理想の浸蝕
しかしその
それは在り得たかもしれない景色であり、誰もが一度は望む
その一人であるケイルは、幸福の
そして同じように、赤い光に飲み込まれた者達は別の
「――……おとうさん!」
「……え……?」
意識を戻したゴズヴァールは、自分の足に抱き着く一人の子供を見る。
それは彼が過去に亡くした子供であり、その姿は最後に出会った時の姿のままだった。
そして周囲を見渡しながら、そこが
更に子供の外にも、もう一人の人物が歩きながら近付いて来る事に気付いた。
「――……あなた。今日は、戦士の御勤めは御休みですか?」
「……サラ、なのか……?」
「え?」
驚愕しながら表情を強張らせるゴズヴァールに、
妻サラは人間の姿に寄った獣族の魔人であり、彼自身の記憶と変わらぬ人間の容姿をしていた。
それでも突如として再会する家族に困惑するゴズヴァールだったが、足にしがみつく子供がせがむように声を向けて来る。
「お休みなら、おとうさん遊ぼう!」
「……!」
「あらあら。……あなた、この子と久し振り遊んであげてください」
「だ、だが……」
「あなたが
「……!!」
悲し気に微笑む
それは過去において、確かに
そして今の状況が、自分の知る過去と酷似している事をゴズヴァールは理解する。
しかしそれが夢なのか現実なのかを定かに出来ず、困惑した様子を浮かべたゴズヴァールは無意識に屈みながら自分の子供を抱き寄せた。
そこで子供の温もりを実際に確認したゴズヴァールは、動揺した面持ちながらも噛み締めるように言葉を呟く。
「……アピス……なんだな……?」
「うん!」
「……すまない……。……私は、自分の事ばかりで……お前に、そしてお前達に……目を向けられなくて……」
「?」
「私は、良い父親ではなかった……。……すまない、すまない……っ!!」
現実か夢かも分からぬ中で、ゴズヴァールは子供を抱き締めてる。
その口からは家族らしい事を何一つとしてしなかった自分自身の愚かさと、その事を懺悔する言葉が語られた。
そんなゴズヴァールの背中を手で触れる
「もう、いいんですよ。……これから、私達の事を見ていてくださいね」
「……サラ……」
「おとうさん、大好き!」
「……あぁ……。……私も、お前達を愛している……」
二度と得られぬと思っていた
そして意識の中で隔てていた強い違和感が薄くなり、目の前の
一方その頃、別の
そこは自然の山々と田んぼに囲まれた田舎風景であり、そこに設けられた一つの屋敷だった。
そして屋敷の庭先を眺めるように、意識を覚醒させた
「――……ここは……儂の屋敷か……!?」
そして状況が分からず庭先に出ながら身構えていると、屋敷の中から声を掛けられた。
「――……親方様、どうなさいました?」
「
声の主が
するとそこには美しい着物姿でありながら、見慣れぬ赤子を抱き持つ
それに驚愕する
「
「それは、とは何ですか。……この子は、私と貴方の
「……馬鹿な……」
記憶に無い赤子を見せられ、
そんな
「御酒でも飲んでいたのですか? 酔って
「い、いや……。……だが、そんなはずは……」
「――……師匠!」
「……
そうして話す二人の間に、元気の良いもう一人の声が加わる。
それは
稽古用の
「はぁ、はぁ……。……や、山を十周……して来ました……!」
「遅いです。二刻半も掛かっているではないか」
「ま、前より速いですよねっ!?」
「私であれば
「む、無茶だぁ……!」
そんな二人のやり取りに既視感を感じる
すると
それを聞いた
「親方様、この子を抱いてやってください」
「!?」
「
「……!」
言われるがまま抱き渡される赤子に、
そして白い布に覆われる赤子の顔を見た
まるで
その感覚が自然に
そして微笑む
「貴方と私の、大切な子です。大事に抱えてください」
「……
「もう少し、この子が大きくなったら。四人で一緒に都へ行きましょう。……そして、ナニガシ様にも伝えましょう。大事な子が、二人も出来た事を」
「……!」
微笑む
それは
こうして
始めこそ違和感を持つ者がいながらも、夢と現実の区別を付け難いその景色は、瞬く間にそれを夢見る者達に安らぎを与えていった。
しかし、その
その一人が、過去に同じ
「――……やはり、こういう事か。……ウォーリスめ、まさか
自分の理想郷に居ながらもそこが現実ではない事を知る『青』は、意思を保つ姿を見せる。
それに抗う為に自らの錫杖を振るいながら魔法を行使しようとしながらも、それを果たせずに苦々しい面持ちを浮かべていた。
「やはり、魔法は無理か。……例え自分だけ意思を保てたとしても、
そう言葉を漏らす『青』は、
それは悲しき現実を否定したい者達が、受け入れたい
すると『青』の危惧は、現実の世界においても影響を及ぼす。
『
また太陽とは異なる赤い光が世界に満ち始め、それ等が下界で暮らす者達を照らし始めた。
人間大陸に居る者達も、その赤い光に照らされた世界に意識を飲み込まれる。
何が起こったのかも分からぬまま世界に満ち照らす赤い光によって、生ける者達は強制的に
こうしてウォーリスの計画により、全ての世界は赤い光に浸蝕される。
そして
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