利器は頼りになるものだ。あらためて人間の科学力はすごいと思った。
僕らはこうして今日も眠りについた。今日は桂坂さんも少しは安心して眠れるかもしれないなと思った。
翌朝、起きると外はカラッと晴れたいい天気だった。爽やかな風が頰に当たって気持ちいい。
皆が思い思いに起きて、身支度を整えたあと集まると、今日の動きについて、スカウトさんから話があった。
「色々考えてみたんだが、このまま脱出ルートを探索するのはもしかしたら無駄かも知れない。これだけ歩き回っても手掛かりすら見つからないのは、この森がよほど大きいってことなんだろうと思う」
「たった数日じゃないですか。もう諦めるんですか」
桂坂さんが異議を唱えた。
「いや、決して諦めるわけじゃない。脱出ルートはこれからも探し続けるさ。でも、これからはここで暮らしてゆくこと前提で行動していくのが大事じゃないか、と思うんだ」
「具体的にはどういうことですか?」
僕は方針そのものには賛成だったので、もう少し詳しく聞きたかった。
「例えば、釣りキチ君の釣りの技術を健太も覚えて、一人でも釣りが出来るようにするとか、釣竿とか必要な道具があれば、製作してみるとか」
「なるほど。継続的に食糧確保が出来るように必要なものが作れないか、試してみるわけですね」
「食糧だけじゃない。住む家、着る服、調理器具、安全な生活に必要なものなど、これから調達、補充していくことを考えなきゃならないんだ」
「そうですね。それがいい」と釣りキチさん。
「利用できるものの把握という意味では、周囲の探索や地図を書くことも必要だろう。それを兼ねて脱出ルートの探索をしていくことになると思う」
「川の発見も重要ですもんね」
僕は以前、スカウトさんと話したことを思い起こしながら言った。
「食材の利用も色々研究しなくちゃね」
料子さんにとっても、木の実や魚など初めて見る種類のものもあって、そのあたりは興味があるようだ。
「それに今のところは天候が落ち着いているが、いつ台風が来るとも限らないし、大雨で洪水や山崩れが起こるとも限らない。立地の確認や危険箇所の有無、あるいはほかに避難できるようなところはあるか、などチェックしておくことは多い」
「地震も怖いですね」と桂坂さん。
「ああ。この家の耐震性はなさそうだから、大きな地震が来たら倒れるかも知れない」
「日本じゃ、このところ地震が頻発してましたからね」
そう言ったのは釣りキチさんだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます