運命の子供達
五十年前にガルミッシュ帝国へ滞在していたログウェルは、そこで奇妙な
そこで『黒』の
しかも世界の滅びを招いた存在が
それを聞いたログウェルは動揺以上に訝し気な表情を強め、改めて目の前にいる『黒』に尋ねた。
『――……お前さん、確か
『ええ』
『どうして
ログウェルは目の前にいる少女が『黒』であることを再確認し、自分達の見ている
すると『黒』はログウェルから視線を外し、赤黒い暗雲が覆う空を見上げながら話した。
『ここは、貴方がこれから辿る未来の一つです』
『未来……。……この世界が、未来じゃと……!?』
『はい。そして貴方が、この未来を創り出した。そして未来の貴方が過去の貴方と意識を接続させて、この
『……未来の儂が、この
『未来の貴方には、もう肉体はありません。意識だけ……いいえ、概念の存在しかないと言えば正しいでしょうか』
『概念……?』
『未来の貴方は、この世界の概念そのものになってしまった。それでも貴方の意識は概念として残り、この結末を創り出した。……全ての生命が滅び、全ての生命が育まれない、滅びの世界を』
『……未来の儂が、儂が居る今の世界を……滅ぼしたというのか……?』
『そうです』
『黒』の話を聞くログウェルは、自分の見ている
それを証明するように、周囲に存在する廃墟となった帝城や目の前に見える帝都跡地に『黒』以外の人影や気配が一切見えないことから、その
しかし自分がその未来を創り出したという話だけは、ログウェルは険しい表情を浮かべて反論する。
『……儂は、
『その
『なに?』
『貴方の魂は特別なんです。だからこそ、こんな
『……どういうことなんじゃ?』
『
『……確か、儂等の世界を創造した神であるとは聞いておる。そして四百年ほど前に復活し、世界を滅ぼそうとしたとも』
『そうです。……しかし
『
『
『……儂が、その一人ということかね?』
『はい』
『……つまり、未来の儂は……
それに肯定するように頷いた『黒』は、視線を下げながらログウェルの右手を見て話を続けた。
『けれど私は、その危険性を取り除く為にある事を行いました』
『あること?』
『
『!』
『聖紋は鍵となり、
『……まさか……』
『そう。
『……!!』
自分が受け継いだ
それを視線で追う『黒』は、更なる情報を与えた。
『
『!』
『魂も肉体も鍛え上げられた真の聖人へ至り、幾万の者達を殺め、幾万の者達から信仰される。……
『……儂が、
『本当なら、聖紋の
『……そうか。儂の本が……』
『貴方が
『……ならば、儂に向けられる
『回避できたのなら、私や貴方がこんな未来を何度も視るわけがありません』
『!』
『未来の貴方も、
『……回避できぬのか……。……儂が本当に、この
廃墟となった帝都と赤黒い暗雲に覆われた黄金色の世界を見回すログウェルは、自分がこの未来を創り出した事に呆然とした面持ちを浮かべる。
現実とも夢とも思えぬ
すると聖紋の刻まれた右手を左手で握る『黒』は、ある提案を向ける。
『ログウェル=バリス=フォン=ガリウス。今の貴方は、この未来を起こしたくはありませんか?』
『!』
『どうですか?』
『……起こしたくは、ないのぉ……』
『そうですか。……なら、私と協力をしませんか?』
『協力?』
『未来の貴方では、過去の貴方としか意識を接続できない。そのせいでこの
『……儂と、お前さんで……?』
『こうなる未来の道筋を、私は知っています。でも私は、それを変えられる程の干渉が出来ない制約があるんです。……でも貴方なら、未来を変える為ほどの干渉を引き寄せられる』
『!』
『私が貴方を、この
右手を握る『黒』の幼い左手は、僅かに力が籠る。
その落ち着いた言葉とは裏腹に必死の思いを抱くような黒い瞳を向けている事に気付いたログウェルは、その返答として『黒』の左手を優しく両手で包みながら身を屈めた。
『……教えてくれんかね。儂がどうすればいいかを』
『私の話を、信じてくれるんですか?』
『信じてみよう。それにこんな殺風景な
『そうですね、私も同意見です』
二人はそうして微笑みを浮かべると、再び空に時空間の穴が出現する。
それに気付いた二人は時空間の穴を見上げ、互いに言葉を向け合った。
『そろそろ、時間というわけですな』
『はい。……貴方の世界に戻ったら、
『
『そこに、ある一人の子供がいます。その子が、この滅びの未来を変える存在を作ってくれる』
『!』
『ここにまた来たら、他のことも色々話します。……お願いします。彼女が存在を賭けて救った、この世界を――……』
そう言いかける『黒』の言葉を遮るように、時空間からこの
二人はそれに包まれながら消え失せ、ログウェルは瞳を開けるといつも通りに自分の世界へ戻っていた。
そして右手に残る『黒』に握られた感触を思い出しながら、ログウェルは自分の右手を握り呟く。
『……また、旅立たねばならぬようじゃな。
ログウェルはそう呟き、帝都を見渡しながら微笑む。
翌日になると、彼は唐突に帝城から離れて流浪の旅を再開した。
そして三年後、ログウェルは一人の子供を連れて帝国へ戻って来る。
その連れられた子供は『メディア』と名付けられ、その子が様々な人間関係を経た事で、彼と同じ
こうして滅びの未来で『黒』と出会ったログウェルは、自らの存在が世界を滅ぼす事を明かされる。
これこそが『黒』の予言していた『世界を滅ぼす者』であり、その命運を変える子供達をこの未来に導かれたのだった。
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