料子さん(四)
「料子さん、スーパーで大量買いしたところだったんですって」
「そうなんです。家で料理の研究用に、いろんな食材買って、レジで金払ったあと、袋に詰め替えてる時にめまいに襲われたんです」
あとで詳しく話をきいたところでは、やはり午後1時ごろのことだったようだ。はっきり時刻は確認してないが、お昼時を少し過ぎていたのは確からしい。転移日も5月20日。やはり、皆と同じパターンだ。
料理の得意な料子さんを中心に夕食の準備をした。今夜も魚主体のメニューである。腹一杯食べるというわけにもいかないが、体が慣れてしまったのか、この程度の食事でも充分満足できた。
「それにしてもびっくりしたわ。いきなり山の中ですもの」
夕食をとりながら、料子さんが興奮気味に話している。流石にあの瞬間は、いつまでも忘れられないショッキングな出来事であろう。
「この家に来て、優子ちゃんに詳しい話を聞いて、驚き半分、安心半分といったところかしら。流石に一人じゃ厳しいけど、こうやってお仲間がいると少しはほっとできそうだわ」
料子さんは思ったほど混乱してはなさそうで安心した。テレビにも出演していたということなので、大舞台やアクシデントにも割と慣れているのかも知れない。
「これで五人になったな。優子ちゃんもやっと話せる女性の仲間が出来て嬉しいだろう」
スカウトさんがポンと優子ちゃんの肩をたたく。
「ええ、もちろん。私の母より上の年代の方なので、色々教わりっぱなしで……」
「まあ! やはりお母さんより私の方が歳が上なのね」
料子さんは殊更大げさに驚いてみせたので、僕らはそれを見て笑った。
「あの……失礼ですが、ご主人とかいらっしゃるんですか?」
釣りキチさんが申し訳なさそうに尋ねる。ここにいる限り、特に必要となる事柄でもないが、料子さんはきちんと回答した。
「全然、失礼じゃないわよ。今は私、独り身。3年ほど前に旦那と離婚したの。それからは大学に通う一人息子と二人で暮らしてたんだけど、息子も今年から就職で家出ちゃったから、ちょっと寂しいかな」
言葉とは裏腹にそんなに悲しそうには思えなかったが、息子が独り立ちした嬉しさも入り混じっているということだろう。
「私が急に居なくなっても、まだ誰にも気づかれてないかもね」
軽い感じて漏らしたその言葉は、僕にも当てはまることだった。僕も心底心配してくれる友人がどれだけいるだろうか……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます