仲間との別れ
ベルグリンド共和王国に訪れたエリクは、ワーグナーやマチスを含む黒獣傭兵団の面々と再会する。
そんな彼等との宴を終えて一夜を過ぎた翌日、その
不敵な笑みを見せながら向かい合うクラウスに、エリクは奇妙な既視感を感じる。
そしてその傍に立つワーグナーを見て、記憶に残っている出来事を思い出しながら呟いた。
「……そうか。お前は、あの時の……」
「ほぉ、そっちは覚えていたようだな」
「やはり、そうなのか」
「……なんだ、お前等。どっかで会ったことあんのか?」
見覚えを感じているエリクの言動に、クラウスは応じるように答える。
そんな二人のやり取りを聞いていたワーグナーは首を傾げると、
「俺達が、初めて戦争の報酬を貰った後。買い物をしただろう」
「……あぁ、なんかうろ覚えだが……そんなことあったな」
「その時に、お前と喧嘩した男だ。ワーグナー」
「えっ、俺と? ――……あぁ……はあぁっ!? ちょっと待て。ってことは……あん時の貴族の坊ちゃんがコイツかよっ!?」
「やっと思い出したか」
「なんで帝国の
「あの時も言っただろう、各地を旅して回っていたのだ。兄上と一緒に、師匠とな」
「兄上って……じゃあ、あの時のが帝国皇帝だったのかよっ!?」
「当時は皇子だったがな。旅を終えた帰り道に、王国に寄っただけだ」
霞んでいた記憶を呼び覚ましたワーグナーは、改めて目の前に居るクラウスが過去に殴り合った少年だと理解する。
そんな二人が昔話を交わす中、エリクは改めてクラウスの訪問理由を問い掛けた。
「俺に会いに来た理由は、なんだ?」
「む? あぁ、そうだったな。……娘を
「たぶらかす?」
「おいおい……」
「ふっ、冗談だ。――……既に
「!」
「特にエリク。お前はこの国が故郷でもあるし、
「?」
「黒獣傭兵団の団長エリクを、
「……使徒……聖人認定?」
聞き慣れた単語ながらも意味が分からない言葉に、エリクは首を傾げる。
するとクラウスも肩を軽く上げながら、その事について説明した。
「黒獣傭兵団が、両国を行き来する使節団となっている話は聞いているか?」
「ああ」
「三年前の事態でも、黒獣傭兵団は
「そうなのか? ワーグナー」
「いや、勝手に
「その
「ミネルヴァの、後継?」
「つまり、『
「!!」
「エリクが、
「その為に使徒の儀、つまり『
「……どうすると、言われてもな……」
いきなり『
現教皇であるファルネとエリクは、旧王国で知り合ってから十年に近い付き合いがある。
しかし
そんなエリクに対して、腕を組んだクラウスが問い掛ける。
「なんだ、
「……俺は、まだやることがある」
「やること?」
「まだ、世界の危機は終わってないかもしれない」
「……どういう事だ?」
「アリアが、まだ何か問題を残している様子だった。俺はそれを解決する為に、付いていくつもりだ」
「アルトリアが。……ふむ、そうか。……なら先程の話、私が断りを
「断っていいのか?」
「まだ
「そ、そうか」
「元々、
そう言いながらエリクに用件を伝え終えたクラウスは、自らの足で部屋から出て行こうとする。
するとエリクは何かを想い、彼の足を止めるように呼び掛けた。
「お前は、帝国に戻らないのか?」
「私は既に死んだはずの人間だ。そんな人間が
「……自分の娘と、アリアとは会わないのか?」
「四年前に顔は会わせた。……それに
娘アルトリアとの確執を自覚している父クラウスは、帰還した彼女との再会を望まない様子を見せる。
するとエリクは何かを思い、アリアに関するあの出来事を話した。
「……俺達がマシラに行った時に、
「!」
「
「……アルトリアが……。……そうか。……改めて感謝しよう、エリク」
マシラ共和国で起きたアリアの事を教えるエリクに、クラウスは改めて感謝を伝える。
そして背中を見せながら部屋を立ち去り、再び帽子を被って
そんな
「……そろそろ、帝国に戻る」
「もう行くのか?」
「ああ。……ケイルがアリアを見ててくれているが、出来るだけ目を離したくない」
「そっか」
「すまん。使節団の話は、誰か代わりの者を探してくれ」
「分かってるよ。
「ああ、頼む」
エリクはその日の朝に帝国へ戻る事を決め、身支度を整える。
そして昼前には王都郊外へ着陸している
するとワーグナーが腕に抱え持つ黒い布を、エリクに渡す。
「――……エリク。これ」
「これは……団の
「ああ、新品だぜ。持って行けよ」
「だが、俺は……」
「お前は今も昔も、
「!」
「俺達の、そしてガルドの親っさんが背負った
「……分かった」
渡された
そして黒の布地に栄える白い糸で縫われた獣の顔が浮かび上がる
その姿に団員達は満足した様子を見せ、笑顔を向けながら声を掛けていく。
「団長、いってらっしゃい!」
「気を付けてくださいね!」
「土産物でも土産話でも、なんでも良いんで持って帰ってください!」
「
「……エリクの旦那、元気で」
「じゃあな、エリク。あの嬢ちゃんやケイルにも、よろしくな」
「ああ、行って来る」
マチスや団員達と改めて別れの挨拶を交わし、エリクはワーグナーと右手で厚い握手を交わす。
そしてエリクは
それから四時間後、僅かに昼を超えた時刻にエリクを乗せた
しかしそこで待っていたのは、エリクの悪い予想と同じ状況だった。
「――……アリアが居ないっ!?」
「はい。貴方が出立した
「ケイルはっ!?」
「ケイティル殿も、姿が見えません。恐らく前回と同様に、アルトリアの転移魔法で何処かに移動したのではないかと思います」
「……アリア、ケイル……。どうして……っ」
出迎えたローゼン公セルジアスの言葉により、アルトリアとケイルの姿が屋敷や首都で見えなくなった事を伝えられる。
一日も経たずに姿を眩ませた
こうしてベルグリンド共和王国で懐かしき仲間達と顔を会わせたエリクだったが、事態は次の問題へ移る。
それに先んじて動くアルトリアとケイルは、たった二人で別行動を始めていた。
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