合流の兆し
しかし残された時間が限られる中で焦燥感を強めるアルトリアは、自分自身の
そんなアルトリアを叱責するケイルだったが、そんな彼等が待たされている客間に老師テクラノスが訪れる。
二人に挨拶を交えた彼は、そのまま二人に歩み寄りながら声を向けた。
「――……何やら、言い争っておるように聞こえたが。何かあったか?」
「……別に。それより、王様は?」
「まだ会議中でな。それが終わるまでは、儂がお主達の話を聞くべきだと思ったまでだ」
二人の前に現れた理由をテクラノスは明かし、そのまま二人が座る
すると改めるように、二人が再訪した理由をテクラノスは問い掛けた。
「それで、
「……
「王を?」
「この世界とは別の未来について、『青』から聞いてるか?」
「聞いておる。それが?」
「どうやら別未来ではウルクルス王が死んでたらしいんだが、それから誕生した子供の一人が
「……お主達が探しているのは、分けられた
「知ってるのか?」
「話だけはな。だが儂が見る限り、ウルクルス王は
「なんで、そう言い切れる?」
「これでも二十年間、
「……ッ」
その確信に満ちた言葉はケイルの表情を渋らせ、比較されたアルトリアには苛立ちの表情を浮かばせた。
しかし二人が再び姿を見せた理由を知り、テクラノスは納得した言葉を見せる。
「だが、なるほど。それでか」
「?」
「先程まで、儂も王達が出席している通信会議に参加していた。そこでガルミッシュ帝国のローゼン公から、ある二人を探すように各国へ依頼があった」
「えっ」
「お兄様が?」
「うむ。その内の一人は、『緑』の
「ログウェルを……?」
「そしてもう一人が、メディアという名の女らしい」
「!」
「普段から偽装を施している、凄腕の魔法師という情報以外は無かったが。その二人らしき者を見つけた場合、公爵まで報告して欲しいという依頼が帝国から出された。……お前達は関わっていないのか?」
「……いや、知らねぇな」
「……」
テクラノスの伝える話について、ケイルは首を傾げる。
しかしアルトリアだけは更に思考を深めるように僅かに顔を沈めると、それに気付いたケイルが呼び掛けた。
「おい、どうした?」
「……メディアっていうのは、多分……私の母親の名前よ」
「えっ」
「
「自分の母親なのにかよ?」
「私が生まれてすぐに蒸発したらしいわ。だから顔も覚えてないし、居ない
すると改めて、
「それよりも、どうして今頃になってお兄様は
「いや、詳しい理由は何も。ただ、お主達と一緒だったエリクがこの二人を探しているようだ」
「エリクが探してるって、どういうこと?」
「お主達がこうして
帝国からの依頼がエリクを理由にしていると聞かされ、アルトリアとケイルは驚きを見せながらも疑問を深める。
そして二人で顔を見合わせながら、状況のすり合わせを始めた。
「……アタシ達が
「でもそれなら、なんでログウェルと
「……アレでも勘が良い奴だからな。
「まさかエリクの方では、ログウェルと
「可能性はあるんじゃねぇか?
「……エリクはエリクで、私達が知らない情報を仕入れてるのかしら。……エリクと合流した方が良さそうね」
「そうだな」
ここに来てエリクが同じ目的で既に動いている事を理解し始めた二人は、改めて合流の必要性を考える。
すると考えるアルトリアに代わり、ケイルがテクラノスに改めて問い掛けた。
「エリクが今、何処にいるか知ってるか?」
「それならば二日ほど前に、
「!?」
「フォウル国に……!?」
「その際には、転移を使える者を連れていたそうだ。確か元闘士の女魔人で、クビアという者だったか」
「クビアって、
「確かそうだな」
「そう……。……私はフォウル国の詳しい座標も、実際に行った経験も無いから、転移魔法で向かうのは無理ね」
「そもそもフォウル国は、
「魔法は無理で、魔術ではなんで行けるのよ?」
「魔法は環境の魔力干渉を
「……そっか。
『魔法』と『魔術』の違いをテクラノスの話で改めて認識したアルトリアは、自身が開発した
しかしその話を聞いていたケイルが、そうした思考へ入るアルトリアを再び引き留めた。
「待てよ。……フォウル国には行かない方がいいかもしれない。特にお前はな」
「え?」
「話だと、フォウル国に居る巫女姫ってのは『黒』を殺すよう命じていた張本人だろ。そんな場所に
「……でも、それならエリクは?」
「アイツは
「……じゃあ、私達はどうするのよ?」
「どうせアタシ等には、向こうが探してる二人の情報は無いんだ。だったらアイツ等が戻った時に、合流し易い場所で待ってようぜ。場所は
「……んん……っ」
ケイルはフォウル国へ向かう危険とエリク達とのすれ違いを避ける為に、自分達の居場所が分かり易い場所で待つ事を提案する。
その提案が至極真っ当である事を理解しているアルトリアだったが、内に抱える焦燥感が完全に同意するのを妨げるように唸る声を呟かせた。
そうした二人の会話を見ていたテクラノスは、特にアルトリアを注視しながら呟く。
「……母親か。……やはり、そうなのか」
「ん? どうしたんだ」
「……儂は恐らく、そのメディアという女を見たことがあるかもしれん」
「!」
「えっ!?」
「儂が
「!」
「その女は小国群では見ぬ風貌で、しかも背中に幼い子供を背負っていた」
「子供を背負ってた……?」
「そういう目立つ者であるが故に、
「!」
「儂はその時の女と、初めて相対した生身のお
「……それから、何かその
「いいや。それが異様な実力者だと儂も理解し、近付く事を恐れた。それから儂はその
「……」
「しかし、奇妙なものだな。犯罪奴隷へ堕ちたはずの儂が、今やマシラ王の相談役を兼ねた宮廷魔法師となっているのだからな。……それもコレも、お前達が
「……何よ、私達のせいって言いたいわけ?」
「少なくとも、儂はお
「……ふんっ」
互いに不敵な笑みを向ける二人は、そうした皮肉にも似た言葉を向け合う。
するとアルトリアは息を零しながら立ち上がり、ケイルを見下ろしながら話した。
「ケイル、行きましょう」
「えっ。いいのかよ? 王様に会わなくて」
「
「!」
「多分、エリク達が探してる二人が本命ね。……ログウェル=バリス=フォン=ガリウス。そして
「じゃあ、
「そうね。……そういえば、グラシウスの用事ってなんだったの? 聞いてないんだけど」
「あっ、そうだ。言い忘れたし渡し忘れてた。――……ほら、コレ」
「えっ。……
「アタシ等まとめて、【特級】傭兵に格上げだとさ。ついでに白金貨で四万枚、各国から
「はぁ? 何よそれ。……まさか
「いや、払ってるらしいぞ」
「はぁっ!? ちょっと、どういう事よ!」
【
すると溜息を零しながら、報酬の件についてテクラノスが説明した。
「王は報酬の件について関与しておらん。
「はぁ? 別に報酬なんか要らないわよ。しかも国庫から出された金なんか、余計に要らないわ」
「報酬の資金自体は、元の元老院達の私財を没収して集めた金だが?」
「それも国民から徴収してた税が元金でしょ。だったら国民の為になる事で使ってやりなさいよ」
「各国が報酬を払っている中、
「あっ、そう。だったらそれ
「お、おいっ!! またかお前――……」
自分達に支払われた報酬が各国の国庫から出された金銭だと理解したアルトリアは、それを全て返却する為に傭兵ギルドへ向かう事を決意する。
そして有無を言わさずにケイルの左肩に右手を乗せた瞬間、二人は声も姿も途切れさせてその場から転移した。
それを見送る形となったテクラノスは、溜息を漏らしながら呟く。
「……相変わらず、慌ただしい者達だな」
「――……会議が終わったぞ。王とゴズヴァール殿が会うそうだ。これから謁見の間に――……あ、あれ?」
「むっ、メルクか」
「先生。……あの二人は?」
「先程、
「なっ!? ……いきなり来ておいて、何も言わずに去るとは。アイツ等、無礼すぎるだろ……!!」
「フッ。まぁ、それも
「は、はい。御願いします、先生」
テクラノスはそうして闘士長であるはずのメルクを諭し、共に客間から出て行く。
師弟の関係である事が見える二人は、仕えるべき
こうしてマシラ王宮に訪れたアルトリア達は、そこでエリク達が同じ目的で動いている可能性を初めて知る。
そして彼等が持って来るであろう情報を頼りにし、二人は傭兵ギルドへ向かったのだった。
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