集う欠片
『
そしてその
すると会話の中で、
それを聞いたエリクはそれについて愚直に謝り、その経緯についてアルトリアやケイルの言葉を借りながら『白』に現世で起こっていた事態を教える流れとなった。
彼等からその話を聞き終えた『白』は、椅子に座りながら両足を重ね組んだ姿勢で
『――……なるほどねぇ。
「……方法は俺達が考えた。止められたのは、アリアのおかげだ」
『ふむ、流石は
「……
『白』の話す内容に聞き慣れない言葉があり、アルトリア以外の全員が首を傾げる。
すると『白』は再び紅茶を注ぎ直した茶器を口部分に運びながら、それについて説明し始めた。
『アレ、聞いてない?
「一つの魂を、七つに……」
「アリアお姉さんでも二つだったのに、凄いね?」
それを聞いたエリクとマギルスは、互いに単純な驚きを浮かべてしまう。
しかしそれを聞いたケイルが、『白』が最初に述べていた自分やアルトリアに対する言葉を思い出しながら問い掛けた。
「……アンタさっき、
『そうそう、君も
「!?」
「俺も……!?」
「……正確には、鬼神フォウルが
ケイルとエリクも
しかし諦めるように溜息を零したアルトリアは、『黒』から聞いたその話を改めて伝えた。
すると訝し気な視線を向けるケイルが、改めてアルトリアへ問い掛ける。
「お前、知ってたのかよ。どうして黙ってた?」
「アンタが認めたくないでしょ。だから余計な事だと思って、言わなかったのよ」
「チッ。……でも、それだと変だろ。アタシやエリクも
『んー。それは単純に、
「力不足……?」
『
「!!」
『魂に因る肉体の変質もあるみたいだが、この中だとエリク君とアリア君が
「……俺は、親のことを知らない。爺さんに拾われて育てられた」
「私やケイルは、『赤』の血筋だったルクソード皇族の血が継いでる事以外は……」
『あぁ、ルクソード。彼の血を継いでるなら、
「そうなの?」
『だってルクソードは、
「欠片の濃さ……?」
『何百万年にも渡って、
「……つまりアリアも、欠片ってのに適合してたから
『そうだと思うよ。……しかし驚いたな。
「え……」
『
「……どういう事だよ?」
『だって
「!?」
『言わば、魂が元々の一つに戻りたいという衝動的な本能だよ。それによって欠片同士は出会うと殺し合い、互いが持つ
「……なんだよ、それ……。……アリア、それも知ってたのか?」
「殺し合ってたというのは聞いたけど……それは知らない、初耳よ……」
すると一息を吐くように紅茶を飲み終えた『白』は、腕を組みながら改めて
『だから凄いんだよ。
「……ッ」
『私が死んだ五百年前だけど、丁度その
「!?」
『だから私は狙われ、殺された。私が死ぬ前にも、その欠片を持つと思しき者達が次々と殺されていたと黒に聞いている。確かエリク君に宿ってる鬼神フォウルも、その一人だったと思うけど?』
「!!」
「……そうなのか? フォウル」
『――……チッ、余計な事を言いやがって……』
五百年前の天変地異が起きる前後で、
その一人である鬼神フォウルの精神にエリクが問い掛けると、それを肯定するような悪態が漏れた。
すると『白』は、懐かしむような声を漏らす。
『君達が殺し合わずに済んだのも、彼女のおかげかな』
「彼女?」
『言っただろ、ここに客人が来るのは珍しいって。実は随分前にも、一人だけ自力で辿り着いた子がいるんだ。その子が、
「!?」
「それが、アンタを殺した相手だったのか?」
『いいや。彼女は私達を殺して
「!」
「……じゃあ、五百年前の天変地異を止めたのが……」
『彼女だね、でもそれだけじゃない。彼女が現世と輪廻に生じていた致命的な歪みを全て修正し、生者と死者の両方を分け隔てなく救済した。……自分の存在そのものを、代償にしてね』
「……!!」
『その時、彼女の中に留まっていた欠片が再び七つに別れて、六つは再び輪廻へ散った。そしてその欠片は、再び現世に生まれる者達に宿った。……それが、君達が仲良くしていられる理由ではないかと私は考えているわけだ』
「それが理由……?」
『彼女だけが
「……」
彼等は五百年前に世界を救った女性の詳細とその後を、初めて『白』から聞く。
それはアルトリアと同様に自分を犠牲にし、この世界にいる者達を救ったという話だった。
他人事に思えぬその話と女性の結末に、三人は表情を僅かに曇らせる。
しかし今まで御菓子を頬張りながら話を聞いていたマギルスが、それを飲み物で流し終えながら『白』に問い掛けた。
「――……ねぇねぇ、六つだけ欠片が
『あぁ、彼女が今でも持ってるよ。
「!?」
「えっ、はぁ!? いや、だってさっき……欠片が散ったとか、存在そのものを代償にしたって……!」
『そうだよ。……彼女がこの世界に居たという記憶。そういう
「!?」
『だから、生きてはいるんだよ。……ただ彼女がどういう人物で、どうして全てを救いたいと願ったのかなんて、私や黒以外は覚えていないかもしれないけど』
「……じゃあ、その女は何処に……?」
『だから現世のどこかに居るはずだよ、私が
そう述べた『白』は、そこで話を区切るように立ち上がる。
それを視線で追う四人に対して、彼は歩きながら話を再開した。
『そうだ。君達、
「頼み?」
『彼女に届けてほしいモノがあるんだ。もし彼女に会ったら、渡してくれ』
「……何処にいるかも分からない相手にか?」
『それもそうだけどね。一応、どこら辺に戻したかは把握してるよ? 確か、魔大陸だったかな』
「!」
『彼女が育ったのは魔大陸らしくてね。だから大事な人達がいる
「……その、村っていうのは?」
『ええっと、確か――……そうそう、ヴェルズ村だったかな』
「ヴェルズ村……」
そう言いながら右手を虚空に伸ばした『白』は、その先に小さな扉を出現させる。
そしてその中から何かを取り出そうとしている最中、エリクの思考に鬼神フォウルの愚痴が再び零れた。
『あの村かよ……』
「……知っている場所なのか?」
『なら、その女ってのは……あの嬢ちゃんか……』
「知っているのか、その女の事も?」
「!」
『……』
一見すれば独り言のように呟くエリクに、他の三人は気付きながら視線を振り向かせる。
しかし何か心当たりがあるフォウルは黙ってしまい、『白』は取り出したモノを右手に持ちながら再び椅子に戻って来た。
そして右手に持つそれを机に置くと、彼等にもそれを見せる。
するとそこには、仄かに光が宿る白く小さな
『これを、彼女に返して来て欲しい。それが私からの頼みだ』
「……これは?」
『彼女の記憶だよ』
「!?」
『言っただろ。彼女は自分に関係する全ての人々の記憶から、自分を消してしまったんだ。だからきっと、自分からも自分の記憶や意識を消してしまっている。そして今も、目覚めていないと思うんだよ。……そんな彼女を目覚めさせる為に、必要な記憶を集めておいた』
「……記憶が無くなったのに、集められたのか?」
『確かに、世界中から彼女は忘れられた。でもね、彼女を思う
「……!!」
『私はその
「……そんな大事なモノを、俺達に託していいのか?」
『だって、他に頼める人も来ないし。集めたはいいけど、ずっと収納しているだけだったから』
「……」
『どうだろう、頼まれてくれる? その報酬として、君達がやったことは咎めないし、希望通りの
交換条件として現世に戻す事を約束する『白』に、全員が互いの顔を見合わせる。
そして全員が決意した視線を重ねた後、互いに『白』の方へ顔を向けながら頷き答えた。
「やるわ」
「やろう」
「そういう条件なら、やるしかないだろ」
「他の
『そうか、ありがとう』
四人が承諾する姿を見て、『白』は素直に感謝を伝える。
そして机上で白い結晶を滑らせながら渡すと、それを受け取るアルトリアは不思議そうに尋ねた。
「一つ、聞きたいんだけど」
『ん?』
「そうまでして、
『ふむ、それはあるな。何せ彼女は、私の母上と同じような存在だし』
「……えっ、待って。……なんで母親?」
『だって私は、
「……は?」
『ん? 何か変なことを言ったか?』
その問い掛けに答えた『白』によって、再び思わぬ情報が飛び出てしまう。
それは全員の表情や思考を瞬時に硬直させ、更に
こうして『白』から様々な情報を得られた一行は、彼の頼まれ事を引き受け現世へ戻ることが可能となる。
しかし『白』が
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