集う欠片


 『虚無』と呼ばれる世界を通じて、惑星エデンの管理施設ステーションと呼ばれる場所にアルトリア達は辿り着く。

 そしてその管理施設ステーションの管理人を名乗る『白』の七大聖人セブンスワンと出会い、その施設や彼自身について教えられた。


 すると会話の中で、循環機構システムを騙した事で世界の破壊を防ぐ為に成功した反面、死者の魂達が集う輪廻も崩壊しそうだった事が告げられる。

 それを聞いたエリクはそれについて愚直に謝り、その経緯についてアルトリアやケイルの言葉を借りながら『白』に現世で起こっていた事態を教える流れとなった。


 彼等からその話を聞き終えた『白』は、椅子に座りながら両足を重ね組んだ姿勢で念話テレパシーの言葉を発する。


『――……なるほどねぇ。創造神オリジンの意思を模倣した循環機構システムに因る、世界の破壊かぁ。……よく止められたね、君達だけで』


「……方法は俺達が考えた。止められたのは、アリアのおかげだ」


『ふむ、流石は創造神オリジンの欠片だ。しかし一つしかない欠片の権能ちからだけで、よくやったものだよ』


「……創造神オリジンの欠片?」


 『白』の話す内容に聞き慣れない言葉があり、アルトリア以外の全員が首を傾げる。

 すると『白』は再び紅茶を注ぎ直した茶器を口部分に運びながら、それについて説明し始めた。


『アレ、聞いてない? 創造神オリジンが死んだ後、その死体に留まっていた魂は七つに砕かれたんだ。そしてその欠片達が、それぞれに適合する魂に宿り現世で生まれる。それを私や黒は、創造神オリジンの欠片と呼んでいる』


「一つの魂を、七つに……」


「アリアお姉さんでも二つだったのに、凄いね?」


 それを聞いたエリクとマギルスは、互いに単純な驚きを浮かべてしまう。

 しかしそれを聞いたケイルが、『白』が最初に述べていた自分やアルトリアに対する言葉を思い出しながら問い掛けた。


「……アンタさっき、アリアコイツだけじゃなくてアタシの事も創造神の欠片って呼んでたよな? まさか……」


『そうそう、君も創造神オリジンの欠片でしょ。ついでに、そっちのエリク君だっけ? 君もそうじゃない?』


「!?」


「俺も……!?」


「……正確には、鬼神フォウルが創造神オリジンの欠片なんですって。だからその魂の生まれ変わりでもあるエリクも欠片そうだと、くろが言ってたわ」


 ケイルとエリクも創造神オリジンの欠片であると話す『白』に、二人は思わず動揺を浮かべる。

 しかし諦めるように溜息を零したアルトリアは、『黒』から聞いたその話を改めて伝えた。


 すると訝し気な視線を向けるケイルが、改めてアルトリアへ問い掛ける。


「お前、知ってたのかよ。どうして黙ってた?」


「アンタが認めたくないでしょ。だから余計な事だと思って、言わなかったのよ」


「チッ。……でも、それだと変だろ。アタシやエリクも創造神オリジンの生まれ変わりだってんなら、アリアと同じ能力があるはずだし、黒の身体そいつに触れたら何かしら起こるんじゃないのか? 少なくともアタシは、今までそんなこと出来た試しが無いぞ」


『んー。それは単純に、権能ちから不足だからかな』


「力不足……?」


創造神オリジンの欠片を持つ者が権能ちからを発現させる条件には、幾つかあってね。例えば最も発現させ易い条件の一つに、その人物の血筋に黒の……つまり創造神オリジンの遺伝子が色濃く混ざっている必要がある』


「!!」


『魂に因る肉体の変質もあるみたいだが、この中だとエリク君とアリア君が創造神オリジンの遺伝子を最も色濃く受け継いでいる。君達の家系に黒の転生体がいたり、その遺伝子を色濃く継ぐ者がいたりしなかった?』


「……俺は、親のことを知らない。爺さんに拾われて育てられた」


「私やケイルは、『赤』の血筋だったルクソード皇族の血が継いでる事以外は……」


『あぁ、ルクソード。彼の血を継いでるなら、権能ちからを発現させる確率は高いかもね』


「そうなの?」


『だってルクソードは、創造神オリジンの血を分けられて到達者エンドレスになった【の一族】の末裔だし。ただ同じルクソードの血筋で発現に差異がある原因は、欠片としての濃さもあるんじゃないかな』


「欠片の濃さ……?」


『何百万年にも渡って、創造神オリジンの欠片も転生し続けたからね。その中で欠片に含まれていた創造神オリジン権能ちからが弱まって、発現できない個体もいるんだよ。あるいは創造神オリジンの因子に最も適した身体に欠片が宿ったことで、逆に弱まった権能ちからを強めた事例もあるし』


「……つまりアリアも、欠片ってのに適合してたから権能ちからを生まれた頃から使えたと?」


『そうだと思うよ。……しかし驚いたな。創造神オリジンの欠片同士がこんなに仲良くしてるの、私は初めて見たよ』


「え……」


創造神オリジンの欠片を持つ者って、大体の場合で殺し合うんだよね。黒はそれを創造神オリジンの自殺願望から来る自己否定だと言っていたけど、私から言わせると単純に魂の本能だと思ってるんだ』


「……どういう事だよ?」


『だって創造神オリジンの欠片同士が殺し合うと、その欠片が殺した欠片に吸収されて一つになるから』


「!?」


『言わば、魂が元々の一つに戻りたいという衝動的な本能だよ。それによって欠片同士は出会うと殺し合い、互いが持つ権能ちからを吸収し、より強い権能ちからを……つまり本物の創造神オリジンに最も近い権能ちからを発現できるようになる。だから昔は、それで欠片同士がよく殺し合って権能ちからを得ようとしてたんだ。まぁ、集めた者が死ねば再び欠片は砕けて散ってしまうけれど……これも知らなかったようだね?』


「……なんだよ、それ……。……アリア、それも知ってたのか?」


「殺し合ってたというのは聞いたけど……それは知らない、初耳よ……」


 創造神オリジンの欠片を継いだ者達が殺し合った事を『黒』から聞いていたアルトリアだったが、その理由が感情的なモノだけではなく、より強い権能ちからを得るという確かな利害があった事を知る。

 すると一息を吐くように紅茶を飲み終えた『白』は、腕を組みながら改めて創造神オリジンの欠片である三人に話し掛けた。


『だから凄いんだよ。創造神オリジンの欠片同士が殺し合わずに共に行動しているのは。だから君達は、本当に興味深い。黒が色々と手助けしたくなるのも納得だ』


「……ッ」


『私が死んだ五百年前だけど、丁度その欠片争奪戦たたかいが激しかった時期でね。当時の私が宿った転生体の魂にも、実は創造神オリジンの欠片が宿っていた』


「!?」


『だから私は狙われ、殺された。私が死ぬ前にも、その欠片を持つと思しき者達が次々と殺されていたと黒に聞いている。確かエリク君に宿ってる鬼神フォウルも、その一人だったと思うけど?』


「!!」


「……そうなのか? フォウル」


『――……チッ、余計な事を言いやがって……』


 五百年前の天変地異が起きる前後で、創造神オリジンの欠片を持つ者達が殺されていた話が語られる。

 その一人である鬼神フォウルの精神にエリクが問い掛けると、それを肯定するような悪態が漏れた。


 すると『白』は、懐かしむような声を漏らす。


『君達が殺し合わずに済んだのも、彼女のおかげかな』


「彼女?」


『言っただろ、ここに客人が来るのは珍しいって。実は随分前にも、一人だけ自力で辿り着いた子がいるんだ。その子が、創造神オリジンの欠片を全て集めた子だった』


「!?」


「それが、アンタを殺した相手だったのか?」


『いいや。彼女は私達を殺して欠片それを集めていた者を倒し、全ての創造神オリジンの欠片を吸収したんだ。だから創造神オリジン権能ちからも、全て扱えるようになっていた』


「!」


「……じゃあ、五百年前の天変地異を止めたのが……」


『彼女だね、でもそれだけじゃない。彼女が現世と輪廻に生じていた致命的な歪みを全て修正し、生者と死者の両方を分け隔てなく救済した。……自分の存在そのものを、代償にしてね』


「……!!」


『その時、彼女の中に留まっていた欠片が再び七つに別れて、六つは再び輪廻へ散った。そしてその欠片は、再び現世に生まれる者達に宿った。……それが、君達が仲良くしていられる理由ではないかと私は考えているわけだ』


「それが理由……?」


『彼女だけが創造神オリジンの欠片を全て集め、一つの意思に統合させた存在だ。今まで長く殺し合った欠片の宿主が次世代で和解できている理由が、彼女の意志に影響されているからだろう。……彼女はそういう意味でも、創造神オリジンの心も救ったと言えるかもしれない』


「……」


 彼等は五百年前に世界を救った女性の詳細とその後を、初めて『白』から聞く。

 それはアルトリアと同様に自分を犠牲にし、この世界にいる者達を救ったという話だった。


 他人事に思えぬその話と女性の結末に、三人は表情を僅かに曇らせる。

 しかし今まで御菓子を頬張りながら話を聞いていたマギルスが、それを飲み物で流し終えながら『白』に問い掛けた。


「――……ねぇねぇ、六つだけ欠片が輪廻あのよに行ったんだよね? その女の人が持ってた欠片はどうなったの?」


『あぁ、彼女が今でも持ってるよ。現世むこうで生きてるはずだし』


「!?」


「えっ、はぁ!? いや、だってさっき……欠片が散ったとか、存在そのものを代償にしたって……!」


『そうだよ。……彼女がこの世界に居たという記憶。そういう存在モノを、彼女は全て代償として差し出したんだ』


「!?」


『だから、生きてはいるんだよ。……ただ彼女がどういう人物で、どうして全てを救いたいと願ったのかなんて、私や黒以外は覚えていないかもしれないけど』


「……じゃあ、その女は何処に……?」


『だから現世のどこかに居るはずだよ、私が現世むこうへ送り戻したし。……でも誰も彼女を覚えていない世界で、その後はどうなったのか。私にも分からないな』


 そう述べた『白』は、そこで話を区切るように立ち上がる。

 それを視線で追う四人に対して、彼は歩きながら話を再開した。


『そうだ。君達、現世むこうに戻りたいんだろう? だったら一つ、頼みたい事があるんだ』


「頼み?」


『彼女に届けてほしいモノがあるんだ。もし彼女に会ったら、渡してくれ』


「……何処にいるかも分からない相手にか?」


『それもそうだけどね。一応、どこら辺に戻したかは把握してるよ? 確か、魔大陸だったかな』


「!」


『彼女が育ったのは魔大陸らしくてね。だから大事な人達がいる故郷の村に帰りたいと、最後に言っていたから』


「……その、村っていうのは?」


『ええっと、確か――……そうそう、ヴェルズ村だったかな』


「ヴェルズ村……」


 そう言いながら右手を虚空に伸ばした『白』は、その先に小さな扉を出現させる。

 そしてその中から何かを取り出そうとしている最中、エリクの思考に鬼神フォウルの愚痴が再び零れた。


『あの村かよ……』


「……知っている場所なのか?」


『なら、その女ってのは……あの嬢ちゃんか……』


「知っているのか、その女の事も?」


「!」


『……』


 一見すれば独り言のように呟くエリクに、他の三人は気付きながら視線を振り向かせる。

 しかし何か心当たりがあるフォウルは黙ってしまい、『白』は取り出したモノを右手に持ちながら再び椅子に戻って来た。


 そして右手に持つそれを机に置くと、彼等にもそれを見せる。

 するとそこには、仄かに光が宿る白く小さな結晶クリスタルだった。


『これを、彼女に返して来て欲しい。それが私からの頼みだ』


「……これは?」


『彼女の記憶だよ』


「!?」


『言っただろ。彼女は自分に関係する全ての人々の記憶から、自分を消してしまったんだ。だからきっと、自分からも自分の記憶や意識を消してしまっている。そして今も、目覚めていないと思うんだよ。……そんな彼女を目覚めさせる為に、必要な記憶を集めておいた』


「……記憶が無くなったのに、集められたのか?」


『確かに、世界中から彼女は忘れられた。でもね、彼女を思う感情きもちは世界に残っているんだよ』


「……!!」


『私はその感情おもいを、輪廻に赴き浄化されていく魂達から集めた。そして断片的にだけど、彼女に関する感情おもいを記憶として再構成したんだ。……それがこの、五百年分の結晶さ』


「……そんな大事なモノを、俺達に託していいのか?」


『だって、他に頼める人も来ないし。集めたはいいけど、ずっと収納しているだけだったから』


「……」


『どうだろう、頼まれてくれる? その報酬として、君達がやったことは咎めないし、希望通りの現世ばしょに戻すつもりだ。どうかな?』


 交換条件として現世に戻す事を約束する『白』に、全員が互いの顔を見合わせる。

 そして全員が決意した視線を重ねた後、互いに『白』の方へ顔を向けながら頷き答えた。


「やるわ」


「やろう」


「そういう条件なら、やるしかないだろ」


「他の魔大陸ばしょも行ってみたいし、やる!」


『そうか、ありがとう』


 四人が承諾する姿を見て、『白』は素直に感謝を伝える。

 そして机上で白い結晶を滑らせながら渡すと、それを受け取るアルトリアは不思議そうに尋ねた。


「一つ、聞きたいんだけど」


『ん?』


「そうまでして、彼女そのひとを助けたい理由が貴方にはあるの? ……その彼女ひとに、何か特別な思いが?」


『ふむ、それはあるな。何せ彼女は、私の母上と同じような存在だし』


「……えっ、待って。……なんで母親?」


『だって私は、創造神オリジンから生まれたからな。その欠片を宿す彼女や君達は、言わば親と同一の存在だろう?』


「……は?」


『ん? 何か変なことを言ったか?』


 その問い掛けに答えた『白』によって、再び思わぬ情報が飛び出てしまう。

 それは全員の表情や思考を瞬時に硬直させ、更に創造神オリジンの記憶を視たというアルトリアすらも知らずに呆気を浮かべる程の驚愕を与えた。


 こうして『白』から様々な情報を得られた一行は、彼の頼まれ事を引き受け現世へ戻ることが可能となる。

 しかし『白』が創造神オリジンの息子であると知った各々は、とても口では言い表せぬ心境を抱く事になった。

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