二人の最前線
ウォーリスの精神と対峙したエリクと鬼神フォウルは、彼が魅せる
それは悲しき出来事で成り立つ世界の根底を崩す為に、生命に必要な『肉体』と『精神』を奪い、『魂』だけの存在にするという強硬手段だった。
その手段を否定するエリクは、改めてウォーリスを対峙すべき『敵』だと認識する。
それを互いに了承し終えると、フォウルの
自分の
そうした最中、突如として精神内部に黄金色の光が出現し、それが未来に出会った
その制約のアリアと言葉を交わし始めるエリクは、驚愕を浮かべながら問い掛ける。
「どうして君が、また俺の
『……未来の事は、覚えてるわよね?』
「ああ」
『貴方が生き返った時に、貴方に書かせた魔法陣。アレによって築かれた貴方と私の
「……そうか、あの時の……!」
再び自分の
それは未来の戦いにおいて、エリクが殺された時。
『黒』の
その直後に
その時にエリクがしたのは、頼まれた魔法陣を描いて近くに置いてあった黒い人形とアリアの
すると人形はアリアの依り代となって動き出し、最後の戦いにおいて多大な活躍を見せた。
更にその後、崩れ散る
それを利用し死霊術で動く
そこで築かれていたエリクとアリアの制約の
すると納得と同時に疑問を抱き、エリクは目の前のアリアに改めて問い掛けた。
「……だが、君はあの時に死んで……。それで、俺との制約は無くなったんじゃないのか?」
『未来で私が死んだ時に一時的に断絶したけど、
「そうなのか。……だが、その言い方は……君は未来の、あの時のアリアなんだな?」
『……』
「やはり君も、クロエに選ばれて……。……そして、君の
エリクは改めて目の前のアリアが未来の出来事を知っている相手だと知り、確信に近い事を問い掛ける。
それに対して表情を渋らせるアリアは、顔を背けながら別の事を口に出し始めた。
『そんな事よりも、今はこの
「……アリア。君は、
『……』
「君は、何も悪くない……とは、言えないかもしれない。……それでも、あんな未来になったのは、君のせいじゃない」
『……どう取り繕っても、私がやった事に変わりはないわ。私は未来でウォーリス達以上の人間を殺したのは、紛れも無い事実なんだから』
「……だが、その未来は無くなって、こうして……!」
『同じことよ。……私は
「!」
『もう二度と、あんな未来を私に起こさせない。……その為だけに、私は今まで動いていたのよ』
そう告げるアリアの言葉に、エリクは表情を強張らせる。
自分達がそれぞれにあの未来を防ごうとしていたのと同じように、『青』に協力していたアリアもまた飛空艇や魔導人形の技術を提供し未来の出来事を防ごうとしていた。
そうした行動を理解できながらも、それを贖罪として罪滅ぼしのように行動するアリアの本心に、エリクは自身の本音を伝える。
「それでもいい。……君とまた、こうして会えるだけで。俺は嬉しい」
『……相変わらずね。貴方って』
「君は、嬉しくないのか?」
『……正直、貴方達とは会いたくなかった。事が上手く進んだら、こっそり消えようと思ってたくらいだし』
「!」
『でも、そうも行かなくなってね。……この状況だと、貴方の手を借りるしかないと思ったのよ』
「この状況……。……そうだ。ウォーリスが、マナの樹を支配して……」
『そう。
「輪廻と同じ状況……。……その影響を受け続けると、輪廻と同じように……記憶や人格、そして魂が浄化されてしまうのか?」
『そういうこと』
「確か
『その点も不明。でも私がウォーリスだったら、その辺も
「!!」
『そうなる前に、私達でマナの樹を掌握して
改めて状況を説明したアリアの言葉を聞き、エリクは現実世界が危機的状況である事を把握する。
そして頼まれながら協力を申し込まれると、悩む様子も無いまま素直に頷いて見せた。
「分かった。今度こそ、一緒にやろう」
『……ありがとう』
「だが、どうやって現実に戻れる? 君が戻せるのか?」
『ええ。現実の貴方まで、私が精神を導くわ。今だったら、あの
「そうか。……ん? 君はもしかして、俺の近くに居るのか?」
『ええ。……あぁ、そうか。言ってなかったわね。私、今は自分の体に戻ってるのよ』
「自分の身体……。……まさか、あの死体にっ!?」
『ウォーリスに捕まった私を取り戻そうとした時に、少し
「……だ、だが。それなら、君は死んでいるんじゃ……?」
『何言ってるのよ。元々、私は死人でしょ?』
「!」
『死人の魂が、死人の中に入ってただけ。だから肉体が死んでようとうが生きてようが、
「……そして、
『流石に、魂の拠り所である
「……!!」
アリアが心臓を抜き取られてからも肉体を修復させていた事を知り、エリクは驚愕を浮かべる。
そして気恥ずかしそうに顔を背けながらエリクが泣く姿も見ていた事を明かすと、溜息を漏らした。
そんなアリアに、エリクは改めて湧き出した疑問を口にする。
「なら、君の身体は生き返るのか?」
『言ったでしょ、今の私は死体を動かしてるだけ。未来の
「そ、そうか。……なら、
『生き返らないわね。逆に死体に生きた魂を入れたら、魂の方が死んで輪廻に向かっちゃうわ』
「ならやはり、マナの実を食べさせるしか君を生き返らせる術は無いのか」
『まぁ、そういう事ね。ただ今は食べないわ。今は死体の方が都合がいいし、食べるにしても
「……なら、その後は……君はどうする?」
『私は、私自身が還るべき場所に向かうだけ。……分かるでしょ?』
「……ッ」
『あの時、私はクロエのせいで
「……ああ。……分かった」
自分が逝くべき場所を話すアリアに、エリクは強張らせた表情を俯かせる。
しかし顔を上げてその事を受け入れたエリクに、アリアは微笑みを向けた。
そんな二人の会話に、右肘と手を枕にしながら寝るフォウルが呼び掛ける。
「おいっ、話が終わったんならさっさと行け。うるせぇぞ」
『何よ、アンタも不愛想なのは変わらずね。もっと愛嬌くらい出しなさいよ』
「そんなモンは、女だけが振り撒きゃいいんだよ」
『嫌な言い方するわ。――……じゃあ、私の
「ああ。――……助けてくれて感謝する、フォウル」
「フンッ」
悪態を漏らしながらも左手を扇ぐフォウルを横目に、エリクは僅かに口元を微笑ませる。
そして小さなアリアの身体に触れ、彼女が放つ黄金色の光を自分も纏い始めた。
次の瞬間、エリクの意識が加速させる。
すると暗転する視界に光が灯り、現実世界のエリクが瞼を開けながら意識を戻した。
「――……ぅ……っ」
「目覚めはどう? エリク」
「……ああ。……悪くは、ない……」
目覚めたエリクは瞼を開けると、その真横に座る血に塗れた赤い
その隣には
そして結界の外には、景色全てを赤に染める光が放出されている。
白髪から灰色の髪色に戻り始めているエリクは、上体を起こしながら周囲の光景を改めて見た。
「……この赤い光が、そうなのか?」
「ええ。……そしてあの光を出してるのが、マナの樹よ」
「……俺は、どうすればいい?」
「今回は、前回みたいな手段は駄目だって事を言っておくわ」
「?」
「あの光を放出してるマナの樹を破壊するのは駄目ってこと。あの樹が壊れたら、世界が本当の意味で壊れちゃうから」
「……分かった。なら、他の手段は?」
「私に考えがあるわ。貴方はそれを手伝ってくれるだけでいい」
「何をする気なんだ?」
「言ったでしょ。ウォーリスから、マナの樹を奪い返すのよ。――……私がね」
「!」
白い肌ながらも不敵な笑みを見せるアリアは、そう言いながら立ち上がる。
そしてマナの樹に視線を向けながら、その
こうして現実世界に戻ったエリクは、再びアリアと共闘する。
しかしそれは、まさに博打とも言うべき解決方法でもあった。
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